平成19年6月定例会 第2回岩手県議会定例会会議録

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〇13番(高橋博之君) 政和・社民クラブの高橋博之でございます。
 改選後、初となる今定例会におきまして一般質問の機会をいただき、先輩議員並びに同僚議員に感謝申し上げます。
 初めに、知事がマニフェストに掲げた2大戦略の一つ、岩手ソフトパワー戦略についてお尋ねいたします。
 私がこのソフトパワーという言葉を知ったのは、今からちょうど10年前でした。国際政治学者で、かつてクリントン政権の国防次官補を務めたジョセフ・ナイ氏は、世界は、軍事力や経済力といったハードパワーだけでは動かず、文化、価値観、外交政策などの魅力によって望む結果を得る力、つまりソフトパワーがないとハードパワーも空回りに終わると提唱しました。当時としては大変真新しい考え方でしたが、イラク戦争の結果が、ナイ氏の考えに一定の評価、説得力を与えました。
 米国は、多くの国の反対に耳をかさずに戦争を始め、結果としてソフトパワーを損ねました。日本の経済力にも陰りが見え、どのようにソフトパワーを磨き、活用していくかが問われる時代となったと言えます。
 知事が、ソフトパワーを県レベルに落とし込み、岩手の文化や岩手の心を積極的に情報発信し、岩手の文化的魅力、道義的信頼を高めていこうという考えのもとに打ち出した岩手ソフトパワー戦略は、地方が国境を越えて活動し、世界市場における厳しい競争に直接さらされるグローバル化の時代にあって、先進的で野心的な試みだと評価したいと思います。
 一方で、岩手ソフトパワー戦略は、戦略という性格上、どうしても抽象的な感が否めず、何を目指すのか県民から見て判然としないという点についても指摘しておきたいと思います。
 確かに、具体的取り組みとして平泉文化遺産の平成20年の世界遺産登録を掲げ、平泉の平和の精神を世界にアピールするとともに、岩手県民のまじめさ、勤勉さをベースとして、岩手ブランドをさらに発展させ岩手の魅力を発信していきたいとしていますが、そのことによって、具体的に県民にどのようなメリットがもたらされるのでしょうか。
 まずは、この点について知事の御見解をお伺いいたします。
 私は、ソフトパワーが県民に与える具体的なメリットとして、経済的効果を強く打ち出すべきだと考えます。近年、海外における日本文化の影響力が大きくなっています。文化関連の商品に加えて、特許等使用料や文化、興行等からの収入など、文化関連の製品サービス輸出合計額は年々増大し、95年から2005年までの10年間に3倍以上になったとされています。これらの文化関連輸出の中では特許使用料が大部分を占めていますが、これは、自動車や一般機械、食品など、日本企業の海外生産が増加したことのあらわれであり、潜在的に日本文化を体現しているブランドが、大いに海外に広がっていることの証左であります。
 具体的な事例の一つにトヨタ自動車があります。トヨタが2003年6月にカリフォルニアで発売開始した小型車サイオンの売り上げが好調だったのは、日本のアニメやビデオゲームとともに育ち、すべての日本製品に対して強いあこがれを持つ80年代生まれの若い消費者層での人気に負うところが大きかったとされています。このように、自動車産業のような巨大産業でも、海外における日本文化の流行の恩恵を受けているのです。
 こうした文化というソフトパワーが経済活動に及ぼす影響力について、知事は、どのように御認識されていますでしょうか。
 また、2大戦略を踏まえた6本の政策の柱の一つ、地域に根差しながら世界に羽ばたく産業の育成と岩手ソフトパワー戦略との兼ね合いについても、あわせてお尋ねいたします。
 知事は、グローバル化が進む中で、県民所得の向上のためにも中国との関係は大きなチャンスだとし、就任後に訪中され、大連市との間で県産品の輸出促進、観光客誘致、農林水産、環境分野での技術的交流について、定期的に協議を行うことを盛り込んだ地域間連携の推進にかかわる協定を結びました。
 大連市を初めとする東アジア地域都市との経済交流を密接に深めていく上で、知事が唱える本県のソフトパワーをどのように発揮していこうとしているのか、諸外国との経済交流・経済交渉における岩手ソフトパワー戦略の位置づけについての御認識についてもお尋ねいたします。
 次に、コミュニティの再生についてお尋ねいたします。
 ことし3月の予算特別委員会総括質疑において、県として、県内の過疎地域の状況をどのように把握しているのか。把握していないとすれば、県独自に調査を進め、その把握に努めるべきではないのかという私の質問に対し、前知事から、来年度に新しく調査を実施するとの答弁をいただきました。今回6月補正予算において、県内約3、500地域の実態調査を実施する草の根コミュニティ再生支援事業として具現化されました。県全域の町内会・自治会レベルの調査は全国的にも珍しいということですが、高く評価したいと思います。
 宮沢賢治の雨ニモマケズの中で、「東ニ病気ノコドモアレバ行ッテ看病シテヤリ、西ニツカレタ母アレバ……」という節があります。本県に根づくこのほっとけないという相互扶助の精神が、集落の共同生活を支えてきました。言ってみれば、地方においてこうした結いの精神が、目に見えない社会保障制度として機能してきたのです。
 しかしながら、人口減少社会の到来に伴って、地域コミュニティの力は弱まり、集落での共同生活の維持が困難になりつつあります。行政が、集落が担ってきた福祉的な機能を仮に税金を使って補完・代替しようとすれば、今まで数字として表に出てこなかったそのコストは、想像をはるかに越える大きなものになると予想されるわけですが、県は、そのコストをどの程度のものと認識されていますでしょうか。
 こうしたコストをできるだけ抑えていくためには、目に見えない社会保障制度の機能を再生していくしかありません。
 花巻市では、予算と権限を地域におろして市民協働のまちづくりを目指す小さな市役所構想の取り組みを始めました。こうした取り組みを通じて、かつてあった住民力に気づくことは、自己決定力や責任感が育ち、強い個人と地域コミュニティをつくることになります。それは、生活を豊かにし、顔の見える社会にもつながります。こうした花巻市の取り組みについて、県はどのように評価されていますでしょうか。
 これまでの市町村合併は、枠組み論が中心で、コミュニティのあり方まで議論してこなかったように思いますが、この点について、どのような総括をされていますでしょうか。
 草の根コミュニティの再生に当たっては、このコミュニティのあり方についての議論が必要になってこようかと思います。個人でできないことは家族、家族でできないことは地域、地域でできないことは市町村、そして県、国でやるというのが理想ですが、そのためには、最後の自治の担い手であるコミュニティのあり方を明確にしていく必要があります。市町村を巻き込んで全県レベルでコミュニティのあり方について議論していく必要があろうかと思いますが、いかがでしょうか。
 集落の維持には、高齢者を支える側の若年層が必要になります。若年層が首都圏へ流出している背景として雇用の場の確保が指摘されていますが、私は、ふるさとへの帰属意識の低下も大きな問題だと考えます。
 知事は、大都市圏との広がる経済格差を問題としています。県民所得は幸福を得るために必要なものですが、あくまで幸福を得るための数ある手段の一つにすぎません。自由な時間や家族の団らん、自然からの恵みなどは、県民所得でははかれませんし、県民所得を高めるために、これらを捨てたり省いたりしなければならないこともあります。
 県民所得でははかれない豊かさが、本県にはたくさんあります。こうした足元にある豊かさに目を向けることなく、殊さらに県民所得を問題にすることは、東京に象徴される都市文明と簡単に同化し、ふるさとへの帰属意識を弱めてしまうことになるのではないでしょうか。
 ブータンという国は、国内総生産ではなく、国民総幸福量という独自の国家目標を掲げ、地域の共同体や家族の役割、環境を重視する国づくりを行っています。本県でも、これからの地域コミュニティの担い手である若年層のふるさとへの帰属意識を取り戻す一つの方法として、県民総幸福量という新しい豊かさをはかる尺度の導入を提案したいと思いますが、この提案についての御所見をお伺いいたします。
 旧東ドイツでは、ベルリンの壁崩壊後、ドイツ西部への大規模な人口流動が起き、各地の産業都市は急激な人口減に見舞われました。このとき各州政府が、コミュニティや都市基盤などさまざまな分野で縮小都市戦略をつくり、中心部への移住などを進め社会の活力を維持したと言います。
 同じく人口減少に見舞われている本県にとって、縮小都市戦略は、一つのモデルケースになると思います。ひとり暮らしの高齢者の集住化が進めば、安否確認の面でも心強いと考えます。こうした縮小都市戦略を参考に、県が主導的に集住化を進めていく考えはないのでしょうか。
 次に、インクルーシブ教育についてお尋ねいたします。
 我が国では長年にわたって、重い障害の子は養護学校、軽い障害の子は特殊学級、それ以外の普通の子は通常学級という分離教育を行ってきました。社会において障害のある人とない人を分けてきた根本的要因は、この学校教育にあると私は考えていますが、まず、この点について、知事の考えを聞かせていただきたいと思います。
 近年、障害児が健常児から隔てられることなく、両者が同じ普通学級で学ぶ制度への関心と期待が高まっています。それがインクルーシブ教育です。インクルーシブ教育は、94年のユネスコのサラマンカ宣言で提唱され、国際的に認知されました。また、インクルーシブ教育を原則に定めた障害者の権利条約が昨年12月、国連総会で全会一致で採択されました。
 こうした流れを受け、文部科学省も障害児教育の方針を大きく転換しました。4月から改正学校教育法を施行し、障害児を集めて専門教育をするという考えを改め、障害のない子供とできるだけ一緒に授業を受けさせるという姿勢になりました。しかしながら、施設や人員面などハードルがあり、現実には、これまでの分離教育から脱却するまでには至っておりません。
 本県でも、小・中学校の通常学級に在籍する障害のある児童生徒に非常勤教員を配置する、いわて特別支援教育かがやきプラン推進事業を実施しておるとのことですが、現状のままで十分だという認識を持たれているのかお聞きいたします。
 私が花巻市内の小学校を調査したところ、特別支援学級が設置されていない小規模校では、障害児が、かがやきプランを活用した非常勤教員の補助を受け通常学級で学び、必要に応じて個別指導も受けるなど、きめ細かな教育を受けていました。一方で、特別支援学級が充実している大規模校では、逆に通常学級に就学した障害児が、安易に特別支援学級に追いやられている例が見られました。こうした現状をどのように認識されておりますでしょうか。
 また、障害児の就学先を事実上振り分けている就学指導委員会の必要性について疑問を持っておられる方が少なくありませんでしたが、この就学指導委員会の必要性についてどのように考えていますでしょうか。
 一人一人の教育上のニーズを満たしていく支援は欠かせません。しかし、それを理由に、障害児が地域の普通学級で障害のない子供とともに生きる関係が断ち切られてはなりません。地域の普通学校で必要な支援を受け、一人一人のニーズが満たされながら、多くの障害のない子供との普通の関係があってこそ、障害児も社会の一員として生きる力を獲得していけるのです。本県ではそのような教育が行われていると言えるのでしょうか、お伺いいたします。
 また、まだ十分に行われていないとすれば、いわて特別支援教育かがやきプラン推進事業をさらに拡充する必要があると思いますが、今後そのような考えはあるのかお聞きいたします。
 インクルーシブ教育の最大の課題として教員の意識改革があります。親の声を聞いていても、教員の意識の低さが目立ちました。県では、特別支援教育ボランティア養成講座を現在行っております。地域のボランティアの活用は大いにやるべきであり、同講座を評価したいと思いますが、教員の初期段階の研修にこの講座と実践プログラムを組み入れることを提案したいと思いますが、御見解をお聞かせください。
 県は、本年4月から4年間で盲・聾・養護学校を現在の17校から14校に統合し、四つの分教室を設置するとしています。盲・聾・養護学校の役割について否定するものではありませんが、今後は、規模を縮小し、余剰の教育資源を地域の教育現場に生かすなど、インクルーシブ教育の実現に向けてそのあり方についても考え直していく必要があると考えますが、県教育委員会としてどのような展望を持っておられるのでしょうか、お聞きいたします。
 インクルーシブ教育は、障害児のためだけのものではありません。人間はだれも、自分でできることだけで生きているわけではありません。自分の手でできないことや苦手なことを他者の手で補いながら生きています。少子・高齢化の進展に伴って、行政だけでは社会保障を正常に維持することが困難になっているときだからこそ、人々が互いに助け合い、役割を分かち合う社会を築き上げなくてはなりません。そうした社会を担う人材をつくるためには、子供たちは、学校現場でも同じような体験を持つことが大切であり、インクルーシブ教育が、その体験の場を与えてくれます。
 知事も、草の根の地域を支援し守ることが大事だと言っておりますが、助け合いや支え合いの上に成り立つ草の根の地域を支える人材を育てるのが、インクルーシブ教育なのです。教員をふやすことや学校施設の改修など、インクルーシブ教育には財政負担が伴いますが、将来の地域づくりを担うかけがえのない人材を育成するための意義ある投資と考えるべきです。
 今、県は人を育てるという先を見据えた投資を果たしているのでしょうか。知事の御所見をお伺いいたします。
 インクルーシブ教育は、補助教員や子供同士、ボランティアの活用を含めたチームで授業をするのが基本になります。ですから、通常の教育に大きな影響を与え、障害のあるなしや差異にかかわらず、子供を落ちこぼれさせない、そして自分の学習能力を自己認識させる授業を志向することが要求されます。
 これは、まさに今、世界から注目を集めるフィンランドの教育にもつながるものです。経済協力開発機構の15歳児学習到達度調査で学力世界一の評価を定着させたフィンランドでは、落ちこぼれをつくらず、自己評価ができ、自己肯定感を持てる教育を実践しています。フィンランドのユバスキュラ大学のヨウニ・ヴァリジャービ教授は、学習障害を抱える生徒をきちんと支援することは、実に投資価値のあることであるとも発言しています。
 インクルーシブ教育は、これまでの教育のあり方そのものを問うものだと考えますが、御所見をお伺いいたします。
 最後に、選挙の開票事務について質問をさせていただきます。
 選挙の開票事務改善は、行政の効率化を追求する取り組みの一つです。開票事務改善の動きは、昨年4月18日の産経新聞の朝刊に、「コンマ1秒の節約実る 多摩市長選 46分で開票終了」という記事が載ったことがきっかけになり、現在、全国的に大きな運動になっています。5月23日の総務省選挙部の選挙特報にも、開票についての迅速化に取り組むよう、具体的な内容に踏み込んだ通知が行われています。
 4月の統一地方選挙では、本県でも全県を挙げて開票事務の改善運動に取り組んだと聞いております。県選挙管理委員会では、全国に先駆けて事務従事者1人当たり1分間開票数という数字を指標に、県内の自治体の開票事務迅速化への取り組みを評価いたしました。今回、県内のほとんどの自治体でこの指標の改善が図られ、最も効率的であった紫波町では、事務従事者1人当たり1分間に10.21票を処理しています。県選挙管理委員会の新しい指標による検証が、各市町村の開票事務の効率化を促したものと評価したいと思います。
 そこでお聞きしますが、前回の統一地方選挙と比較し、どの程度コスト削減があったのでしょうか。今回、開票事務の改善により余った委託金は、各市町村から返還してもらうことになると思いますが、返還した自治体を発表するとともに、返還した金額の一部または全額を、その自治体に別の名目で還元するなどの財政的な優遇措置を検討してみてはいかがでしょうか。そうする仕組みをつくることで、予算の全額を使い切るという行政のあしき慣習も改革され、さらなる開票事務改善に向けたインセンティブにもなると思いますが、御所見をお伺いいたします。
 前回より開票事務が改善した一方で、4月の統一地方選挙における県議会議員選挙の開票所要時間の県内平均は、本県の場合、2時間6分と全国ランキングで第30位となっています。ちなみに、同じ東北の福島県は1時間20分で第2位です。自治体の規模の大小もあり、一概に比較できるものではありませんが、この数字について、どのように分析されていますでしょうか。
 開票事務改善の意義について、経費削減と時間短縮の側面から説明してきましたが、一番の意義は、この改善運動を通じて職員の意識改革を行うことです。これは、行政品質の向上運動だという点がポイントです。これまでは、選挙の開票時間はこんなものという思い込みから、作業の効率化や改善は余りなされてきませんでした。今回の統一地方選では開票時間が30分を切り、マスコミにも大きく取り上げられた福島県相馬市、広島県三次市、長野県小諸市では、明確な目標を設定し、職員が担当事務を超えて研修、リハーサルを繰り返し、そこから生まれた創意工夫、アイデアが開票事務の短縮化に生かされていったとのことです。その結果として、市役所全体として、嫌々仕事をやっていたやらされ感から、みずからの意思で積極的に仕事に取り組むやりがい感に職員の意識が大きく変化します。こうした意識改革こそが本当の行政改革だとは言えないでしょうか。4月の統一地方選挙において、佐賀県では、古川康知事のリーダーシップのもとで、佐賀県選挙管理委員会が中心となり、全県を挙げて開票事務の改善運動に取り組んだ結果、開票所要時間の県平均が54分短縮されるといった大きな成果を上げています。トップリーダーの決意が、職員みずからによる行政品質の向上を促したと言えます。
 そこで知事にお聞きいたしますが、来る参議院選挙において、開票事務改善にリーダーシップを発揮する決意はありますでしょうか。あるとすれば、ぜひ、短縮の目標時間をここできっちり宣言していただきたいと思います。
 地方分権一括法の施行や三位一体の改革により、全国の自治体では住民自治のあり方が大きな課題となっています。自分たちのことは自分たちで決めるということの代表的なものが、自分たちの自治体の首長や議員を選ぶ選挙であり、真の選挙のあり方を探求し、創造していくことが本来の選挙管理委員会の取り組むべき職務であります。なぜ選挙の投票率が低いのか、なぜ若者は選挙や政治に関心を持たないのか、なぜ選挙の開票は時間がかかるのか、なぜ自主性、協働や互助の意識、公共の概念がなかなか根づかないかなど、現在、社会が抱える課題は、選挙を通じて社会へ問うていく内容に通じるものも多く、選管の果たすべき役割は、地方分権時代の各自治体の自治のレベルに大きく作用するように思われます。本格的な地方分権時代を迎えるに当たり、選挙管理委員会の決意をお聞きいたします。
 以上で私の一般質問を終わりますが、答弁次第では再質問をさせていただきます。御清聴ありがとうございました。(拍手)
   〔知事達増拓也君登壇〕
〇知事(達増拓也君) 高橋博之議員の御質問にお答えいたします。
 まず、岩手ソフトパワー戦略についてでありますが、この戦略は、グローバル化が進展する中で、本県が自立した地域として発展していくため、本県の持つ普遍的価値を源泉とした魅力を岩手ブランドとして積極的に発信し、国内外から高い評価や信頼を得ようとするものであります。
 まず、具体的に県民にもたらされるメリットについてでありますが、県内で生み出された商品やサービスにブランドとしての新たな価値を付加し、いわゆる外貨の獲得や雇用創出といった好循環をつくり出し、地域産業の振興や県民所得の向上といった経済的な効果がもたらされ、同時に、伝統芸能や祭りといった地域活動を通じてはぐくまれている地域に対する誇りや、心豊かに暮らすことのできる満足感、地域への帰属意識などといった非経済的価値を、より一層高める効果も期待されるところであります。
 次に、このソフトパワーが経済活動に及ぼす影響力についてでありますが、ソフトパワーの持つ基底的な価値である文化的な魅力に対する評価が高まることにより、経済的な効果がもたらされるものと認識しておりまして、例えば、本県においては平泉文化を初めとする歴史的な文化価値が内外に発信されることにより、その魅力が認知され、観光客の入り込み数の増加が期待されるなど、地域経済が活性化するものと考えられます。
 また、昨今の社会において、企業のコンプライアンス違反が社会的な信用を失わせ、経済活動の致命傷になる事例が多く見られることからも、ソフトパワーの持つ基底的な価値である県民のまじめさや勤勉さとしてあらわされる道義的信頼の獲得が、経済活動に好影響を及ぼすと認識しているところであります。
 次に、海外戦略と岩手ソフトパワー戦略との関係でありますが、グローバル化の進展は、地方が内外の厳しい競争の波に巻き込まれていくという意味で大きな脅威である反面、地方の得意分野が世界に直結していく大きな好機でもあります。このため、地域に根差し、世界に羽ばたく産業を育成するに当たっても、例えば、買うなら岩手の物といった本県のブランド力を高めるというソフトパワー戦略が非常に重要と認識しております。
 こうした観点に立ち、中国を初めとする東アジア諸国の著しい成長を大きなチャンスとしてとらえ、高い品質や安全性への信頼といった価値を基軸とした本県の農林水産物の輸出促進、平泉の世界遺産登録を契機としたおもてなしの心による海外観光客の受け入れといった本県産業の優位性や魅力を発信、定着させていく考えであります。
 次に、コミュニティの再生に関連して、新しい豊かさをはかる尺度の導入についてでありますが、草の根の地域であるコミュニティを維持していくためには、若者の雇用の場の確保はもとより、あすの地域の担い手としての若者が、その地域や文化に誇りを持ち、さまざまな地域活動に積極的に参画できる仕組みを整備しながら、地域への帰属意識を高めていくことが必要であると考えております。
 その一つの方法として、お話のありましたブータンにおける国民総幸福量のような県民所得でははかれない豊かさを反映できる指標についてでありますが、豊かな自然環境や結いなどの人的ネットワークを評価することができるとすれば、本県は全国トップクラスであるというアピールができるのではないかと思われます。
 一方、国民総幸福量の指標化は研究段階と伺っているところであり、また、客観的に評価することについての難しさもあると思いますが、どのような尺度がよいかなど、御意見やアイデアをさらに広くいただければありがたいことと考えております。
 次に、コミュニティの再生に関連して、ドイツの州政府の縮小都市戦略を参考に、県が主導的に集住化を進めるとの考え方についてでありますが、ドイツにおける空洞化した都市への移住については、ベルリンの壁崩壊後、東西のドイツが統一されて以降、経済的な問題等から、旧東ドイツにおいて、都市からの旧西ドイツへの大量かつ急激な人口流出が大きな問題とされ、その再生を求める中で打ち出された方策であると認識しておりますが、直ちに本県におけるコミュニティ再生にモデルケースとして取り入れることが可能であるかどうかは、現時点では判断しかねるところでございます。再生の可能性が少ない集落については、都市への移住も一つの方策でありますが、集落の成り立ちにはさまざまな背景があり、置かれている条件は一様でないことや、集落の意向が何よりも尊重されなければならないことから、その実情を十分把握している市町村において話し合いを重ね、その中で最良の選択がなされるべきものと考えます。
 次に、インクルーシブ教育についてでありますが、社会における障害者の分離が進んだその要因について、障害のある子供に対する教育は、昭和22年の学校教育法の施行に伴って小・中学校に特殊学級が設置されたのに続き、昭和54年の養護学校義務制の施行によって、知的障害等を含むすべての障害のある児童生徒に対して義務教育が保障されることとなりました。特にも、昭和54年以前においては、障害の重い児童生徒には就学の機会が完全に保障されてはいなかったことを踏まえれば、すべての子供に対して特別な教育の場と専門的な教育内容を用意してきたことについては、一定の前進であったものと考えるところであります。しかし、障害のある子供と障害のない子供を分ける教育制度が長い間続けられてきたことが、障害のある人と障害のない人を分け隔ててしまいがちな社会の風潮を助長する一因となってしまったことは否定できないところがあるととらえております。
 次に、インクルーシブ教育と将来の人材育成についてでありますが、これからは、高齢者や障害者の方々が、その存在価値を認められ、多くの方々にしっかりと支えられていくような地域社会をつくり上げる必要があると考えます。このような地域社会を担っていく人材を育てる観点から、今後の学校教育において、障害のある子供と障害のない子供がともに学び、育ち合うという共生の精神を大切する教育、すなわちインクルーシブ教育が広く普及していくことはまことに望ましいことであると思います。県としても、こうした認識のもと、希望する子供や保護者が普通学校、通常学級での教育を適切に受けられるよう、その環境整備に努めてまいりたいと思います。
 次に、インクルーシブ教育とこれまでの教育のあり方の関連についてでありますが、ともすれば、子供たちの中に、自分さえよければいいという好ましくない風潮が生まれがちな今日、学校教育において、こうした風潮をただしていくための取り組みが十分に行われていないのではないかという疑問や批判もあると受けとめております。そのような中で、障害のある子供を含め、仲間が互いに支え合い、助け合って生きるための共生の精神を身につけさせるという、学校教育に本来求められている方向性をより確かなものとして実現していく上で、インクルーシブ教育は大きな可能性を有しているものと思料いたします。
 次に、選挙の開票事務の改善についてでありますが、選挙の開票事務は、適正さを確保しながら、効率性、迅速性が求められているという点において、行政の典型的な事務ととらえることができ、市町村がみずから考えて選挙開票事務の改善に取り組むことで、市町村職員一人一人の意識改革がなされ、市町村が行う事務全体の改善にも波及することを期待しているところであります。したがいまして、選挙開票事務の改善は、市町村が自発的に取り組むことが必要であり、現在多くの市町村で取り組みが進められてきていることから、私としては、開票時間短縮の具体的な目標時間は、市町村が自主的に設定するべきものであると考えております。
 県選挙管理委員会におかれましては、市町村選挙管理委員会への適切な助言や情報提供などに努め、自発的な選挙開票事務の改善を促されるよう期待するところであります。
 その他のお尋ねにつきましては関係部長から答弁させますので、御了承をお願いいたします。
〇議長(渡辺幸貫君) 本日の会議時間は、議事の都合によりあらかじめ延長いたします。
   〔地域振興部長藤尾善一君登壇〕
〇地域振興部長(藤尾善一君) まず、集落が担ってきた福祉的機能のコストについてでありますが、集落における相互扶助活動は多岐万般にわたっており、具体例としては、声かけや安否確認、連絡体制づくり、敬老会ほか各種交流会の開催、資源回収活動、防災訓練等が挙げられるところでございます。それら活動機能は、行政が税をもって補完、代替し得ないものでございまして、質的にも、量的にもコスト換算することは難しいものと考えております。それだけ、その活動価値は、議員御指摘のとおり、極めて高いものがあると存じておりますが、県としては、今後、集落におけるそのような機能を市町村とともに守っていかなければならないと考えているところでございます。
 次に、花巻市の小さな市役所構想についてでありますが、この構想は、合併を契機に取り組みが始められましたが、その内容におきましては、合併後のまちづくりの基本は、地域のことは地域で考え解決していくという、自立した地域と自立した市民によるべきものとの信念に基づき、一つに、合併前の旧市町単位にこだわらず、住民に身近な小学校区単位の区割りとしたこと。二つに、活動経費である交付金の使途は、地域住民が組織したコミュニティ会議が決定すること。三つに、地域課題の集約にワークショップの手法を取り入れていることなどに特徴がございます。合併により、市町村の行財政基盤を強化すると同時に、広域化する圏域の中で、住民自治の基礎となる草の根地域が期待される機能を十分に果たし得ることが必要であり、そのためには、合併した市町村において域内分権も進めることが有力な手段と認識いたしているところでございまして、花巻市の小さな市役所構想は、この考え方に沿ったものであり、本県における一つのモデルとして成功するよう期待いたしておるところでございます。
 次に、市町村合併とコミュニティのあり方についてでございますが、合併旧法下におきましては、手厚い財政優遇措置を目当てに、財政難から脱するための手段として合併を選択したのではないかとか、新たなまちづくりの議論より枠組み論のみに終始したところもあったのではないかと言われることもございますが、少なくとも、岩手県内の合併市町では、合併協議の過程において、地域自治区の導入の是非をめぐってコミュニティのあり方を議論してきたものと認識いたしておるところでございます。
 そもそも市町村合併は、地方分権の進展や人口減少社会への対応など、将来に備え、市町村の行財政基盤を強化して、草の根地域を支援できる持続可能な自治体をつくり上げるものであり、今後の合併論議におきましては、合併を契機として、住民の方々の主体的な参画が可能となるような草の根の地域を支援する仕組みをいかに構築していくかなど、将来の新しいまちづくりのあり方について、真剣に議論すべきものと考えておりまして、そのため県としては、住民の方々が的確に判断できるよう、必要な材料を提供してまいりたいと考えております。
 次に、コミュニティのあり方を議論する必要性についてでありますが、それぞれのコミュニティには、その形成過程において、地理的、文化的、歴史的背景があり、また、人口や世帯数、年齢構成など、その置かれている条件は一様でないため、そのあり方もまた千差万別であると存じております。したがって、その検討におきましては、まずもって、その意向を最大限に尊重するとともに、その実情を十分把握している各市町村と綿密に連携しながら進める必要があります。
 県としては、6月補正予算で創設する草の根コミュニティ再生支援事業におきまして、市町村や大学等と連携し、全県を対象としたコミュニティの実態を調査し、その結果を類型化して抽出した地域において草の根コミュニティ大学(仮称)を実施し、地域の住民の方々が中心となって、コミュニティの活性化について議論を深める予定でございます。その際、県や四つの広域単位で、県、市町村、住民、大学等外部の人材とともに地域のあり方検討会を開催する予定としておりまして、市町村等と十分な連携のもとに、地域の活性化策を検討してまいりたいと考えております。
   〔教育長相澤徹君登壇〕
〇教育長(相澤徹君) インクルーシブ教育についてお答えを申し上げます。
 まず、岩手特別支援教育かがやきプラン推進事業について二つほど御質問がございましたので、あわせてお答えを申し上げたいと思います。
 本年5月に調査をいたしました県内の小・中学校のうち、通常の学級に障害のある子供が在籍している学校は延べ269校、学級数は405学級に上ります。これに対して、県の特別支援教育かがやきプラン推進事業による非常勤職員の配置は35校35人、市町村による支援員等の配置は125校132人にとどまっており、まだまだ不十分な状況にあると認識をしております。今後の充実策については、国の交付税措置を活用していくことをベースに置きたいと考えておりまして、本年度から来年度にかけて、公立の小・中学校のすべてに市町村の特別支援教育支援員を配置することは最も重要なことと考えており、支援員配置の拡充に向け、市町村とも協議を深めてまいりたいと考えております。
 次に、特別支援学級が設置されている学校内の就学指導についてでございます。
 特別支援学級への入級に際しては、子供の障害の状態はもとより保護者の意見を十分に聞きながら、望ましい教育のあり方を一緒に考える姿勢が大切であり、改正された学校教育法施行令においても、就学指導に当たっては保護者の意見の聴取が義務づけられたところであります。こうした状況にもかかわらず、通常の学級から特別支援学級への学籍移動が仮に本人や保護者の意思に反して行われているようなことがあるとすれば、そうした事態が起こらないようにしていくことが大切だと考えます。今後は、こうした法令改正の趣旨を徹底するとともに、特別支援学級のある学校では、保護者が望む場合は、子供を通常学級に在籍させながら必要な支援を特別支援学級で行うなど、特別支援学級の柔軟な運用について具体的に検討していただくよう、市町村教育委員会及び各学校に対して働きかけを行ってまいりたいと考えております。
 次に、就学指導委員会の必要性についてでございます。
 市町村就学指導委員会の役割は、単なる就学先の振り分けではなく、保護者の就学にかかわる悩みや疑問に丁寧に対応する教育相談機能や支援機能を発揮することであり、市町村が障害のある子供に適切な教育を提供する義務を果たす上で、本来、なくてはならない機関であります。しかし、実際には、障害の種類と程度に対応することを基本とするいわゆる従来の特殊教育から、一人一人の特別な教育的ニーズに適切に対応することを基本とする特別支援教育への制度転換の趣旨が十分に理解されないまま就学指導が行われていることがあるとすれば、まことに残念なことであります。教育委員会としては、毎年、就学指導地方研究協議会を開催して、各市町村就学指導担当者の研修を行っているほか、本年度は就学指導の手引きの改訂を計画しております。これらの取り組みを通じて、特殊教育から特別支援教育への制度転換について十分な理解を求め、就学指導委員会の適切な運用について働きかけをしてまいりたい、このように思います。
 教員の初期段階における実践プログラムの導入についてであります。本県においては、これまでも、これからの教員には特別支援教育の理解と指導力は欠くことのできない資質であるという認識のもと、初任者研修講座や教職経験者5年研修講座を含むすべての研修の場で、基本的な障害に対する理解や対応方法等についての講義、演習、体験学習などのプログラムを受講させているところであります。しかし、一般の小・中学校等の教職員による障害や特別支援教育への理解はまだまだ不十分なところがございます。今後は、すべての子供がともに学び、育ち合うというインクルーシブ教育の理念をすべての教員にしっかりと浸透させることが大切であります。今後は、そういう観点から、採用時からの研修を体系的に深めるとともに、特別支援学校の教員が地域の学校に出向いて、具体的な指導、助言を行うなどの取り組みを強化し、教員の意識改革と資質の向上を図ってまいります。
 インクルーシブ教育に向けた特別支援学校の見直しについてであります。
 本年4月、一関市立千厩小学校及び遠野市立遠野小学校の中に養護学校の分教室を設置したところであります。こうした取り組みは、現行の制度を活用しながら、地域の中にともに学ぶ教育の場をふやし、インクルーシブ教育の方向に進めていくための最も現実的な方法の一つになり得ると考えております。このように可能な限り地域の学校でともに学ぶことができる環境を整えることが大切であると考えておりますが、同時に、重い障害を有する児童生徒への対応には高度な専門性が必要であることや、インクルーシブ教育の理念がいまだ十分に浸透していない現状においては、これまでどおり養護学校等に通わせたいと希望する保護者の方々も多いことから、特別支援学校が果たす役割もまだまだ重要であり、その機能を急激に縮小させることについては、十分な検討と慎重な判断が必要と現時点では考えております。
 教育委員会といたしましては、本年度、本格的なインクルーシブ教育が志向される時代における特別支援学校のあり方など、本県の特別支援教育全体の今後の方向性について、総合的に検討を行うため、外部の有識者による委員の方々にお願いをいたしまして、あり方検討委員会を設置し、十分な議論を行ってまいりたい、このように考えております。
   〔選挙管理委員会委員長野村弘君登壇〕
〇選挙管理委員会委員長(野村弘君) 選挙開票事務の改善に係るコスト削減効果についてお答えします。
 選挙開票事務の改善に係るコスト削減については、主なものとして、時間短縮による超過勤務手当の削減などの効果が考えられます。
 開票事務に限っての資料はございませんが、統一地方選挙において県選挙管理委員会が全市町村から聴取した開票所要時間と事務従事者数による平成15年と平成19年を比較しますと、おおよそ300万円の超過勤務手当の削減効果があったものと推計することができます。
 次に、さらなる開票事務改善に向けたインセンティブについてお答えします。
 市町村選挙管理委員会はこれまで、まず正確な開票事務を重視してきました。加えて現在は、開票事務の迅速化により、選挙の結果を選挙人に対して速やかに知らせることの重要性も強く認識しております。
 また、市町村選挙管理委員会における改善効果を県選挙管理委員会が公表することによりまして、職員の改善意識が高まることが期待できることから、財政的優遇措置がなくてもインセンティブが働くものと考えております。
 開票所要時間の県平均の全国ランキングについてお答えします。
 御指摘のように、開票所要時間につきましては、投票者数、立候補者数、事務従事者数などにより変動することから、一概に比較分析することは困難であります。
 本県選挙管理委員会においては、開票事務の迅速化という視点のみならず、事務従事者の削減などの効率化という視点も必要であると考え、御指摘のように、事務従事者1人当たり1分間開票数を指標として用いており、この指標の改善を促してまいりたいと考えておりますが、開票の所要時間も重要な指標の一つであり、開票事務の効率化を通じて、より開票所要時間を短縮するよう努めてまいります。
 選挙管理委員会の決意についてお答えします。
 地方分権時代における民主政治の健全な発展のためには、選挙管理委員会が適正に選挙を執行するとともに、選挙の重要性について、住民による十分な議論や積極的な取り組みが必要であり、岩手県明るい選挙推進協議会が行っている小・中学校での明るい選挙啓発授業や街頭啓発での大学生の参加、そして今後の選挙推進運動の課題や対応策等を検討する投票率アップ研究会などの取り組みに対して、必要な支援をしてまいりたいと考えております。
〇13番(高橋博之君) 御答弁をいただきましてありがとうございました。何点か再質問をさせていただきたいと思います。
 まず、コミュニティの再生についてでありますが、新しい尺度の提案についてどういった尺度があるのか、今、意見、提言を欲しいということでありましたが、私のほうも具体的にどういった尺度があるのか、もう少し具体的な提言、意見を今後伝えていきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
 それから、地域振興部長のほうから、草の根の地域をいかに支援するかということがかぎを握ると。住民が的確に判断できるように必要な材料を提供していくというお話があったわけですが、その具体的に必要な材料というのは何を指すのか、お示しいただきたいと思います。
 それから、次は知事にお尋ねいたします。集落の移転についてであります。
 この問題については、本当に簡単なことではないという認識を私も十分に持っております。当然、地域の意向、それから住んでいらっしゃる方の意向というのも大変に大きいと私も考えておるわけですが、ただ、このまま放っておいたのでは、本当にじり貧になって、行政も当然コストを負担し切れない、あるいはそこにもう住めないというときになって重い腰を上げても、本当に行政が切り捨ててしまうということにやがてなってしまうという不安を私も持っているわけです。ですから、今からこうしたところも含めて考えていかなければならないと私は思うんです。
 何か集落の移転というと、前知事もそうでありましたが、当然慎重になるわけですけれども、お金もないし、仕方がないから出てきてくれないかみたいな、こういう後ろ向きの話になってしまうと、これは夢も希望もない話で、長年暮らしていた地域に私はいたいんだという気持ちのほうが、当然大きくなってしまうと思うんです。
 そこで、発想を転換して、新しく移転した先に、安心して、それから安全に生活できる豊かな暮らしがあるんだよというモデルを提示していくことも必要なんだろうと私は思います。その意味で、いきなりそういった集落移転に進むのではなくて、例えば季節を分けて、山間部で、冬、モデル地域をつくって、これは強制ということにはなりませんけれども、そういったモデル地域をつくって町なかに来ていただくといったようなことも、これから検討をぜひ進めていくべき課題ではなかろうかと思うわけですが、このことについて知事の御所見をお伺いいたしたいと思います。
 それから、インクルーシブ教育について2点、再質問させていただきます。
 一つ目は、教育長にお願いします。
 インクルーシブ教育の実現に向けてさまざま前向きなお答えをいただいたと思いまして、大変ありがたいと思いますが、1点、就学指導委員会の必要性についてのところでありますが、これは、実は私もいろいろ話を聞いておるんですけれども、実際に子供さんに会ったこともない、書類上だけで、この子は養護学校だ、この子は特殊学級だというような振り分けの仕方を今でもしておる事実があるということですので、ぜひそうした事実も踏まえて働きかけのほうをお願いしたいと思います。
 それから、保護者の意向を確認することが義務づけられておるということですが、事実上、就学指導委員会のプレッシャーが、就学指導委員会に右だと言われてしまうと、やはり親御さんによっては、本当は左に行きたいんだけれども、そのプレッシャーが大きくて右に行ってしまうというようなお話も、これは1人や2人ではなく聞きました。ですから、教育長も御認識されておりましたが、就学指導委員会のあり方について改めて御検討いただきたいと思います。
 最後に、知事にお尋ねいたします。
 きのう我が会派の飯澤議員の質問に対して、教育を受ける権利は最も大事な権利だよというような御答弁をいただいたわけですけれども、現在、やはり御家族あるいは本人が、どうしてもみんなと一緒に教育を受けたいんだ、同じクラスにいたいんだという思いを持ちながら、やはり管理する側の論理で、十分な教員もいないということで特別支援学級のほうに追いやられてしまう。つまり、知事がおっしゃったような最も大切な権利を剥奪されてしまっている状態が現実にあるわけです。ですから、これはどうしても、財政的な問題も絡んでくるわけですが、今後こういった分野にぜひとも御支援いただくようにお願いいたしたいと思います。この件について御所見をお願いします。
〇知事(達増拓也君) まず、国民総幸福量、これは、実は欧米でも大分研究が進んでいるそうでありますし、各国でいろいろな案がどんどん出ているということを聞いておりますので、またそういったいろいろな知恵を拝借できればと思っております。
 次に、集落の移転についてでありますけれども、交通インフラがある程度進んでおり、またインターネットなどのネットワークも大分進んでいる現代においては、過疎が進んだ地域であっても、例えば「日経トレンディ」という雑誌のことしのお正月の、ことしどういうことが流行するかの特集の中で、何もないということが非常に大きな魅力になるであろうということが指摘されておりまして、過疎化が進んでいるがゆえに、そこに豊かな自然があったり、また古くからの何か伝統等があれば、都会の団塊世代がそこにぱっと引っ越してくるとか、そういう可能性というのは、今後どんどんふえていくのではないかとも思っております。
 そういう意味で、その集落の皆さんが、関係者と相談して、自発的にそうしたいというのであれば、そういう移住もお手伝いはしなければならないと思っておりますけれども、私は、基本的には、過疎が進んだ集落が、またそこが、それこそ幸福度の高い地域として再生し得る可能性というものをあきらめないでいきたいと思っております。
 次に、教育を受ける権利という観点からのインクルーシブ教育のことについてでありますけれども、管理の論理でそういう教育を受ける権利を保障しないというのは、これはもう本末転倒でありますので、やはり皆と一緒にいたいというようなことも含め、教育を受ける権利を保障できるような体制整備を県としては進めてまいりたいと思います。
〇地域振興部長(藤尾善一君) 住民が的確に判断できるような必要な材料を提供するということについて、具体的な材料というものはどういったものがあるかというお尋ねでございました。
 新しいまちづくりを模索する中で、いろいろ今課題になっておりますのは、合併したときの周辺部の発展をどうするかとか、そういったようなことが、すごく一つの懸念として挙げられる場合が多いわけでございます。全国的には、新しいまちづくりの中で、それぞれの域内分権を進めながら、草の根の地域の機能を十分果たし得るような、そういう成功事例というものがございますので、そういった域内分権の先行事例なども紹介しつつ、そのあり方とか、また行政との協働のあり方とか、あるいはコミュニティ同士の連携のあり方とか、あるいはまた、それぞれが持ち寄る公共施設等のリソースといいますか、地域経営資源の有機的な連携のあり方とかといったようなものをいろいろと提供してまいりたいと存じます。
 そしてまた、財政面では、持続可能な財政運営のポイントだとか、それからまた、いろいろな国の補助制度以外のコミュニティに対する支援制度というものを地方自治総合センターとか、そういったようなところにメニューとして取りそろえておるわけでございますが、そういったようなものも具体的に提供しつつ、新しいまちづくりについての議論を深めるような努力をしてまいりたいと考えておるところでございます。
〇教育長(相澤徹君) 市町村の就学指導委員会についてお答え申し上げたいと思います。
 特別支援教育という方向に向かって大きく教育の流れを変えていこうという大きな転換点にあると思います。そういう中で、学校も保護者も、障害のある子も障害のない子も、両方の保護者も含めて大きく意識を変えていかなければいけない、こういう時代だと思いますので、むしろ就学指導委員会は、そういう大きな流れをきちんと定着させるような役割を担うべきだと私は思います。
 ぜひ、市町村の教育長会議等で、その点しっかり理解を得てまいるような努力をしてまいりたいと思います。
〇13番(高橋博之君) ありがとうございます。
 最後に一つだけ、知事に改めてお聞きしたいわけですが、ただいま知事のほうから、このインクルーシブ教育の体制整備について、今後、県として取り組んでいきたいといったようなお話があったわけですけれども、現場を歩いていて、学校のほうだけも一概に責められないというのが―できない、できないと排除してしまう傾向にあるんですが、本来、できないのであれば、どうやればできるようになるんだと考えてあげるのが教育だと私は思うんです。しかし、そこまで今学校の側もなかなか余裕がないというか、やはりマンパワーの問題もありますし、その他さまざまな問題を抱えている中で、今こういうある意味重いテーマを学校の中に受け入れることについて、大変アレルギーというか拒否反応を持っておられるような学校もあると思うんです。
 ぜひ、知事としても強いメッセージを発信しながら、改めて、知事が掲げております2大戦略のソフトパワー戦略、それから地域主義戦略、どちらにしても私はこのインクルーシブはつながっていく話なんだろうと思います。ぜひとも未来のこの岩手県の地域社会を担う人材への投資だという位置づけで、何とか積極的に取り組んでいただきたいと思うわけですが、最後に、知事の力強いお言葉を期待して、質問を終わります。
〇知事(達増拓也君) 私は、学生時代にある勉強会で、体が不自由な友達がそこに参加してきて、それで何か乾杯をしようというときに、普通ではもうコップも持てないし、またそれを飲むこともできないんですが、ストローさえあれば、ちょっと置いておいて、そこからストローで一緒に飲めるということをその場で教えてもらって、非常に目からうろこが落ちたといいますか、そういうことがわかって、そして、一緒にできないかもしれないと思っていたことが一緒にできる喜びというのを非常に強く感じたことがございます。こういう喜びというのは、本当に多くの岩手の子供たちに感じてほしいなと思いますので、そういうことが実現できるように頑張ってまいりたいと思います。
   日程第2 発議案第1号年金問題への速やかな対応を求める意見書
〇議長(渡辺幸貫君) 次に、日程第2、発議案第1号年金問題への速やかな対応を求める意見書を議題といたします。
 お諮りいたします。ただいま議題となっております発議案第1号年金問題への速やかな対応を求める意見書は、各会派の賛同を得た委員会提案でありますので、会議規則第34条第2項及び第3項の規定並びに先例により、議事の順序を省略し、直ちに採決いたしたいと思います。これに御異議ありませんか。
   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
〇議長(渡辺幸貫君) 御異議なしと認めます。よって、さよう決定いたしました。
 これより、発議案第1号年金問題への速やかな対応を求める意見書を採決いたします。
 本案は、原案のとおり決することに賛成の諸君の起立を求めます。
   〔賛成者起立〕
〇議長(渡辺幸貫君) 起立全員であります。よって、発議案第1号年金問題への速やかな対応を求める意見書は、原案のとおり可決されました。
〇議長(渡辺幸貫君) 以上をもって本日の日程は全部終了いたしました。
 本日はこれをもって散会いたします。
   午後5時27分 散会 

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