平成13年2月定例会 第9回岩手県議会定例会会議録

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〇12番(阿部静子君) 社会民主党の阿部静子でございます。
 受理番号第44号の岩手県における小・中学校の教科書採択制度の改善を求める請願の採択に反対の立場で意見を申し述べます。
 教科書は、学習の主体者である子供たちにとって文化との出会いの場であり、次代への夢をはぐくむ大切な人生の道しるべでございます。そして、それは真実を記したものでなければなりません。
 私は、昭和8年生まれでございます。戦前、戦中、戦後の教育を受けた希少な世代でございます。当時の教科書は国が編さんした国定教科書だけで、採択制度はございませんでした。その教科書を貫いていた理念は、日本よい国清い国、世界に一つの神の国、日本よい国強い国、世界に輝く偉い国に象徴される皇国史観による国家主義の教育でございました。まさに日本の母親はすべて軍国の母であり、私たちは軍国の少年、私も軍国の少女として育てられました。そして、国家主義教育は、国定教科書によって軍国主義をあおり、忠君愛国の精神を醸成し、国に準ずることが正義であり、美徳であると教え込みました。私たちは疑いませんでした。そして、多くの有為な青少年が戦場に散っていきました。また、多くの人たちが戦いの犠牲になりました。
 昭和20年の敗戦によって日本の教育は変わりました。私たちは教科書に墨を塗りました。教えられた教科書の真実は、実は真実ではなくなったのです。教師たちはどんなに悩み、どれほど悔やんだでしょうか、国のために死ぬことが美徳であり、名誉であると教えたことを。
 日本は、自国や他国に対して多大な犠牲を強いた太平洋戦争を深く反省し、平和憲法を、また、教育基本法を制定しました。教育基本法第10条には、教育は、不当な支配に屈することなく、国民全体に対し直接に責任を負って行われるべきであると述べられております。このことは、教育は、あらゆる政治的圧力から侵害されることのない自由を持つということを意味しております。
 そこで私は、今回の本請願の内容と提出の意図について、その背後に働く力に対して危惧の念を抱かざるを得ないのであります。それは、時あたかも、教科書の記述や採択制度のあり方について疑義を唱える新しい教科書をつくる会なる団体が全国に支部組織をつくり、教科書採択に大きな圧力を加えようとしているからです。
 また、県議会に提出された請願は、本県教育委員会が市町村教育委員会に対して不十分な指導を行ってきたかのような表現であり、本県教科書採択制度の不備をつくものと言えます。しかし、本県は、現場教員の熱心な調査研究と専門的な見地から、指摘されるような問題点が生じているとは聞いておりません。私は元中学校の国語教師でございましたが、私が使用した教科書の特に文学教材の中に、吉野弘の夕焼け、魯迅の故郷など、まさに子供たちの人生の道しるべとなり得る教材でありました。私は、この教科書を採択してくださった方々に今でも感謝いたしているところでございます。
 平成2年の文部省通知以後も教科書採択改善に向けた努力は継続されてきており、請願の内容は、本県の実情を正確に把握されないまま提出されているものと考えます。
 過日、請願を採択するといたしました商工文教委員会においては、教科書採択制度に係る現状認識を委員各位の間で十分研究し、理解し合うには、時間が短く、もっと議論を重ねるべきだと私は思っております。私は、提出者がさきに述べましたつくる会とかかわりがあるのかどうかを委員長にお尋ねいたしましたが、委員長は、かかわりがないというお答えで、確認をいたしました。そこで私は、提出者に直接提出の意図を伺いたい旨を申し出ましたが、かなえられませんでした。
 私は、教科書問題が全国的にも国際的にも重要な政治課題に発展してきている今日、本議会が拙速な結論を出すべきではないと考えております。教科書は、地域や子供たちの実情に応じ、指導する教師みずからが、しっかりとした観点のもと、教材として適切であるかどうか十分調査、研究した上で選択すべきもので、文部省も採択を学校現場段階まで小規模化しようとしております。また、教科書採択にかかわっての過当な宣伝行為を戒めております。
 最後に、近隣諸国との友好関係を阻害し、日本がこの教科書問題によって国際的に孤立しないためにも、また、本県の子供たちに豊かな未来と正しい認識をはぐくむ教育活動を保障するためにも、歴史的事実をねじ曲げようとする一部勢力の動きには、本議会としても十分注意していかなければならないと考えるものでございます。そして、さらに、この請願の採択がこのようなつくる会の勢力の運動拡大の足がかりにならないことを念じつつ、私の討論を終わります。(拍手)
〇議長(山内隆文君) 次に、斉藤信君。
   〔23番斉藤信君登壇〕

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