令和6年6月定例会 第5回岩手県議会定例会会議録

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〇15番(上原康樹君) 希望いわての上原康樹でございます。通告に従い質問させていただきます。よろしくお願いいたします。
 達増知事のX―旧ツイッターを拝見しておりましたら、この様な発言をされていました。人口減少が問題となっているが、適疎という見方もあってよいのではないかというものでした。適疎、つまり、ほどよい少なさという意味になるのでしょうか。少子高齢化、とまらない人口減少で地域の行く末が心配される中、いささか意外な言葉、物の捉え方に感じました。厳しい現実を前に、果たして受け入れられるのかどうかと危惧したわけですが、知事が提示された適疎という言葉と岩手県政のかかわりについて御説明ください。
   〔議長退席、副議長着席〕
 都会は過密、地方は過疎という対極の課題がある中で、その中間、ほどよい人口、住民の数とは一体どのようなもので、それが地域のよりよい状態、よりよい未来にどう反映されるのか、とても漠然とした概念です。しかし、私事ではありますが、四半世紀前、岩手県盛岡市に永住を決心した者として、その理由を思い返してみれば、適疎という言葉が鮮やかによみがえるのです。都会の過密とは無縁の静けさや穏やかさは、Iターンを決心させるに十分な要素でした。
 25年前、ゆとりのある街を行き交う人々に都会のような他人への無関心や冷たさもなく、何か困ったことがあればそっと助けてくれるという安心感がありました。何よりほどよい人と人の間合いは、かえって濃密な交流を生み出し、地域のぬくもりとなっていました。過密な人々の中で、個人の存在が埋没してしまうことのない岩手県なのでした。
 人と人が適度に離れているから、真に人は人を求め、精神的に距離を縮め、きずなを深める。そのように自分自身の存在意義を知り、ほかの誰かの力になろうと前を向く。社会のあり方として、岩手県はまことによろしいところだと実感しました。
 人口減少に歯どめをかけるための対策は、大きく重い課題ではありますが、ただ人口をふやすためだけに奔走するだけでは、静かで穏やかでやさしい岩手県の地域社会のことが置き去りにされるのではないかと心配にもなります。
 先日、タクシーのベテランの運転手の方がこんな話をされました。ニューヨークタイムズ紙の報道で見なれないにぎやかさの中で、盛岡市が盛岡市ではなくなっていくような気がすると。盛岡市を長年見つめ続けてきた方の皮膚感覚、直感でした。
 とはいえ、急速な人口減少にブレーキをかけ、社会の活力を維持することは必要です。過密を避け、過疎を避け、ほどよい岩手県の地域社会の実現に向けて、そのハンドルさばきは注目されるところです。ほどよさとは何か、それを目に見える形にする政策とは何か、知事のお考えをお聞かせください。
 以下の質問は、質問席で行わせていただきます。
   〔15番上原康樹君質問席に移動〕
   〔知事達増拓也君登壇〕
〇知事(達増拓也君) 上原康樹議員の御質問にお答え申し上げます。
 まず、適疎と岩手県政についてでありますが、人が住めない山岳地帯などを除いた可住地面積1平方キロメートル当たりの人口密度について、有識者の分析によりますと、日本全体で1、109人のところ、都道府県で3番目に低い岩手県では345人ですが、最も高い東京都は9、529人となっており、イギリス289人、イタリア297人、ドイツ346人と比べて、東京都が世界的に見ていかに過密の状態であるかが示されています。
 こうした客観的なデータを踏まえて、有識者からは、日本の地方は決して過疎、つまり、人口がまばら過ぎるという状態ではなく、むしろ、世界的に見れば適疎、人口が適度にまばらな状態である旨の指摘がなされております。
 この適疎という言葉は、東京都を基準にして地方を過疎であると見る先入観を覆すとともに、消滅可能性自治体という言葉に過度に悲観的にならず、冷静に現実を捉えることの大切さを提示する言葉ではないかと考えます。
 適疎と表現される人口密度の状態は、過密に起因するさまざまなリスクやコスト、不安から人々を解放するという点で、人間本来の豊かな暮らしを可能にする基礎的条件の一つであるといえ、岩手県にはその条件があるということであります。
 県としては、そうした大都市にはない本県の特性も踏まえながら、人口減少対策や医療、教育、公共交通、産業振興など、さまざまな県政課題に取り組んでいくことが重要であると考えます。
 次に、人口に係る政策についてでありますが、岩手県人口ビジョンでは、少子高齢化により、今後、一定程度人口減少が進む見通しとなっており、地域産業の労働力不足や生産量の低下、利用者の減少に伴う地域公共交通への影響、少子高齢化の進行による地域コミュニティー機能の低下など、県民生活へのさまざまな影響が懸念されています。
 このため、有配偶率と有配偶出生率の向上、多様な雇用の創出や労働環境と所得の向上など、自然減、社会減対策に取り組むとともに、人口減少下においても地域の社会経済システムが維持できるよう、デジタル化による産業、経済の強化、コミュニティー、公共インフラ等の維持、存続対策など、人口減少を見据えた対策を並行して進めているところであります。
 また、地方の価値や魅力を全国や世界に広く発信するとともに、県民にフィードバックすることが地元の価値の再認識につながり、若者の定着にも好影響が期待されることから、交流人口、関係人口の拡大に向けた取り組みを進めております。
 このような取り組みを通じ、人口減少の背景にある生きにくさを生きやすさに変え、岩手県で暮らす県民だけではなく、さまざまな形で岩手県とかかわる一人一人の、岩手県をベースとした自由な自己実現をかなえることが地域の自然や文化、経済、生活環境が調和した持続的な発展、つまり、ほどよさにつながっていくと考えますことから、こうした一人一人の希望を実現できる岩手県を目指したいと思います。
〇15番(上原康樹君) 知事、ありがとうございました。人口は数値の上では減っていく。けれども、その中で、政策によって一人一人の思い、希望というものがよりくっきりと立ってくるという社会になれば、これは適疎という言葉にも説得力があると思いました。
 しかし、立ちはだかる現実、若い人、とりわけ女性が人生を見通すことができる場所、岩手県であることは言うまでもありませんけれども、同時に、都会では絶対に得られない幸福がここ岩手県にはあるという発信を続けることも必要かと今、思いました。理想の実現は現実の戦いの果てに待っているものだと思います。
 次の質問です。国際交流について伺います。
 達増知事は5期目に入って、ますます海外の国々や地域との交流を進めています。これまでは台湾や中国などが中心だったと承知しておりますが、ことし2月、シビ・ジョージ駐日インド大使が知事を表敬訪問し、岩手県とインドの交流を進めることで意見が一致したと伺っております。
 インドと言えば、人口は世界最大の14億人余り、経済分野では高い経済成長を維持し、そのGDP―名目国内生産は令和7年には日本を抜き世界第4位に、令和9年には第3位になると言われています。また、BRICSという第3の勢力として、経済的に大きな存在感を示しており、将来的にアメリカや中国と対等、あるいは、それ以上の力を持つのではないかという見方もあるほどです。
 このようなインドの将来を見据えて、岩手県としても経済分野のみならず、総合的な交流を図っていくことは意義のあることだと思います。このインドと日本の将来的な関係、そして、インドと岩手県の交流に、知事はどのような構想のもとに臨まれているでしょうか。
 日本の一地方、岩手県をインドはどのように理解し、交流しようとしているのか、それに対し、岩手県はどう向き合い、互いに実りのある関係構築のために何ができるのか、具体的にお話しください。既にプロジェクトの動きがあればお聞かせください。
〇知事(達増拓也君) インドはいわゆるグローバルサウスと呼ばれる新興、途上国の代表格であり、上原康樹議員御指摘のとおり、経済的にも政治的にも、国際社会の中で無視できない巨大消費市場としても大きな可能性を有する国であると認識しております。
 本年2月にシビ駐日インド大使が岩手県庁を表敬訪問され、翌3月には私が南部藩と縁のある大使公邸にお招きいただきました。シビ大使は、本県の自然の豊かさや歴史の深さを評価するとともに、日印関係において地方自治体が重要であると示されたほか、本県の強みである半導体産業にも強い関心を示され、ビジネス面での関係を築いていきたいとの意向が示されました。
 インドには県内に立地しているものづくり企業が進出しているほか、本年11月には北上工業クラブが視察団を派遣する予定であることから、こうした状況を踏まえて、まずは、輸出入環境及び市場動向などの実情把握に努めたいと考えております。
 その上で、ものづくり企業の海外展開や地場産品輸出、インバウンド等を通じた産業経済分野を中心としたさまざまな可能性について検討し、交流の促進に向け、駐日インド大使館とも連携しながら、互恵的な協力関係の構築に向けて取り組んでいきたいと考えております。
〇15番(上原康樹君) 次は、中国との交流です。知事がことし5月下旬、中国を訪問しました。その訪問の狙いと成果について伺います。また、中国経済の成長にも陰りが指摘されるようになっている昨今、県では中国の、それも岩手県の事務所を置く大連市や雲南省をどのように見ているのか、これからの好ましい交流はどうあるべきかお聞かせください。
〇企画理事兼商工労働観光部長(岩渕伸也君) 去る5月の中国訪問を通じて、大連市、遼寧省の幹部と会見し、今後の交流についての協定等を交わしたほか、知事においては、大連アカシア祭りの開会式に日本の自治体を代表して参加するとともに、大連市栄誉公民の授与を受けたところでございます。
 また、上海大可堂を初めとした現地パートナー企業の方々との面会による経済、観光交流の推進を図り、上海大可堂が進めている大規模リゾート施設プロジェクトにおいて、岩手県産品のPR、販売促進など、多様な形で参画していくことを確認したほか、上海定期便の運航再開に向けた要請などを行ったところでございます。
 中国の二つの事務所を起点とした交流につきましては、これまでも両国の経済や政治情勢などの影響を受けながら、現在の有効関係を構築してきており、中国は、現在も日本にとっての最大の貿易相手国であり、14億人余の人口を有する大きな隣国でございます。
 こうした中、大連市、遼寧省は、日本とのかかわりが深く、多くの自治体が現地事務所を有して中国との交流の足がかりとしており、また、雲南省は東南アジアに接し、これらの国々へのゲートウェイの役割も期待しているところでございます。
 本県は、中国との交流に不可欠となる地方政府とのつながりを確保するため、それぞれの事務所に、岩手県と中国地方政府のパイプ役となる人材を配置しており、こうした強みを発揮した交流をさらに高めていきたいと考えております。
〇15番(上原康樹君) 中国とともに、台湾について県のお考えをお聞きします。
 御承知のとおり、中国と台湾の緊張状態が高まっています。そのような中にあって、岩手県と台湾の交流はどうなるのでしょうか。どうあるべきとお考えでしょうか。
〇ふるさと振興部長(村上宏冶君) 岩手県と台湾は、先人たちの活躍による古くからのつながりがあり、また、東日本大震災津波の際には多大な御支援をいただくなど、深い交流を重ねてまいりました。
 さらに、台湾からの観光客は、本県の外国人宿泊者数のうち最も多くを占めており、いわて国際戦略ビジョン(2024〜2028)におきましても、外国人観光客の誘客拡大における最重点市場と位置づけております。
 このような中、いわて花巻空港と台湾を結ぶ国際定期便が令和5年から再開し、今後、両地域の発展と、さまざまな分野におけるさらなる交流が期待されているところでございます。
 上原康樹議員御指摘のとおり、台湾を取り巻く環境は日々変化しておりますが、そのような中にありましても、基本的に本県と台湾の関係が変わることはないものと考えておりまして、定期便再開を契機とし、さらに効果的なプロモーションによる誘客拡大に取り組んでいくほか、本県の農林水産物を初めとする県産品の販路拡大など、今後におきましても、さまざまな分野における台湾との交流促進に取り組んでいきたいと考えております。
〇15番(上原康樹君) さて、達増知事は先週、中国で開催された夏季ダボス会議に出席されました。ダボス会議は、正式には世界経済フォーラムの年次総会、通称ダボス会議です。世界最高峰のリーダーたちが今の国際的な課題を議論する場です。
 県民としては素直に誇らしく思いますが、知事はなぜ御自身が夏季ダボス会議に招かれたのか、その認識をお聞かせください。
 また、この会議で世界に向けて強調したことは何か。同時に、その発言の中で、岩手県の未来を見据えた発信はできたのか、お尋ねします。
〇知事(達増拓也君) 今回の大連夏季ダボス会議への参加は、大連市栄誉公民を受賞したことを契機に、世界経済フォーラム及び大連市から招待を受けたものでありますが、長年にわたり積み上げてきた本県との友好交流が栄誉公民の受賞につながり、今般の夏季ダボス会議における日本の地方自治体からの特別な招待者としての参加という形に結実したものであり、県が取り組んできた国際交流の大きな成果と捉えております。
 現地では、大連市や遼寧省のトップと会見し、今後のさまざまな分野での連携について意見交換を行ったほか、主催者の社会経済フォーラムのミレク・デュセク・マネージングディレクターと面会し、本県について発信や意見交換を行いました。
 ダボス会議と夏季ダボス会議の責任者であるデュセクディレクターとは、ニューヨークタイムズ紙による盛岡市の高い評価を踏まえ、地方都市にこそ真の豊かさがあるとの認識を共有するとともに、世界経済フォーラムが主張しているイノベーション性、インクルーシブ性、持続可能性、強靱性とともにある経済成長という目指す姿は、いわて県民計画(2019〜2028)と同じ方向性であり、地方に適しているとの認識を共有したところであります。
 さらに、東日本大震災津波からの復興の取り組みは、自然災害に限らず、世界で起こるさまざまな災禍からの復興に応用できると評価され、岩手県がこうした面で国際的に貢献できるとの意を改めて強くしました。
 夏季ダボス会議においては、こうした関係者や、特別招待された日本人の若者など、招待者や参加者との意見交換、現地メディアの取材などを通じて、岩手県が持つ魅力や価値、知見、世界経済に貢献する可能性を発信したところであります。
 このような国際会議の場で、知事がみずからの言葉で世界のリーダーに語りかけていくことは、岩手県の認知度を高めることに極めて効果的であり、岩手県がインバウンド、経済交流の推進に加え、さまざまな分野における国際貢献を果たしていけるよう、今後とも積極的に取り組んでまいります。
〇15番(上原康樹君) 岩手県が知らない世界はまだまだあるはずです。これまでの歴史の中で、日本は特定の枠組みの中からしか世界を見なくなってしまってはいないか、心配しております。真の国際交流に向けて、新たな風景を求め、広く世界へこの岩手県を自信を持って発信し、対話することが求められています。知事、フィールドは無限です。どうぞその先へ。
 次の質問です。地方自治法改正による指示権の拡大について伺います。
 去る6月19日、改正地方自治法が国会で可決成立しました。これは国民の安全に重大な影響を及ぼす事態を理由に、国の自治体に対する指示権を拡大するというものです。
 指示権、国が地方自治体に対して対応を指示できる強い権限です。地方自治法では、従来、国と地方自治体の関係は対等で、国の自治体へのかかわり方を見ますと、自治体の事務について、こうしたほうがよいのではと提案する助言、勧告や、情報提供を求める資料提出の要求といったかかわり方でした。その基本姿勢は、専門用語では謙抑―前に出ず控えめにというスタンスであったはずです。そこに法的な拘束力はなく、自治体は従わなくても構わないという解釈でした。
 しかし、指示となれば拘束力があり、自治体が従わなければ違法行為と判断される可能性があります。現行制度では、自治体に具体的な対応を指示する規定は災害対策基本法や感染症法など、個別の法律で定められています。そうした個別具体の枠を一足飛びに超えて国の権限を押し広げた今回の地方自治法改正、指示権の拡大は、国の地方に対する伝家の宝刀、ほぼ絶対命令とも言えるもの。今までとは全く異なる国と地方の力学の発生です。
 県はこの状況を迎えるに当たり、どのような課題意識を持ち、国の指示に向き合うおつもりでしょうか。知事のお考えを伺います。
〇知事(達増拓也君) 指示権の拡大についてでありますが、国民の安全に重大な影響を及ぼす事態では、速やかな国の行動が求められる場合だけではなく、地域の状況に応じて地方自治体が対応すべき場合が想定されます。
 このような中、国の指示権については、指示が現場の実態に合わない場合や、地方自治体の権限を強化したほうが効果的な場合も想定されることから、平時から国と地方自治体の役割を整理した上で、個別の法令ごとに非常事態を想定し、対応できるよう規定を整備するべきと考えます。
 また、国民の安全に重大な影響を及ぼす事態が発生した場合には、まずは何にどのように対応する必要があるのか、国と地方自治体が情報共有など連携を密にし、ともに取り組んでいくことが重要であると考えております。
 こうしたことから、全国知事会においても、繰り返し、事前に十分に必要な調整を行うことや、協議、調整を行う運用の明確化を求めているほか、衆参両院の附帯決議においても事前調整を求めていることから、引き続き、国に対し、全国知事会等とも連携し、強く働きかけてまいります。
〇15番(上原康樹君) 一たび事が起きれば、地方自治体は動きます。走ります。それが地方自治体の本能です。ですが、国の指示権を拡大させる新しい地方自治法により、地方自治体の職員がみずから動く気持ちを失い、待ちの姿勢になってしまわないか懸念されるところでもありますが、どうでしょうか。
 緊急事態は現場で発生するものです。その現場を知り抜いているのは地方自治体です。関係する自治体が連携し、知恵を出し合い、力を合わせる、現場の底力です。改正法の後も大災害や感染症の蔓延など、非常時における自治体同士の連携、主体的な取り組みが最後には求められるものだと思いますが、県のお考えを伺います。
〇復興防災部長(福田直君) 自治体間の連携は、平時に限らず非常時においても重要であるところ、災害対策基本法では、自治体相互の協力が努力義務とされており、全ての都道府県が参画する災害時応援協定も締結されております。
 東日本大震災津波においても、全国各地の自治体から人的、物的支援が寄せられたほか、令和6年能登半島地震においては、本県内から延べ600人余りの職員を派遣して応急対策に当たり、現在も14人の県職員を中長期で派遣して、被災地の復旧、復興を支援しております。
 また、感染症対策においては、医師や看護師などの医療人材の確保が欠かせませんが、それが逼迫した場合、他の都道府県から応援派遣を求める規定が感染症法に新たに設けられたところであり、ここでも自治体相互の協力が重視されております。
 今後も自治体間の連携を図りながら、自然災害や感染症などの危機事象に対応してまいります。
〇15番(上原康樹君) いずれにせよ、世界は予測不能の出来事の連続です。非常事態に備え、国はもちろん、県も絶えず過去の経験から学び、次の対策を想定し、準備すること。特に、国は自治体の体力や気力、能力、財政を含めてサポートすることが求められています。国と自治体が迅速に協力できる信頼関係の構築こそが必要ですが、県のお考えを伺います。
〇復興防災部長(福田直君) 自然災害や感染症などの危機事象への対応については、国、県、市町村で役割分担がなされる中、情報共有や意思疎通を図りながら、連携して対応することが重要と考えております。
 東日本大震災津波においては、政府に緊急災害対策本部が設けられるとともに、本県には政府現地連絡対策室が設置され、政府と被災自治体が一体となって災害応急対策を的確かつ迅速に実施する体制が築かれました。
 新型コロナウイルス感染症対策についても、各種情報システムで政府、自治体間の情報共有が図られるとともに、都道府県の幹部と政府職員との間で一対一の連絡体制が構築され、感染症対策のための連携調整が図られたところです。
 現在は令和6年能登半島地震を踏まえた今後の災害対応を検討するワーキンググループが政府に設置されており、現場で対応する自治体からのヒアリングが予定されております。
 今後も政府との情報共有や意思疎通を十分に図りながら、自然災害や感染症などの危機事象に対応してまいります。
〇15番(上原康樹君) 地方自治法改正の大前提を確認しておきます。国は絶対に判断を誤ることはない、政府は常に正しいという前提でございます。現状のあれこれを見る限り、県におかれましては、どうか御油断なくと申し上げておきます。
 次です。時代の変化を踏まえたこれからの県職員像について伺います。
 県の知事部局の職員は4、211人。県庁の職員は日々、県民生活を支えています。また、東日本大震災津波からの復旧、復興、新型コロナウイルス感染症といったさまざまな危機への対応など、職員にとっては厳しい試練の連続だとお察しいたします。それを乗り越えてこられた執行部の皆様には深く敬意を表するものでございます。
 このような中、今後起こり得る危機への対応やさらなる県政の発展のためには、県職員の人材育成や組織の活性化、厳しい環境に置かれる職員のケアなどが必要となってくると考えられることから、以下、質問をさせていただきます。
 少子高齢化、人口減少、働き方改革など、大きな課題を抱えながら、多様化、複雑化する県民ニーズに応えるため、県の職員にはさまざまな能力が求められています。このような状況の中、県では、組織力の最大化に向けた個々の職員のキャリア形成に関し、どのような基本方針で取り組んでいるか伺います。
〇総務部長(千葉幸也君) 県では、いわて県民計画(2019〜2028)において、行政経営の基本姿勢の一つとして、高度な行政経営を支える職員の能力向上を掲げ、県政全般を俯瞰し、県民視点で県全体の利益を追求する職員の育成を図ることとしております。
 このため、職位別研修等の体系を整備し、長期的な育成プログラムによる職員の能力開発を促進しているほか、複数分野の業務や全庁にかかわる企画業務を経験させるなど、計画的な配置を行い、視野の拡大と資質の向上を図るとともに、外部研修への派遣などにより専門性の向上にも努めております。
 県では、高い専門性と多様な創造性を持って県政課題に対応し得る職員の育成を進め、職員一人一人のキャリア形成を促進してまいります。
〇15番(上原康樹君) さまざまな分野を経験することで、幅広い知識や経験、技術を有するオールラウンダーな人材、いわゆるジェネラリストが育成される一方、一つの分野を極めるスペシャリスト、専門的な人材が不足しているようにも感じられます。高度化、複雑化する県民ニーズに応えるためには、一つの分野に精通したスペシャリストの存在が鍵を握るように思いますが、専門性の高い人材の育成について、県はどのように考えているかお聞かせください。
〇総務部長(千葉幸也君) 高度化、複雑化が進む県政課題に対処するためには、多様な行政分野を経験し、広い視野を有する職員に加え、特定分野における豊富な知識や経験を有する専門人材の確保、育成が必要です。
 このため、県では、民間の職務経験者向けの採用を複数回実施し、国際分野やIT等の専門人材の確保に努めているほか、今年度から、県北・沿岸地域に勤務地を限定した採用を実施することとし、地域事情にも精通した人材の確保、育成を進めることとしております。
 また、事務職の中でも、特に専門性を必要とする税務や用地などの分野では、職員の希望も踏まえながら同一分野での配置を行っているほか、企業誘致など継続性が求められる分野では、必要に応じて異動基準となる期間を超えて配置するなど、柔軟な対応を図っております。
 さらに、大学院等への派遣による専門職員の育成も行っており、こうした取り組みを通じて、高度な行政経営を支える職員の確保や、能力向上の充実強化を図り、専門性の発揮による県政課題の解決につなげてまいります。
〇15番(上原康樹君) 自治体の職場においても、過密、過重労働によって精神疾患や体調不良に悩まされる職員もいると聞いています。頻繁な配置転換、異動、公務員は新たな職場に配置された場合でも、それまでと変わらない質の行政サービスの提供が求められますが、経験の浅い職員に負荷がかかったり、結果として、経験豊富なベテラン職員に業務が集中したりするというおそれはないでしょうか。
 働きやすい職場環境の実現に向けて、どのような対策を講じているか伺います。
〇総務部長(千葉幸也君) 上原康樹議員御指摘のとおり、特定の職員に過度な負担が集中することは、職員の心身の不調を招くだけでなく、組織全体の業務運営にも支障を来すおそれがあることから、未然防止に向けた対策が必要と認識しております。
 このため、県では、業務支援の活用等による業務の平準化や、初めて本庁勤務となる若手職員への支援担当職員の配置等により職員の負担軽減に取り組んでいるほか、管理監督者については、マネジメント研修の実施により職場運営スキルの向上を図るなど、特定の職員に負荷が偏らないよう全庁的な取り組みを進めております。
 さらに、今年度から、新たに各広域振興局に健康サポート専門員を配置するなど、相談支援体制を強化したところであり、職員のメンタルヘルス対策の充実も図りながら、職員が明るく生き生きと働くことができる職場環境の実現に向け、不断に取り組んでまいります。
〇15番(上原康樹君) ジェネラリスト、それからスペシャリストに加えて、近年はもう一つの職員タイプ、地域限定、エリア限定の職員という職員像をイメージして動き出しています。今もお話にありました。県北・沿岸地域をモデルケースとする取り組みが始まろうとしているわけですが、このエリア限定職員に対する処遇というのはどうなるでしょうか。異動が一地域に限定されると、その異動のサイクルにも変化が起きて、ひょっとすると処遇が不利に働くようなことはないでしょうか。お聞かせください。
〇総務部長(千葉幸也君) 処遇については、基本的に変わりないものと考えております。公務員の給与体系で申し上げると職務給の原則ということになっておりまして、行政職でいえば1級から10級において、どういう役職の人がどの級かということが決まっておりますので、それぞれどこに配置されても、その役割によって待遇については変わらないもの、それから、服務環境においても、特段変わりはないものと認識しております。
〇15番(上原康樹君) 私もエリア限定、岩手県にこだわって働いてきた人間として、その一点、心配させていただきました。
 最後に、広い岩手県の中にあって、地域の顔になれる職員がいることになれば、県民と県政の距離は近くなり、リアルになるのだろうと思います。そのためにも一人一人の県職員の方の人生、思い、生きがい、そして、処遇についても大切にしてくださるようお願いいたします。
 次のテーマです。部活動の地域移行について。
 学校の部活動の地域移行について、県のお考えを伺います。部活動の地域移行とは、これまで学校教員が担ってきた部活動の指導を市町村や地域のスポーツ、芸術団体などに担ってもらうことです。その背景には、児童生徒のニーズが多様化する一方、生徒の減少に伴う部活動メニューの縮小への対応や教員の負担軽減などが挙げられます。
 令和4年12月に、国においては学校部活動及び新たな地域クラブ活動の在り方等に関する総合的なガイドラインが策定されました。地域移行は既にモデル校で試行的に取り組まれていますが、公立中学校の休日の部活動については、令和5年度から7年度までの3年間を改革推進期間と位置づけ、地域移行に段階的に取り組み、可能な限り早期に実現することを目指すものとされました。
 岩手県の現状、地域移行の取り組みの進捗状況をお聞かせください。
〇文化スポーツ部長(小原勝君) 地域移行の現状についてでありますが、部活動の地域移行を進めるに当たり、市町村は、学校や保護者等の関係者からなる協議会を設置し、情報共有や意見交換を行うこととしており、現在、14の市町村において協議会を設置するとともに、19の市町村において協議会の設置を検討しております。
 また、国のモデル事業を活用するなどして、運動部活動においては11市町村が、文化部活動においては1市が地域移行に取り組むとともに、運動部活動において、12市町村が地域移行の取り組みを具体的に検討しているところでございます。
 県においては、本年1月に地域クラブ活動の整備等に向けた県の考え方を示す、学校部活動及び新たな地域クラブ活動の在り方に関する方針を策定したところです。
 また、学校、保護者などの関係者間で情報共有や意見交換を行う、岩手県における地域クラブ活動の在り方に関する協議会を今年度立ち上げるとともに、引き続き、市町村等を対象とした助言や先進事例の紹介等を行う相談会やセミナー等を行い、円滑な地域移行に取り組んでまいります。
〇15番(上原康樹君) 地域移行には、教育委員会が関係団体と連携して運営するタイプ、市町村が任意団体を設置、運営するタイプ、スポーツ活動では、総合型地域スポーツクラブ運営型や体育、スポーツ協会運営型、または、民間スポーツ事業者に移行するタイプなど、さまざまです。
 文化芸術活動では、地域の文化施設や文化芸術団体、芸術系教育機関等が中心となって新たな受け皿となる地域文化倶楽部を創設する形態もあります。岩手県の場合、どのような形態、スタイルを採用するおつもりでしょうか。
〇文化スポーツ部長(小原勝君) 地域移行の形態等についてでありますが、部活動の地域移行に向けては、各地域によって人口規模や歴史、文化スポーツ資源の状況など、取り巻く環境が異なりますので、適切な運営や効率的、効果的な活動が確保されるよう、地域の実情に合わせた体制の構築が重要であると認識しております。
 運動部活動における地域の受け皿としては、スポーツ少年団、総合型地域スポーツクラブ、市町村体育協会、スポーツ協会や競技団体などの地域スポーツ団体が挙げられます。また、文化部活動においては、芸術文化団体や民俗芸能団体などが受け皿となるほか、地域の中心となる学校において、文化部活動に取り組むことなどが想定されます。
 県としては、それぞれの地域の実情に応じた形態で円滑に地域移行が進められるよう、市町村と情報共有を図りながら取り組みを支援してまいります。
〇15番(上原康樹君) もう少し具体的な話を伺ってまいります。
 地域移行に当たって適切な指導者の確保と受け皿になる団体などがどれだけ確保、あるいは創設できるか、これが大きな課題になると思います。特に、人口の少ない市町村では、それらの確保は非常に困難ではないでしょうか。また、本県のように、広大な面積で中山間地域に学校がある場合、たとえ受け皿があっても学校から遠く、地域クラブまでの移動に伴う身体的、時間的負担が発生します。
 そして、参加費。これまでの部活動では個人の用具などの実費負担のみでしたが、地域クラブなどの団体に移行されれば、月額数千円の参加費を徴収されることも考えられます。遠方のクラブに移行した場合には、そこまで通うための運賃の負担や保護者による送迎も必要になります。多くの保護者にとって、地域移行による負担の増加は決して軽くはないはずです。
 この問題を解消するために、一部の自治体では、部活動にかわる活動をする団体に補助金が支給されていると聞いています。岩手県では地域クラブ活動を担う団体への支援や保護者の負担軽減について、どのように対応しようと考えているでしょうか。
〇文化スポーツ部長(小原勝君) 地域移行に伴う支援についてでありますが、地域の受け入れ体制の整備を進めるため、国の事業を活用して、これまで7市町村において地域クラブ活動やモデル事業を行ってきております。地域スポーツ団体の整備充実や指導者の確保、新たに生じる保護者等の費用負担などが、上原康樹議員御指摘のとおり、課題として挙げられているところでございます。
 これらは全国各地で生じている課題と認識しておりまして、県としては、こうした課題を解決しながら、地域移行を円滑に進めるため、国に対してこのような具体的な状況を伝えるとともに、地域クラブ活動に要する経費に対して、新たな財政支援を充実するよう要望を行っております。
 今後、国の動向を注視するとともに、部活動の地域移行の取り組みが進む中で、課題の変化の状況や市町村の支援策の実施状況など、実態の把握に努めてまいります。
〇15番(上原康樹君) 地域移行を誰がどう手がけるか、これも大きな課題です。指導者や受け皿を確保し、これらを学校につなげるキーマンの存在が鍵となるようです。現実的な方策としては、地域のスポーツ、文化芸術団体と学校との連絡調整を図るコーディネーターを配置することが考えられます。指導者、団体に関するデータベースの構築や、人材バンクの設置なども有効かと思います。
 また、地域クラブの適切な運営、指導の質の確保に関し、教職員については、ことし5月に策定した再発防止岩手モデルに基づき、教職員全員に対する指導者研修など、部活動についての具体的な取り組みが進められることが期待されていますが、地域クラブに移行した後、指導者から体罰を振るわれたり、事故が起きたりする可能性もないとは言えません。これまでにも勝利至上主義に陥った外部指導者が体罰を振るったという事案がほかの県において表面化しています。
 指導者の量を確保することと同時に、その質の保障を求めることが必要と考えますが、岩手県ではどのように取り組まれるのでしょうか。
〇文化スポーツ部長(小原勝君) 指導者等の確保についてでありますが、部活動の地域移行を円滑に進めるためには、専門性や指導経験などを有する指導者の確保が大切であると認識しております。
 県では、指導者を確保するため、現在の岩手県広域スポーツセンタースポーツリーダーバンクの運用を拡充しまして、関係団体等の協力を得ながら、指導者等の発掘、把握に努め、必要に応じ、指導者やコーディネーター紹介する人材バンクの取り組みを推進することとしています。
 また、勝利至上主義が行き過ぎた指導、科学的合理主義の軽視によるパワーハラスメント、暴力行為、体罰などの事案は、文化やスポーツの価値を損ね、その振興を図る前提を崩すものと認識しております。
 スポーツ医・科学的な知見の向上やスポーツインテグリティの確保のための研修会等をこれまで開催してきたところです。
 部活動の地域移行においても、さらに、先ほど申し上げた協議会や相談会、セミナーの場を活用しまして、地域クラブ活動の指導力の向上を図っていきたいと考えております。
〇15番(上原康樹君) 部活動の地域移行の質問の最後に、教育長に伺います。
 ここまで質問してきたとおり、活動場所が自身の学校から地域の体育館になり、場合によっては、別の市町村となる場合が出てきます。また、指導者は教員ではなくなるなど、部活動の環境の変化は生徒や保護者に大きな影響を及ぼすことになります。指導者の確保という側面では、教員の中に、引き続きクラブ活動に携わりたいと考えている方もいるはずです。
 学校部活動の地域クラブ活動への移行を円滑に進めていくためには、現在、部活動を担っている学校との連携が重要と考えます。実際に参加対象となる学校や生徒、保護者への周知については、どのように進めているのでしょうか。また、これまで学校部活動が担ってきた役割、教育的な意義は、地域移行により今後どうなっていくのか、教育長の御所見を伺います。
〇教育長(佐藤一男君) 県教育委員会では、これまで各市町村教育委員会や小中学校長等の学校教育関係者への説明を通じて、県内児童生徒や保護者に対し、部活動の地域移行に係る方針や取り組みについて周知を図ってきたところです。
 また、県PTA連合会の保護者向け会報での情報提供や、地域の指導者、生徒、保護者を対象としたセミナーの開催など、多方面からの情報発信に努めてきたところです。
 また、市町村においては、国の委託事業を活用したモデル事業の実施や、学校関係者、保護者代表者等を構成員とする協議会などを通じて、生徒のニーズ把握、地域移行に向けた検討などを行い、生徒や保護者の理解促進につなげるなど、地域の実情に応じた取り組みが行われております。
 学校部活動は、生徒同士や生徒と教員等の人間関係の構築を図ったり、自己肯定感や責任感などを高めたりするなど、生徒の自主的で多様な学びの場として教育的意義を有しているところです。
 この教育的意義については、地域クラブ活動においても継承、発展させ、さらに地域での多様な体験やさまざまな世代との豊かな交流等を通じた学びなどの新しい価値が創出されるよう、学校と地域が連携し、生徒の発達段階やニーズに応じた多様な活動ができる環境の整備に向けた取り組みが必要であると考えております。
〇15番(上原康樹君) 地域移行へのガイドライン、岩手県としてのガイドラインをスピーディーに進めてほしいということと、そのプロセスが県民によく見えるようにしていただきたいというお願いを申し上げまして、この項目を終わります。
 次です。歴史や自然と調和した博物館、美術館についてお話を伺います。
 盛岡市がニューヨークタイムズ紙で取り上げられて以来、岩手県を訪れる観光客は目に見えてふえています。国内はもとより海外からの旅人の姿が目立つようになりました。ゆっくり時間をかけて岩手県に滞在し、岩手県の人々と触れ合い、岩手県の自然や歴史、文化を呼吸したいという旅行者がふえているそうです。そうした今でとは違う新しい旅のあり方について、理解と支援、提案が県にも求められているものと思います。
 その最前線の一つ、県立博物館や県立美術館について伺います。
 旅行者は博物館と美術館に立ち寄ることもたびたびだと思いますけれども、博物館は学術的な色合いが濃く、美術館はといいますと、必ずしも全部が全部、岩手県の芸術を紹介するだけの場とはなっていません。それぞれ独自の企画展などを開催していますが、遠隔地から訪れて、限られた日程で、なるほど、これが日本の、岩手県の歴史、文化、芸術かと納得できる時間を提供できているでしょうか。岩手県の岩手県たるものを効果的に表現できているでしょうか。
 もちろん、観光客の満足のためだけにあるものではありませんが、いつ訪れても岩手県のエッセンスに触れることのできる施設であってほしいことにほかありません。
 常設展をより見やすく、理解しやすいものに整え、多様な言語にも対応でき、しかも魅力的な演出があれば、SNSなどを通じた情報発信のきっかけにもなります。県はどのような取り組みを進めているのでしょうか、伺います。
〇教育長(佐藤一男君) 県立博物館では、37万点を超える貴重な資料を収蔵し、県立美術館では、3、400点を超える本県出身や本県ゆかりの作家の作品を収蔵しております。両館の来館者数は、新型コロナウイルス感染症の5類移行後、回復傾向にあり、特に県立美術館では、常設展の観覧者数が近年、コロナ禍前から6、000人程度で推移していたものが、昨年度は9、000人を超えるまで増加しております。
 各館では県内外への魅力発信に取り組んでおり、県立博物館では、昨年度、ウエブ上で館内の様子を疑似体験できるバーチャルツアーを開設したほか、通常立ち入ることができない常設展示コーナーでの撮影など、さまざまなイベントを実施しております。
 県立美術館では、作品や作家について理解を深めていただけるよう、常設展に関連した美術作家等による講座やワークショップなどの取り組みを行っております。
 県教育委員会としましては、これらの取り組みやテーマに沿った定期的な展示がえにより、魅力ある博物館及び美術館を目指し、一層の常設展示の充実と情報発信の工夫に取り組んでまいります。
〇15番(上原康樹君) 個別の話に進みます。県立博物館です。初めて岩手県に来た人にとって、本県の伝統芸能との出会いは感動的です。しかし、神楽にせよ、鬼剣舞にせよ、鹿踊りにせよ、それぞれ盛岡市から遠く離れた施設を訪れなければなりません。県立博物館で岩手県の伝統芸能の歴史と現在を俯瞰、展望できるような展示、公演などは定期的に行われているのでしょうか。
〇教育長(佐藤一男君) 県立博物館では、チャグチャグ馬コや鹿踊りなど岩手県の特徴的な祭りや民俗芸能に関する展示を行っているほか、デジタルサイネージやサービスコーナーでは、これらの映像を鑑賞することができます。
 また、毎年秋に開催している博物館まつりのほか、企画展等の関連行事として、芝生広場や敷地内にある重要文化財の曲り屋を会場に、県内の民俗芸能団体による公演を行っているところです。
 さらに、新たに国や県の指定となった民俗芸能について紹介する新指定展では、その歴史や演目について詳しく紹介するとともに、昨年度からは、早池峰神楽や鬼剣舞など、岩手県の無形文化遺産等のパネル展示も行っております。
 県教育委員会としましては、これらの取り組みの周知に努め、県外からのお客様にも、本県の伝統芸能などに興味、関心を持っていただけるよう努めてまいります。
〇15番(上原康樹君) やはりさらなるブラッシュアップも必要かと思います。
 次、県立博物館の環境整備です。博物館のキャッチフレーズは、岩手山を望める丘の上の博物館、すてきなものです。確かに、盛岡市松園の自然豊かな環境ですが、博物館の周囲は樹木に覆われ、やぶに覆われ、岩手山の展望を少し遠ざけているように思います。環境整備を進めて芝生広場や散策道を存分に楽しめるようになれば、地元の人も観光客も、岩手県の心に触れる時間が持てると思います。県の現状認識と御対応について伺います。
〇教育長(佐藤一男君) 県立博物館は、人文科学に加え、自然科学を対象とする総合博物館であり、芝生広場や散策道は自然や生き物を観察するなど、学習や教育の場としても活用されております。また、敷地の一部は四十四田公園と一体化した散歩コースとして地域住民に利用されているところです。
 県立博物館は開館から40年以上が経過し、周囲の樹木の成長が進んだことなどから、眺望の確保や安全確保のため、平成29年度と昨年度に樹木の一部伐採、剪定を行ったところですが、今後も良好な環境の維持、保全に努める必要があると考えております。
 また、今後は、ゴールデンウイークや博物館まつりの際に開催し、好評であった学芸員の案内による植物園の散策等のイベントを定期的に開催するなど、周辺環境も含め、来館者にとってより魅力的な博物館を目指してまいりたいと考えております。
〇15番(上原康樹君) 県立博物館の環境整備について伺いましたが、実は近年、博物館という場所、建物が、その空間が人の体や心の健康、安らぎに大きな効果をもたらすという知見のもと、日本各地の博物館で実証実験が進められています。いわゆる博物館浴と呼ばれて、森林浴と同じような効能が期待されています。博物館を頻繁に訪れ、たたずみ、散策することにより体や心のトータルバランスによい効果を引き出す施設にするという取り組みもあってよいのかなと思いますが、県のお考えを伺います。
〇教育長(佐藤一男君) 博物館や美術館で展示を鑑賞することで血圧が下がり、心拍数が安定するなどのリラックス効果が得られるとの研究結果が国内外で報告されており、国内でも幾つかの施設で実証実験がされていると承知しております。
 県立博物館では、定期的な展示がえにより展示内容の充実を図るとともに、照度や温度管理など鑑賞環境の維持、向上に努めているところです。
 今後も来館者の知的な刺激や学び、癒しやリフレッシュなど、多様なニーズに応えられるよう、良好な環境づくりに努めてまいります。
〇15番(上原康樹君) 県立博物館に対して何を求めているかということは、今の話のように、時代とともにどんどん変化していると思うのです。そういうものに敏感に反応していくということも、ぜひ見せていただきたいと思っております。県立博物館の皆さんは、大変意欲的なものですから、博物館浴というものにも相当取り組んでくださるのではないかと私は期待しております。
 博物館浴の話が出ると、美術館はまさに美術館浴ということになります。県立美術館も丹念につくり込まれた建造物で、光の取り入れ方、芸術作品の配置など、深い精神性を宿した場所であります。
 しかし、一つ残念なことは、美術館の環境です。完成後しばらくは、いずれ緑豊かな庭園や散策道などが整えられ、あの一体は芸術の空気に満たされた場所になると期待していたのですが、さっぱりその動きはありません。美術館はその町、地域の精神的な場所です。
 私が文教委員会の調査で訪れた秋田県立美術館や秋田芸術劇場ミルハスは、施設とその一帯の自然や町と滑らかにつながり、融合していることに目を見張りました。単に施設としての美術館や博物館ではなく、人々が芸術の空気、深い精神的な活動を求めて足を向ける場所にしてこそ世界にも注目される岩手県、盛岡市の県立博物館、県立美術館となるのではないでしょうか。教育長のお考えを伺います。
〇教育長(佐藤一男君) 県立美術館は、岩手県における芸術文化活動の拠点施設として、盛岡駅やインターチェンジが近くにあり、岩手山など山並みの眺望にすぐれ、近隣で新たな市街地の整備が進められていた盛岡市の中央公園内に平成13年に設置したものであります。
 中央公園には、盛岡市子ども科学館や先人記念館、遺跡の学び館が設置されているほか、県立美術館を含むこれらの施設が周遊できる遊歩道が設置されております。
 また、近年は同公園内に産直施設や飲食店、芝生広場等の整備が進められており、公園利用者が県立美術館にも訪れるなど相乗効果が期待されております。
 今後も、岩手県の芸術文化活動の拠点施設として、多くの方々に来館していただけるよう、県立美術館の環境整備に努めるとともに、周辺施設とも連携しながら、県内外に情報発信してまいります。
〇15番(上原康樹君) もっともっと磨き上げていただきたいと思います。それでこそ市民も、そして、国内外からの旅人も足を向ける場所になるのだと思います。何とぞよろしくお願いします。
 最後の質問になります。橋梁等の名称について伺います。
 人に名前があるように、それぞれの土地にも名前がございます。そこを通る道や橋、トンネルにも名前がつけられています。私事になりますが、私は、岩手県の国道に架かるある橋の名前に20年ほど前から気になるものを発見し、謎のまま今日まで来てしまいました。
 その気になる名前は、国道340号、葛巻町と岩泉町の境、正確には岩泉町横道地区に連続しています。メモしてありますので、読みます。国道の橋の名前です。にこにこ大坊橋、ふれあい横道橋、さわやか大穴橋、しあわせ御所橋。いかがでしょうか。大坊とか横道、大穴、御所という本来の土地の名前に、平仮名で、にこにこ、ふれあい、さわやか、しあわせと愛称めいた言葉が並んでいます。この不思議な橋の命名は誰が行ったのか、ずっと考えていました。
 三桁国道ですから、国道340号は県土整備部のお仕事になるわけですが、この命名も県土整備部が担当されたのでしょうか。命名の経緯をお尋ねします。
〇県土整備部長(上澤和哉君) お尋ねのありました、にこにこ大坊橋、ふれあい横道橋などの橋梁は、平成5年度から平成13年度にかけて、県が横道バイパスとして整備し、道路管理者である当時の宮古地方振興局岩泉土木事務所が事業実施及び命名を担当したところです。
 命名の経緯についてですが、地域との調整等を踏まえ、横道バイパスが地域から親しまれる道路になってほしいとの願いを込めて、当時、地元にあった岩泉町立中沢小学校の児童に命名していただいたところです。
〇15番(上原康樹君) 地域の小学校の子供たち、今、学校名は何とおっしゃいましたか。(県土整備部長上澤和哉君「中沢小学校です」と呼ぶ)中沢小学校ですね。中沢小学校は既に廃校になった学校でございます。かつて橋の名前をつけた児童は、今では社会の担い手でございます。その方々の心には、自分たちがかつて名づけた橋の名前、そして、土地の名前は心の中に生きているはずです。その橋に差しかかるたび、何か心が動くかもしれません。
 県土整備部におかれまして、今後も新たな橋などさまざまな道路構造物を手がけ、名前をつけていくことになろうかと思いますが、その命名についてのプロセスはどのようにするおつもりか、お尋ねします。
〇県土整備部長(上澤和哉君) まず、バイパス整備など道路や橋梁事業を新たに計画し、円滑に事業を実施していくためには、関係市町村や地域住民等に対し、事業の目的や内容、用地補償などについて説明し、御意見や御要望を伺い、御理解や御協力をいただく必要があります。
 橋梁等の命名に当たっても、地元の意向を踏まえることが重要でありますことから、引き続き、関係市町村や地域の意見を聞きながら進めていきます。
〇15番(上原康樹君) それにしても、なぜこのようなことを私が質問しているのかお話ししようと思います。議長におかれましては、御理解を賜りたくお願い申し上げます。
 私の出身地、長野県というより信濃の国、信州には、厳しくも切ない地名があります。その名は姨捨。老いた者を捨てるということです。かつての信州の山深い貧しい里では、食べるものにも困ると、年老いた親を口減らしのため山の奥に捨てたという伝説があります。
 姨捨、これは楢山節考という映画にもなり、農家の長男が老いた母親を背負って雪の中、延々と山道を行く場面は、余りにもむごく、せつない限りでございました。その姨捨という忌まわしい地名、今では人々の暮らしの中でごく普通に流通し、長野自動車道のパーキングエリアの名前にもなっています。
 私は、かつて強い違和感を覚えておりましたが、年齢を重ねる中でわかってきたことがあります。それは、どんなにつらい名前であっても、故郷の先人、民衆が血の涙を流して乗り越えてきた事実であり、歴史であり、決して忘れず、目をそらさず、地名として使っていく。そんな信州人の決意を感じるのでございます。
 地名は実にさまざまな物語を背負っているものでございます。例えば、岩手県一戸町を通る国道4号線に小さな橋が架かっておりまして、その名は子守橋。日本の貧しい時代、奉公に出された子が子守をさせられ、雨の日も雪の日も赤子をあやした、まるでドラマ、おしんではございませんか。土地の名前、橋の名前など、風景の中に息づく名前は、この国に生まれ、岩手県で歳月を重ねる人々の時を超えた記憶、心の財産だと受けとめております。
 そこで、再び県土整備部長に伺います。新しい建設工事を行うとき、その場所、地域が歴史の現場となっていた場合、橋に限らず道路やトンネルなどにその名の由来などを説明する碑やプレートが設置されているのかお尋ねします。県土整備部が魂を込めて設置した道路構造物、県民に送る真心の仕事を記憶に刻む、こうした一工夫は今は行われているのでしょうか。教育委員会などとの連携も必要になるかもしれませんが、どうでしょうか。
〇県土整備部長(上澤和哉君) 橋梁等の説明板等の設置についてでありますけれども、これまでに県が整備した橋梁の中には、橋梁の名称を記した橋名板の設置のほか、地域のシンボルやイメージを橋梁の両端部に設置した親柱等にデザインしたものや、橋の由来を紹介した説明板を設置した事例などがございます。
 これらの実施に当たっては、必要に応じて地域の歴史などに詳しい方を初め、市町村や教育委員会などとも連携しながら取り組んでおり、今後とも整備箇所の特性を踏まえまして、関係市町村や地域の意見を聞きながら、地域から親しまれる道路整備等に努めていきます。
〇15番(上原康樹君) その取り組みは、もっとはっきり、鮮明に取り組まれたほうがよろしいかと思います。
 沿岸地域に整備された巨大な水門、防潮堤についても、そのもの自体が東日本大震災津波の記憶を継承するモニュメント、記念碑となっています。築き上げた構造物の機能や役割のみならず、なぜ今、それがそこに存在するのかをしっかり伝えることで、県土整備部の皆様方の仕事は本当に完結するのではないかと思います。
 以上、私の一般質問を終わります。本当にありがとうございました。(拍手)
〇副議長(飯澤匡君) 以上をもって、上原康樹君の一般質問を終わります。
 以上をもって、一般質問を終結いたします。
   
   日程第2 議案第1号令和6年度岩手県一般会計補正予算(第1号)の専決処分に関し承認を求めることについてから日程第15 議案第14号損害賠償請求事件に係る和解及びこれに伴う損害賠償の額を定めることに関し議決を求めることについてまで
〇副議長(飯澤匡君) この際、日程第2、議案第1号から日程第15、議案第14号までを一括議題といたします。
 これより質疑に入ります。
 質疑の通告がありますので、発言を許します。斉藤信君。

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