平成21年2月定例会 第10回岩手県議会定例会 会議録

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〇知事(達増拓也君) 本日、ここに第10回県議会定例会が開会されるに当たり、今後の県政運営について、私の所信の一端を申し上げます。
 昨年6月の岩手・宮城内陸地震、7月の岩手県沿岸北部を震源とする地震により被害を受けられた住民の方々に心からお見舞い申し上げますとともに、地震発生直後より県内外から多くの御支援、励ましをいただいたことに対しまして、改めて御礼を申し上げます。
 県では、国や被災市町村と協力して直ちに応急措置を講じるなど、さまざまな取り組みを行ってきたところですが、被災された住民の皆様が、不屈の信念を持って立ち上がり、再建に取り組んでおられることに対し、深く敬意を表するものです。
 今後も、関係機関と連携しながら、がんばろう岩手運動を初めとする被災地域の一刻も早い復旧・復興を目指した取り組みを一層進めてまいります。
 また、このたび、不適切な事務処理により、県政に対する県民の信頼を損なったことは極めて遺憾なことです。県政は、県民の信頼の上に成り立つものであり、職員一人一人が、今般策定した岩手県職員憲章を信条としながら、これまで以上に厳正な職務の執行と公務意識の高揚に努めることにより、県民の負託にこたえることができるよう、職員一丸となって努力してまいります。
 昨年の秋以降、本県では約6、000人の県民が仕事の場を奪われようとしており、12月の有効求人倍率は0.44倍と8カ月連続で低下しています。また、県内の経済情勢は、日本銀行盛岡事務所が発表した12月の県内金融経済概況において弱目の動きから7年ぶりに悪化しているに下方修正されるなど、極めて厳しい状況になっています。
 これは、いわゆるITバブル不況の影響によって約7、000人の県民が仕事を失い、平成13年12月の有効求人倍率が0.36倍になったときに匹敵する危機であり、県民の仕事や暮らしに大きな影響を及ぼしています。
 現在のこうした状況は、インターネットなどの情報通信技術の発達で、世界じゅうの人、物、金、技術、サービスが自由に移動可能になったことなどにより、経済のグローバル化が急速に進展したことが背景になっています。
 日本では、このようなグローバル化に対応しようと市場原理優先の政策が進められました。その結果、日本経済は、好調だったアメリカ経済や中国を初めとする新興国の急速な経済成長など、海外での需要拡大の恩恵を受け、都市部を中心に景気の回復が見られました。
 しかし、真の構造改革、すなわち地方が主役になる内需拡大が行われなかったことにより、地域間の所得格差が拡大し、雇用者の3分の1が非正規雇用という就業構造を生み出すなど、多くの問題が発生し、一時は大きな利益を得た企業や投資家も厳しい状況に直面しています。今、世界を覆っている経済危機が我が国に大きな影響を及ぼしているのは、まさに我が国がグローバル化に十分に適応できていなかったことを示しています。
 グローバル化した社会では、国や地方の境界を越えてさまざまな活動が行われ、個人や企業は、国や県を 介することなく、外からの影響を直接受けることになります。
 そうした影響に対応するためには、まず個人や個々の企業など個の力を強くしていくことが必要です。今の危機を克服するためには、私たち一人一人が直面する危機を自分の問題としてとらえ、その解決に向けて行動していくことが重要です。このような私たち一人一人の自立が地域の自立へとつながります。
 一方、私たちは一人で生きていくことはできません。豊かな自然にはぐくまれ、いろいろな人々から支えられて生きています。それは人と人、人と自然がともにある社会、すなわち共生の社会です。あるべきグローバル化は、自立と共生に基づくものでなければなりません。
 国や地方公共団体には、真のグローバル化を実現するため、セーフティネットの構築やさまざまな情報の提供、進むべき方向性の明示といった自立と共生に向けた社会環境をつくることが求められています。
 このような中、本県が今、直面する喫緊の課題は雇用の確保です。この課題に的確に対応できなければ、自立と共生に基づく新しい岩手をつくることはできません。
 そのため、昨年12月には岩手県緊急雇用対策本部を設置し、全庁一体となって取り組むための体制の整備を図るとともに、1月補正予算などを通じて、県民の暮らしと雇用を守るための諸施策を実施してまいりました。今後、2月補正予算や平成21年度当初予算に盛り込んだ対策を切れ目なく推進することにより、雇用の危機に的確に対応してまいります。
 また、昨年策定したいわて希望創造プランは、今、日本や世界が取り組もうとしている経済社会の危機の克服を先取りしたものです。このプランを着実に推進していくことが、この危機を脱し、未来への希望につながっていくと確信しています。
 危機的な状況は、まだ当分続いていくと予想されます。また、2度の地震の被害からの復旧・復興にも力を入れていかなければなりません。こうした状況の今だからこそ、厳しい境遇にある県民一人一人を守り、岩手を守っていくために、みんなが力を合わせて頑張っていくことが求められています。
 平成21年度は、まさに経済危機に総力を結集して取り組む1年、いわて希望創造プランに基づき、必要な施策を着実に実施する1年、逆風に立ち向かう体勢を強化する1年にしていかなければなりません。
 私は、いわて希望創造プランに掲げる施策を着実に推進することが現在の危機を希望へと転換させると考えております。しかし、こうした取り組みは県だけで実現できるものではありません。地域社会を構成するあらゆる主体が、その力を結集して進めていくことで初めて実現できます。
 昨年からのがんばろう岩手運動や県民みんなで支える岩手の地域医療の県民運動を契機に、危機の中で県民一丸となって行動する機運が高まっている今こそ、県民の皆様の力を結集して困難に立ち向かえば、必ずやこの危機を克服できると確信しています。
 この岩手で自立と共生の理念を実現した社会を構築し、この岩手から日本のあるべき姿、世界のあるべき姿を示してまいりましょう。
 本県の財政状況は、景気悪化の影響による県税収入の大幅な落ち込みが見込まれる中、臨時財政対策債を大幅にふやさざるを得ないなど依然として厳しい状況にあります。
 しかし、現在のような局面では、県民一人一人が勇気づけられ、力強く前に向かっていけるように、今やるべきことにしっかりと取り組むことが必要であると判断し、県民のために何をなすべきか、創意と工夫を凝らしながら予算編成を行いました。その結果、平成21年度当初予算は、前年度対比で平成13年度以来8年ぶりの増額となる予算案としたところです。
 以下、平成21年度に重点的に取り組む施策について、プランに示した新地域主義戦略、岩手ソフトパワー戦略という二つの基本戦略と政策の6本の柱に従って御説明してまいります。
 まず、基本戦略の一つ目である新地域主義戦略についてであります。
 グローバル化の進展に伴い、地域が直接世界の競争の渦に取り込まれる中で、地域の独自性や創造性を高め、魅力ある地域を実現していく必要があります。そのため、市町村の集落支援員等を対象とした研修会の開催や、元気な地域の事例の発信などにより、地域コミュニティへの支援体制の強化を図ってまいります。
 また、地域コミュニティとそれを支える市町村の行財政基盤を強化するため、自主的な市町村合併と合併後の地域づくりを支援してまいります。
 さらに、市町村優先の行政システムの構築を進め、広域的な産業振興などに対応した県の体制を強化するためにも、県民の皆様の御意見をお聞きしながら、平成22年度からの4広域振興局体制への移行に向けて必要な準備を進めてまいります。
 これまで重点的に取り組んできた県北・沿岸圏域の振興については、平成21年度においても、県北圏域にあっては、八戸圏域との一層の交流、連携の促進に取り組むとともに、沿岸圏域にあっては、三陸沿岸の海洋資源を生かした産業振興を図るための新たな取り組みを進めてまいります。
 次に、岩手ソフトパワー戦略についてであります。
 昨年7月、大変残念なことに、平泉の文化遺産の世界遺産への登録は延期となりました。しかし、それは平泉の歴史的・文化的な価値が否定されたものではありません。
 平成21年度は推薦書を完成させる再出発の年となります。平成23年の世界遺産登録に向けて、県内外に平泉の歴史的、文化的価値や人と自然との共生という理念を広く発信してまいります。
 また、昨年策定した岩手県文化芸術振興指針に基づき、県民の皆様とともに、本県の文化芸術の豊かさを感じ、県内外そして次世代へと伝えていく豊かさを感じ伝える國いわての実現に向けて、県内における文化芸術活動のネットワーク化や効果的な情報発信に取り組んでまいります。
 さらに、本県には牛にかかわる資源や文化が数多くある中、本年がうし年であることに着目し、ブランド化、環境、観光と文化をキーワードに、牛にかかわる戦略的なプロジェクトを展開し、地域産業の振興を図るとともに、頑張る岩手の姿を全国に発信してまいります。
 次に、政策の6本の柱に沿って、重点的に取り組む施策について御説明いたします。
 まず、第1の柱、地域に根ざし世界に挑む産業の育成についてであります。
 最重要課題である雇用環境の改善については、これまで中小企業経営安定資金貸付金の融資枠の拡大や、臨時職員の採用、公共事業の前倒し発注などの緊急対策を実施するとともに、低額な使用料での県営住宅の提供や、県立高校、県立大学などの授業料減免など、生活支援対策についても進めてまいりました。
 今後においても、事業所に対しては、雇用を維持するために従業員の休業手当等に対して助成する国の制度の活用を引き続き周知するほか、制度融資の円滑な執行に努め、中小企業の経営安定を下支えし、雇用の維持を図ってまいります。
 また、緊急雇用創出事業臨時特例交付金やふるさと雇用再生特別交付金などを活用した雇用創出を進めるほか、農林水産業や福祉、介護事業への就業促進等により、県民の仕事の場を確保するために全力で取り組んでまいります。
 一方、雇用の確保と安定を図っていくためには、長期的な視野に立って、ものづくり産業の振興に取り組んでいく必要があります。
 本県の連峰型ものづくり産業集積の柱である自動車関連産業と半導体関連産業は、現在非常に厳しい状況にありますが、国際競争力が高く、中長期的には今後も成長が見込まれることから、本県ものづくり産業の基盤を磐石にする産業と考えています。
 そのため、自動車関連産業については、次世代技術の開発支援や生産工程の改善指導を引き続き進めるとともに、メーカー等からのニーズが高い三次元設計開発人材の育成を進めてまいります。
 半導体関連産業については、川上、川下企業の連携をさらに進めるとともに、設計開発段階から提案できるビジネスパートナーとしての関係構築などの取り組みを進めてまいります。
 また、世界経済の影響を受けにくい、地域資源を生かした産業を同時に振興していくことも必要です。そこで、本県の質の高い農林水産物を活用した食産業の展開を図るため、いわて農商工連携ファンドの活用や民間ノウハウの積極的な活用により、産地加工、商品開発の促進や販路の拡大などを積極的に進めてまいります。
 また、平泉の文化遺産を初めとする伝統文化、高品質な県産食材など、県内の豊富な観光資源の魅力の国内外への発信や、いわて花巻空港の4月の新ターミナル開設を契機としたさらなる利用促進などにより、本県への観光客誘致に努めてまいります。
 さらに、今後の超高齢社会の到来により成長が見込まれる医療機器関連産業への参入支援や、沿岸圏域における海洋版シリコンバレー構想の具体化に向けた海洋研究拠点の形成など、産学官連携による事業化の促進や新産業の創出についても積極的に取り組んでまいります。
 産業人材の育成については、本県産業の振興を図る上で非常に重要な役割を担っていることから、引き続き、小中学生段階における職業観の醸成から、高校や企業人材における実践的な技術、技能の習得まで、各ステージに応じた総合的な人材の育成、確保の取り組みを推進してまいります。
 次に、第2の柱、日本の食を守る食料供給基地岩手の確立についてであります。
 本県の農林水産業は、生産資材価格の高騰や生産物価格の低下などにより、極めて厳しい経営環境にあります。一方、県内の雇用情勢が急激に悪化する中で、農林水産業や食品産業などの関連産業はすそ野が広いことから、本県の基幹産業として、また、雇用の受け皿となる産業としての役割が期待されています。
 こうしたことから、農林水産業をリードする経営体の育成を進めるとともに、減少する担い手の確保対策と雇用対策を一体的に推進することが重要になります。
 そのため、認定農業者等の経営管理能力の向上や、経営の高度化、多角化のための機械、施設の導入を支援するほか、地域牽引型林業経営体育成のための低コスト施業技術の習得や、地域営漁計画に基づく漁業者の販路開拓を促進するなど、経営力の一層の向上を図り、効率的、安定的な経営体を育成してまいります。
 同時に、現下の厳しい雇用情勢を踏まえ、食品産業と連携した新商品開発など、新たな6次産業化の取り組み支援により経営の高度化と雇用の拡大を図るとともに、関係団体等と緊密に連携した雇用対策を進めてまいります。
 また、相次いで発生した食品偽装表示や昨年の事故米の不正転売など、食の信頼を揺るがす事件を背景に、県民の食の安全・安心に対するニーズはかつてないほど高まりを見せています。こうした状況は、本県の安全・安心かつ高品質な農林水産物の産地競争力を高める好機です。
 そのため、県独自の農業生産工程管理の導入・普及や干しシイタケの栽培履歴記帳の取り組み支援など、安全・安心な農林水産物の供給体制を一層強化してまいります。
 また、本県が独自に開発した簡易土壌診断システムと、発酵鶏ふんなど畜産由来の有機物を活用した低価格肥料の開発、普及による低コスト生産や、食品加工、外食等の市場ニーズに対応した加工・業務用野菜産地モデルの確立、サケの回帰率向上のための新たな飼育技術の開発などにより、生産性、市場性の高い産地づくりを進めてまいります。
 さらに、食品産業や消費者などのニーズに的確に対応した販路の拡大を進めるため、食品企業OBなど流通の専門家の民間ノウハウを活用した生産者と食品関連事業者とのマッチングや、工務店等のニーズに対応した乾燥材やアカマツ製品の販路拡大、インターネット販売や中心市街地での産直開設など、新たな6次産業化の取り組みを支援してまいります。
 次に、第3の柱、共に生きる岩手の実現についてであります。
 今、最重点で対応すべき課題は、地域医療の確保です。地域における医師不足は深刻化し、地域偏在や診療科偏在を招き、全国各地で地域医療の崩壊が始まりつつあります。本県も例外ではなく、まさに今、あらゆる対策を講じなければ本県の地域医療は崩壊してしまいます。
 こうした状況の中で、最優先で取り組むべき対策は、地域医療を担う人材の養成、確保です。医師確保対策アクションプラン等に基づき、医師、看護職員などの養成、確保に全力を挙げて取り組んでまいります。
 あわせて、地域連携クリティカルパスの導入促進や、がん診療連携拠点病院の整備拡充などにより、質の高い医療提供体制の整備を進めてまいります。
 さらに、産科医不在地域における出産、育児を支援するため、助産師を活用した岩手型の周産期医療提供体制の整備を進めてまいります。
 また、広い県土をカバーする救急医療体制を充実するため、本県へのドクターヘリの導入可能性について引き続き検討してまいります。
 これらの取り組みに加え、地域に必要な医療を持続的に提供する体制を確保し、県民の命を守るためには、二次保健医療圏域を基本として、がん、脳卒中、急性心筋梗塞等の生命にかかわる医療を担う中核的病院と、身近な医療を提供する地域病院等との役割分担と連携を推進することが極めて重要です。このような考え方で策定した公立病院改革推進指針に基づき、県立病院を初めとする公立病院の再編・ネットワーク化を推進してまいります。
 こうしたあらゆる対策を進めながらも、しばらくは医師不足や地域偏在が続くかもしれません。その中で地域医療を守っていくためには、今、県民の皆様の力が必要です。
 私たち一人一人がかかりつけ医を持つこと、症状や医療機関の役割分担に応じた適切な受診に努めることなど、自分たちができることにしっかりと取り組み、みんなの力を医療の力にして岩手の地域医療を支えていきましょう。
 また、自分の健康は自分で守るという意識を強く持ち、メタボリックシンドロームにならないため、さらには、本県最大の死亡原因であるがんの予防、早期発見、早期治療のためにも、生活習慣を見直すとともに、定期的な健康診断やがん検診の受診などに努めていただくようにお願いします。
 人と人とが共生するこの岩手において、だれもが地域で暮らしていけることは重要なことです。高齢者、障がい者が地域で安心して暮らしていける社会を目指し、引き続き生活支援や就労支援、相談支援体制の整備などの取り組みを進めるほか、介護サービス基盤の整備を促進してまいります。
 また、子供は未来の宝です。子供を安心して産み育てていくことができる環境を構築し、少子化に歯どめをかけることが必要です。このため、関係団体の協力を得ながら、子育て支援のための基金を創設するなど、官民一体となって子育て世代が仕事と育児を両立できる環境づくりを積極的に進めてまいります。
 中でも、保育所での一時保育、病児・病後児保育や地域子育て支援拠点の設置に対する支援などの保育対策とともに、企業と連携した子育て支援の取り組みを進めてまいります。
 あわせて、児童虐待防止のための総合的な取り組みや発達障がい児の早期発見と適切な療育、訓練などを支援し、子供が健やかに育つ環境の整備を進めてまいります。
 次に、第4の柱、総合的な防災対策と危機管理の徹底についてであります。
 昨年の2度の地震の傷跡は各地に今なお残り、一部の住民の方々はいまだに避難生活を送られています。地震発生直後から関係機関と連携を図りながら復旧に当たっておりますが、少しでも早く復旧・復興ができるよう、道路、河川等の公共土木施設や、農地・農業用施設、林地崩壊箇所などにおいて復旧対策を実施するほか、地域農業の復興に向けた支援などを行ってまいります。
 同時に、被災によって得た教訓を生かし、実践的な防災訓練の実施や自主防災組織の育成など、地域の防災対応力を強化するほか、災害発生時の建物崩壊を防止するための木造住宅の耐震診断や、耐震改修への支援、緊急輸送道路を確保するための橋梁の耐震補強など、災害に強いまちづくりを進めてまいります。
 また、県民が安心して暮らせる社会としていくためには、良好な治安の維持は不可欠です。現在、地域での防犯パトロールなど自主防犯活動や防犯意識高揚に向けた取り組みを進めていますが、引き続き、振り込め詐欺や悪質商法等の犯罪被害防止、交通ルールやマナーの周知などに取り組んでまいります。
 さらには、市町村と連携し、消費生活相談体制の機能強化を進めるとともに、多重債務問題の解決支援にも取り組んでまいります。
 あわせて、食に対する県民の不安が高まっていることから、食の安全に関する県の組織の一本化を図り、食品衛生や食品表示などの総合的な指導、検査、監視を行うほか、食の安全・安心に関する条例を平成21年度中に制定し、県民、事業者、行政が一体となって本県の食の安全・安心に対する信頼の確保、向上に努めてまいります。
 次に、第5の柱、ふるさとづくりを担う人材の育成についてであります。
 本県では、これまで、日本あるいは世界で活躍する数多くの人材を輩出してきました。そして、これからも人が育つ岩手、人を育てる岩手であり続けなければなりません。
 そのため、学校教育においては、まず、学校経営の目標を明確に掲げ、家庭や地域と連携した取り組みを一層推進してまいります。そして、客観的な課題分析を基本とした学力・授業力向上対策、キャリア教育の推進、学校不適応児童生徒への支援、特別支援教育の充実など、知・徳・体を総合的に兼ね備えた、社会に適応する能力を育てるための教育を進めてまいります。
 また、平成28年の国民体育大会の本県開催に向け、現在その準備を進めているところですが、この国体の主力選手を計画的に育成していくことが必要であり、中長期的計画に基づいた競技力向上を着実に進めてまいります。
 さらに、競技スポーツ強化と県民の健康づくりの拠点となるスポーツ医科学機能を備えた多目的屋内練習施設の整備を進めてまいります。
 地域が元気であるためには、世代や性別にかかわらず、幅広い参加と協働により多様な市民活動が行われていることが重要です。
 そのため、活動を牽引する人材の育成や情報提供などを通じて市民活動の活性化を図ってまいります。
 また、首都圏における移住、就職、就農の相談会を中心とした総合イベントの開催や体験ツアーの実施、市町村の受け入れ体制の整備などを通じて、県外からの人材の誘致、交流人口の拡大などに努めてまいります。
 次に、第6の柱、世界に誇れる岩手の環境の実現についてであります。
 本県の豊かな自然や良好な環境は、先人によって守り育てられてきたものであり、私たちの生命と暮らしを支える基盤となるものです。
 昨年11月に、私は県民を代表し、すべての人々の幸せを願い、豊かな自然と共生していくという価値観を未来に引き継ぎ、世界に発信するとともに、この地に環境王国を実現することを目指して行動することをいわて環境王国宣言として発表しました。
 この岩手の環境を守る取り組みは、かけがえのない地球の環境を守ることにつながります。2010年に二酸化炭素8%削減の目標を達成するとともに、中長期を展望した低炭素型の地域社会を実現するため、地球温暖化対策を推進する県民組織の立ち上げや、環境人材の育成など県民総参加による取り組みを進めていくほか、住宅用太陽光発電の導入支援や、施設園芸、畜産等の産業分野での木質バイオマスエネルギーの利用促進など、新エネルギーの導入に向けた取り組みを進めてまいります。
 さらに、循環型地域社会の形成に向け、廃棄物の発生抑制等に取り組む事業者への支援や、公共関与による廃棄物処理施設としてこの4月に新たに稼働するいわて第2クリーンセンターの適正な運営の確保など、廃棄物の適正処理の推進に努めてまいります。
 また、本県の豊かな自然環境を守るため、イヌワシを初めとする希少野生動植物の保護対策や、良好な大気、水環境の保全対策などを進めてまいります。
 これらの取り組みを県民、事業者、行政が一体となって進めるとともに、平成23年度を計画初年度とし、おおむね10年後を見据えた新しい環境基本計画の策定に着手するなど、環境と共生する持続可能な地域社会を構築するための取り組みを推進してまいります。
 これら政策の6本の柱のほか、その土台となる産業の振興や快適な生活環境の実現のための社会資本、交通ネットワーク、情報通信基盤の整備などに着実に取り組んでまいります。
 また、老朽化が進む橋梁を初めとする社会資本の計画的、効率的な維持管理にも努めてまいります。
 全国初の第三セクター鉄道として開業した三陸鉄道は、4月に開業25周年を迎えます。三陸鉄道を初め、IGRいわて銀河鉄道や路線バスは、地域の生活基盤、産業振興基盤として重要な役割を果たす公共交通機関ですが、近年は利用者の減少などによって厳しい経営環境にあります。地域における公共交通を維持していくためにも、ぜひ日常の足として、観光の交通手段として、そして環境に優しい乗り物として積極的な利用をお願いします。
 今、世界の姿、日本の姿は変わりつつあります。岩手もまた、みずからの力で変化を遂げていかなければなりません。こういう変化が激しく先を見通しにくい時代であるからこそ、長期的な視点に立ち、しっかりと将来を見据えた、岩手人かくあるべし、岩手かくあるべしというビジョンが必要です。
 現行の岩手県総合計画の策定からおよそ10年が経過し、地域経済や県民生活を取り巻く環境が大きく変化している中で、グローバル化に対応した岩手の未来とその実現に向けた方向性を平成21年度内に新しい長期計画として取りまとめたいと考えています。
 この計画は、県民の皆様が10年後にどうありたいかを考え、それぞれの夢や希望に向かって行動していく羅針盤としての性格を有する岩手県民計画としたいと考えています。ぜひ一緒に岩手の未来を考えてまいりましょう。
 昨年は、岩手にとって多事多難な年でありました。そして、ことし平成21年はうし年、私たち岩手の年です。危機を希望に変えるための正念場の年です。
 高村光太郎は、60年前に「岩手の人沈深牛の如し 地を往きて走らず 企てて草卒ならず ついにその成すべきを成す」とうたい、岩手県人の実直さと粘り強さを賞賛しています。また、「牛」という詩の中では、「牛は力一ぱいに地面を頼って行く 自分を載せてゐる自然の力を信じ切って行く ひと足、ひと足、牛は自分の道を味はって行く」と、牛が自分を取り巻く環境をわかりながら、着実に前に進むさまを表現しています。
 今、岩手には大きな逆風が吹いています。私は、岩手の人々は、この逆風をしっかりと受けとめ、目指すべき方向を見失うことがなければ、逆風に吹き飛ばされることなく前に向かうことができると信じています。
 逆境の中で、今までわからなかったことがわかるようになり、今までできなかったことができるようになるはずです。逆境の中で、私たちは、私たちの中に埋もれていた黄金を発掘し、磨きをかけ、光り輝かせることができるはずです。県民一丸となって、この危機を克服し、希望に満ちた黄金の國いわてを実現してまいりましょう。
 議員の皆様の一層の御理解、御協力と、県民の皆様の県政や地域づくりへの積極的な参加を心からお願い申し上げ、私の所信表明を終わります。
 ありがとうございました。(拍手)
   教育委員会委員長の演述
〇議長(渡辺幸貫君) この際、教育委員会委員長から発言を求められておりますので、発言を許します。箱崎教育委員会委員長。
   〔教育委員会委員長箱崎安弘君登壇〕

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