平成13年9月定例会 第11回岩手県議会定例会会議録

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〇10番(佐々木順一君) 自由党の佐々木順一であります。
 私は、自由党を代表し、ただいま議題となっております、発議案第9号米国における同時多発テロ事件に関連しての有事法制の推進反対についてに対し、反対の立場から討論を行うものであります。
 本発議案は、一見、正論のように聞こえますが、冷静に考えてみますと、テロ根絶に向けての実効ある意見の表明が全くないことをまず指摘したいと思います。現実政治の中で、実効性がないということは、結果的にテロに屈したことになり、次のテロ行為を誘発させるおそれが多分にあることも強調しなければならないと思います。今、政治に求められていることは、邦人を含め一般市民を無差別に殺りくしたテロという暴力を断固許さないという戦いであるとの冷厳な認識を持つことであります。同時に、この認識に立って、国際社会と協力して、首謀者と実行犯を捕らえ、法に照らし裁き、もって、世界に拡散していると言われるテロリズムを一刻も早く根絶せしめるための現実的手だてを講ずることにあります。
 また、本発議案では報復によって報復の連鎖がもたらされることを懸念しておりますけれども、相手は銃武装した集団であることから報復と理解することは誤りであり、テロ根絶に向けての対抗措置及び正義の制裁と解釈すべきであります。一般的に人間社会では、秩序を維持、回復するためには、力による抑制というものが存在します。
 例えば、今この本会議場に凶器を持ったある組織を構成する乱入者があったとします。議会としては、報復が恐ろしいから、話し合いで退場を促すということにはならないと思います。即、議長は、議事整理権を行使、衛視、職員もしくは警察力によって、乱入者を強制排除することになると思いますが、乱入者の行動いかんによっては、制裁的排除も当然考えられますし、身柄拘束の後、乱入者は、法の定めるところにより、改めて制裁を受けることになります。
 今回のアメリカを含む国際社会の自衛権の行使は、まさに秩序を維持するためのテロ根絶を求めた実効性のある対抗措置及び正義の制裁であり、しかも国連の決議を受けての行動であることから、正当性は確実に担保されております。
 なお、自衛隊法等の改正につきましては、我が党は、現行法の治安出動で可能であるとの判断であることから、その必要性はなしとの考えであります。
 次に、我が党の安全保障政策の基本方針に基づき有事法制の必要性について申し上げます。
 湾岸戦争・危機以降、平成10年のミサイル三陸沖着弾事件、翌年の不審船に対する警告射撃事件、あるいは海賊船の出没など、我が国の安全を脅かす事態は不断に続いております。一昨年成立した周辺事態法の審議でも争点となりましたが、その都度、自衛隊の対応のあり方が論議されました。そして、今国会に本日提案されました、いわゆるテロ対策特別措置法における事前の論争にも見られるように、自衛隊の派遣をめぐって、相も変わらぬ文章解釈を含めた技術論争、神学論争が行われております。我が党は、以前から国の主権と国民の生命、財産を守るためには、憲法の理念と日米安全保障条約の精神に基づき、自衛隊派遣の原理、原則を定めた安全保障基本法を制定し、特に有事の際に自衛隊等関係機関が超法規的な行動をとることのないよう、有事法制を定めるべきと一貫して主張してきております。
 また、今回のテロ問題に対する我が党の見解は、国連憲章と国際法に基づいて、テロの犯罪者と犯罪行為を組織、支援した者の身柄を拘束し、法に照らし厳正に裁くことを表明、そのため我が国は、国際社会と協力し、あらゆる努力を尽くさなければならないとの考え方に立っております。同時に、国際紛争を解決するための武力行使にかかわる自衛隊の派遣は、国連の決議、すなわち安全保障理事会、もしくは総会における決議により、その武力行使が容認された場合のみに限られるべきと主張しておりますが、武力行使と一体化する可能性が極めて高い、あるいは一体化しているとも言える自衛隊の派遣を含む今回の政府のいわゆるテロ対策特別措置法の内容は憲法解釈に反することでもあり、そしてまた、場当たり的で、無原則、なし崩し的対応そのものであります。したがって、この法案の正当性を担保するためには、まず政府の憲法解釈を改めることから入らなければならないことは、今や、伝統的保守政治を志向する関係者を初め、大方の識者の見解になっております。
 すなわち主権国家固有の集団的自衛権は有しているが、憲法の制約によりこれを行使しない。国連の武力行使容認決議があっても、集団的自衛権の行使は、憲法上認められないという政府の憲法解釈を改めることから議論を始めるべきであります。憲法上の法的根拠が不明確なまま自衛隊派遣の議論を行うことは、敗戦に至る昭和史の教訓や10年前の湾岸戦争・危機における反省が、今もって全く生かされていないということを指摘したいと思います。
 一般政策上の判断ならともかくも、国の安全保障の問題、とりわけ、自衛隊といういわば軍事力を動かす行為は、政治の究極の判断であります。法的根拠を得るために立法化を目指すようなテクニカルな問題ではなく、憲法解釈を含め根本的かつ本質的問題に、国政が正面から立ち向かい、厳密に議論し、そして政治の責任において原理、原則を含む結論を確立し、その上に立って、厳格に対処すべき性質の問題であると考えるものであります。国際テロ組織に対する今回の国際共同行動は、これまで想定されなかった新しい事態であることから、従来の憲法解釈に固執して、非現実的論議を繰り返すような愚は、今度こそ避けるべきであります。
 今回の事態を奇貨として、20世紀に人類が引き起こした戦争という数々の悲劇を繰り返さないためにも、国政が未来志向で、憲法9条の理念を継承しながら、旧世紀の戦争観を越えた新たな安全保障の概念に基づく原則を一刻も早く創造し、もって我が国が憲法前文で定めている国際社会において、名誉ある地位を占めたいとの崇高な目標に向かって、力強く前進することを期待するものであります。
 このような観点に立ち、私は本発議案は採択すべきではないと考えるものであります。
 以上、我が党の見解を申し上げ、議員各位の御賛同を心からお願いを申し上げ、反対討論といたします。御清聴ありがとうございました。(拍手)

〇議長(谷藤裕明君) 次に、斉藤信君。
   〔23番斉藤信君登壇〕(拍手)


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