平成21年2月定例会 第10回岩手県議会定例会 会議録

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〇18番(関根敏伸君) 民主・県民会議の関根敏伸でございます。
 議案第46号及び議案第58号の委員会修正案に対し、反対の立場から討論いたします。
 今修正案は、地域診療センターから県立病院へ入院する患者や家族を、無料で送迎するためのマイクロバスを購入しようとして計上された2、300万円を減額しようとするものであります。
 これは、今回の県立病院の新しい計画案が示された後、住民との地域説明会などを経て修正を加えられた八つの項目のうちの一つに該当するものであり、いわば住民側からの要望に沿う形で、4月からの住民の利便性を確保するため盛り込まれたものであり、いわば一種のセーフティネットにも位置づけられるものであります。また、その財源は、国が第2次補正予算に計上した地域活性化・生活対策臨時特例交付金を活用するもので、国から10分の10の交付が受けられるものであり、県の財政負担を最小とするものでもあります。もちろん、この事業実施に当たっては、さらなる議論を加え、病院間のルートや運行回数などについて、より柔軟で効率的な運用方法を検討しながら住民の利便性を図るという、本来の目的をしっかり果たしていく必要がありますが、バス購入が繰越明許であることを考えれば、予算を通した上で、執行するまでに議論をすることは十分可能であります。しかし、何と言っても、今修正案の本質は、医療局が示した、ことし4月の県立の五つの地域診療センターの無床化の延期を求めることにあります。
 まずもって、私自身も、一県民として、無床化を示された地域の皆様方の不安と、県議会に対する請願や要請を初めとするさまざまな働きかけの経過というものには、一定の理解を持っているものであります。そして、何より、今回の新計画案の提案が、余りに唐突かつ短期間の間に行われたことは事実であり、医療局並びに関係部局は、その進め方に対し、真摯に反省をしていかなければならないことは言うまでもありません。
 また、県立病院を含めた公立病院の医師不足と収支の悪化という現状は岩手固有の現象ではなく、国の診療報酬等、医療費の抑制と、地域の現状を十二分に把握することなく医師数の定数を削減し続けた国の政策の過ちが招いたものであると断じておかなければなりません。しかしながら、今議会の一般質問などを通じ、現在の県立病院並びに地域医療を取り巻く環境は、一刻の猶予もならない状況にあることが明らかになり、結論を先延ばしすることが許されない時期にあることを、まず、全議員が改めて認識する必要があると思います。
 まず第1には、その収支の状況であります。
 御承知のとおり、県立病院には、一定の基準のもと、繰入金が一般会計よりなされており、その額は平均して年約140億円、その総額は3、600億円に上っております。しかし、これらの繰り入れ後も、県立病院は収支均衡を果たすことが年々困難になっており、今回提案されている平成20年度病院会計補正予算では、収益的収入が当初見込みより51億円減少し、単年度赤字が29億円、累積欠損金が165億円余に達する見込みであります。また、一般会計からの借入金を除いた実質の内部留保資金は、前年度より22億円減少していることも示されており、さらに今回、無床化の先送りをしたとすれば、今後5年間で、約57億円ものさらなる収支悪化に結びつくとの試算もされております。
 地域医療が、まさに県政の大きな柱であることは言うまでもありませんが、現在の厳しい県の財政状況の中にあっては、その採算性に目をつぶることは、結果として、他の県政重要課題へのしわ寄せを招く結果ともなりかねません。
 二つ目は、県立病院からの医師の退職数と勤務実態の過酷さであります。
 県立病院の平成19年度末の常勤医師数は460名で、調べがなされた平成14年度から減り続け、それを臨床研修医がカバーしている実態があります。退職医師数は過去4年間で140名にも上り、ことしに入ってからも既に25名が退職し、さらに、今後多くの退職数が見込まれる現状にあります。一方、残された勤務医の労働環境はさらに悪化することが懸念され、平均超過勤務時間が54時間に及ぶという現状がさらに進みかねません。
 今回の新計画は、病院長会議などでの議論を初め、県立病院に勤務する医師を含んださまざまな立場の人たちとの話し合いと合意のもとにつくられているものであり、いわばこの計画には、県立病院の勤務医たちの無言の思いが込められているということもできます。現に、無床化を条件に退職を思いとどまっている医師が複数名いるとも聞いており、仮に今回の無床化を凍結あるいは先延ばしをするということになれば、勤務医の勤務意欲を大きく後退させ、県立病院からの退職が加速度的に進むという懸念もぬぐい切れません。もし、そのような事態が起きれば、中核病院での医師確保も一層の困難をきわめ、地域病院への医師派遣もままならない状況に陥り、診療所機能の維持が不可能となり、かつ、医業収入の減少による病院経営のさらなる悪化という、負のスパイラルに突入しかねない大きな危険性もはらんでいるのであります。
 3点目は、地域医療を守るという観点から、住民や議会が果たしていかなければならない役割についてであります。
 私たち民主・県民会議会派では、岩手の地域医療の方向性を考えるために、昨年末より、有志議員による集中的な調査を実施してまいりました。自治医科大学のOB医師たちによってつくられ、全国の僻地医療への代診応援を行うほか、多くの病院、診療所などを運営している財団法人地域医療振興協会、内科医十数名が一度に退職し、病棟の一部休止や診療収益の大幅な減収による極めて厳しい環境からの立ち直りを模索している北海道の市民病院、そして、自治体の財政再建団体転落とともに、40億円に迫る負債を抱えて破綻した病院を、福祉施設と一体による公設民営方式で再生を目指している医療センターなどであります。
 これら一連の視察で明らかになったことは、全国津々浦々で地域医療の崩壊が始まっており、その中で地域の自治体病院とそこで働く医師たちが、どんどん疲弊していくという共通の現状であります。そして、その環境にさらに拍車をかけているのが、コンビニ受診に代表される一部住民の心ない受診行動や、病院や医師たちへの過度の要求などであり、また、その現実を、自分たちのこととして十分認識し切れていない地域住民や議会の存在があるということであります。そして、そのことを現実のものとして受けとめたときには、勤務医たちの一斉大量退職により、地域医療の維持がいよいよ不可能になっているという事例の数々であり、そこから立ち上がるには、膨大な時間とエネルギーが必要になるということであります。
 やはり、私たちはもう一度、岩手県の地域医療の実態を冷静に見てみる必要があると感じます。地域医療を守るという目的は、まさに同じであります。しかし、そのことは、今あるベッドや病院機能をすべて残すということではあり得ないということを受けとめることから始めるべきと考えます。
 最後に、県議会としても、二元代表制の中でその役割を果たすため、十分な議論を尽くして、その使命を果たしていくことは当然でありますが、病院経営という極めて専門性の高い行政分野におけるいわば執行者の究極の判断に、必要以上に踏み込むべきでもないと考えるものであります。
 昨年の議会において、地域住民の思いを反映する形で、一度は病院の無床化反対の議会意思を示したわけでありますが、それが素案の段階から現実の計画決定となり、予算を伴った形で今議会に提案されているという現状を踏まえ、今の段階では、現実的な対応を模索するなど、より冷静であるべきが議会の本来の姿であると考えます。
 たび重なる知事や関係部局の陳謝や苦渋の決断であるという言葉の重みを、十二分に尊重すべきでもあります。
 以上、申し上げてまいりましたが、現在の限られた環境の中で、岩手の地域医療を守るという共通の理解の上に立って、議員各位の冷静な御判断を切に願うものであります。
 議員の皆様の御理解と御賛同をいただきますようお願いを申し上げ、反対の討論とさせていただきます。御清聴まことにありがとうございました。(拍手)
〇議長(渡辺幸貫君) 次に、木村幸弘君。
   〔1番木村幸弘君登壇〕(拍手)

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