平成20年6月定例会 第6回岩手県議会定例会会議録

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〇48番(小野寺好君) 公明党の小野寺好であります。
 発議案第3号に反対の立場で討論いたします。
 平成18年6月21日に公布されました健康保険法等の一部を改正する法律により、老人保健法を廃止し、平成20年4月から高齢者の医療の確保に関する法律が施行されました。その内容は、医療費適正化計画、生活習慣病予防、後期高齢者医療制度の創設でありますが、特に後期高齢者という名称は老人を差別扱いするものでよろしくないとか、保険料を年金から天引きするのは納得できないとか、保険証が届いていない、あるいは届いたかもしれないが捨ててしまったと思う等々、事の本質から離れた不安、不信を募らせる格好のニュースの材料となりました。
 その結果、後期高齢者医療制度を廃止せよという短絡的な声が上がってきたわけでありますが、仮にもとに戻したとしても、旧老人保健法第25条第1項第1号はもともと対象者を75歳以上と規定しているのであり、また、同法第28条第1項第1号で医療機関での窓口負担は1割となっていて、今回の後期高齢者医療制度になって急変したわけではありません。
 大多数の高齢者が市町村国保と老人保健に戻ったらどうなるか。国民健康保険特別会計及び老人保健特別会計は市町村ごとに運営されておりますが、財政規模が小さく高齢化率の高い自治体では、医療費が増嵩してきているため、国保税を値上げしたり一般会計からの繰り入れを多くしなければなりませんが、これにはおのずと限界があります。そのため次の手段として、来年の収入を先食いする繰り上げ充用という禁じ手を使う自治体がふえております。国保新聞平成20年6月1日付の記事によりますと、平成18年度、全国の市町村国保特別会計において繰り上げ充用をしているのは137保険者、総額1、280億円に上っており、そのうちの8割の自治体では継続して繰り上げ充用を行っていると報じております。県内には繰り上げ充用の例がありませんが、北海道、大阪府、福岡県の自治体に多く見られます。全体的に、国保税を上げることも一般会計からもらうこともできなくなってきているのであります。
 また、老人保健特別会計でありますが、これは税金と各種保険者からの拠出金に頼っているのでありますが、特に現役世代に比重を置いて頼らざるを得ませんが、現役世代はこれ以上負担できない実態にあります。75歳以上の人口は現在1、300万人ですが、17年後には2、200万人になり、国民医療費は現在の33兆円から56兆円に、その半分を75歳以上の高齢者が占めると推計されています。何としても早急に現役世代を守り、かつ高齢者の医療を確保する制度の創設が求められたのであります。
 後期高齢者医療制度が施行されるまで、10年間、議論、検討がなされてきました。公明党が連立政権入りする前、平成10年8月11日、旧厚生省が21世紀の医療保険制度案を発表し、1年後の8月に四つの素案がまとめられました。その後、平成13年11月29日、医療制度改革大綱がまとめられ、75歳以上の方を対象に、高齢者みずからが負担能力に応じて保険料を負担することを基本とし、現役世代からの支援と公費の適切な組み合わせを図ることとされましたが、その後も5年ほど議論、検討が続き、平成18年に成立し、ことしの施行となりました。既に国保会計、老人保健会計が破綻寸前にあったため、後期高齢者医療制度が施行されたのであります。視力、聴力、足腰の衰え、高血圧や心疾患を持つ高齢者は従来どおり医療機関窓口での負担は1割で、総体での公費負担は5割にふやしましたので、かなり多数の方が国保税より安い保険料になりました。
 なお、国保税については、所得割、資産割、平等割、均等割の4区分を算出して賦課する4方式から、地価の高い大都市のように、資産割を外し所得割と均等割しか賦課しない2方式を採用するなど、自治体によってさまざまで、しかも独自の軽減措置を設けるなど、単純に保険料を比較することは難しくなっております。一部マスコミは、負担増を強調するため、比較の対象をセレクトしたりしていますが、総体として公費の負担割合を5割に増し、高齢者の個人負担は軽減されております。
 年金からの保険料天引きは、確実な徴収と事務的経費の節減、納付者の便益に資するものでありますが、国会の議事録を検索いたしますと、平成8年6月12日、衆議院厚生委員会で、国保の未納対策として年金等からの天引きを言い出したのは菅直人、当事の厚生大臣であることがわかります。また、旧自由党は、平成15年、国民生活充実基本法を国会に提出し、その第12条第4項で、国は高齢者について独立の医療保険制度を創設することとし、その対象は70歳以上の者とすると明記しています。
 民主党は平成17年、総選挙の際、マニフェストで、透明で、独自性が強い、新たな高齢者医療の創設を含む医療制度・医療保険制度改革に取り組みますとしております。要するに、与野党の立場を超えて高齢者の医療を確保していかなければならないということを確認しているのであり、それゆえこの後期高齢者医療制度の骨格を守り、細かな不都合については運用面で改良を加えていくべきであります。
 自分にとって保険料が上がったとか安くなったとか、後期高齢者という名称が不適切だとか、年金からの天引きを中止せよとか否定的にだけ言われてきましたが、現役の負担を抑え、高齢者が引き続き低い保険料、窓口での1割負担で医療機関にかかることができる制度を確立したこのことこそ評価されるべきであります。
 さらに、老人医療の陰に隠れた感のある救急医療や産科医療をどうするか、職業別になっている医療保険制度をどうするか等々、今後、本質的問題を論じていかなければならないのであります。
 さて、提案されましたこの意見書案の骨子は、ことし4月施行の後期高齢者医療制度は、以下の理由により、速やかに廃止するよう国に求めようとするものでありますが、果たしてそうでしょうか。
 1、75歳以上のすべての高齢者から保険料を徴収するもので、しかも低所得者に負担を強いていると述べていますが、自分が医療機関のお世話になるかどうかにかかわらず、保険料を納めるのが社会保険制度であり、また、扶養されていて納めていないとはいっても、扶養者がお給料から事業主と折半してかわりに納付してきたものであります。さらに言えば、低所得者といえども厳しい国保税が課せられてきたのでありますが、今回の保険料ははるかに安くなっております。
 2、今後に見込まれる医療費の増加で現役世代と後期高齢者の保険料負担が増加することを問題にしていますが、医療費の増加が懸念されるからこそ現役世代からの支援割合を明確にし、公費負担を5割に拡大して安定した運営を期しているのであります。
 3、75歳以上の高齢者の健康診断の実施が努力義務となることは高齢者の健康の保持増進に影響が出ると問題視しておりますが、これまでも老人保健制度で実施していた基本健康診査と同様の健診が今後も居住地で受診できます。その際、健診にかかる費用の一部負担を請求されることがあるものの、問題はないと考えます。健診を受ける、受けないなど、医療における自己選択、自己責任は今後ともきちっと認識されなければならないのは当然だからであります。
 以上の理由によりまして、発議案第3号は認めがたく、これに反対いたします。(拍手)
〇議長(渡辺幸貫君) 次に、斉藤信君。
   〔38番斉藤信君登壇〕

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