令和4年2月定例会 第19回岩手県議会定例会会議録

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〇18番(岩渕誠君) 希望いわての岩渕誠です。
 会派を代表して、発議案第14号に反対の立場から討論します。
 この発議案は、農林水産委員会で一部採択、一部不採択とされた受理番号第61号令和4年度水田活用の直接支払交付金の見直しに関する請願が、本会議で全部採択となったことから発議された意見書案であります。
 私どもが請願について一部を不採択としたのは、請願の願意が見直しを容認する立場にあるからです。今定例会の代表質問、一般質問、そして予算特別委員会の質疑を見てもわかるとおり、この見直しが進められるとはかり知れない、かつ広範囲にわたる影響が岩手県の農業と地域全体に及ぶことは必定であり、我が会派としては、見直しを容認することは到底受け入れられません。
 私たちは、県内各地で農業者、農業法人、農協、行政関係者と懇談を重ねてまいりましたが、民意は見直しの白紙撤回であり、現場の声を反映しないこの意見書案には明確に反対いたします。
 今回の見直しについての問題点は、手続的に唐突であったこと、現場の実情を無視した内容となっていること、見直しによってもたらされる深刻な影響について多方面から分析した形跡がないこと、農政全体の方向性が打ち出されないまま、財政的側面のみで進められたことなどが挙げられます。
 このうち手続についてでありますが、見直しが公表されたのが昨年12月であります。農家にとっては、既に次の年の準備が進められている中で、それまで議論の俎上にすらなかった見直し案が出てきたことは、極めて遺憾です。
 岩手県内では、5ヘクタールの作付をしても米価の大幅な下落で95%が赤字という危機的な経営状況にあるというのに、助成金をふやすならともかく、削る、しかも多年性牧草の7割カットを初めとする削減幅は、営農意欲を減退させています。従前どおりの助成金、10アール当たり3万5、000円を受け取るために5万2、500円のまき直し経費がかかるという現実は、農家の意欲を減退させるには十分過ぎる数字です。
 国は、平成29年に水田活用直接支払交付金について、厳格化を行うとした実施要領を発出しているとしていますが、その後の働きかけはありません。不作為とも言えるもので、ともすれば厳格化に対応しない農家に責任を押しつけようとする姿勢が見え隠れしますが、この5年間で準備しなくてはならなかったのは、この国を、農政をどうすべきかという国を挙げた議論であり、これからの農政の未来を描くことでした。つまり、この5年間サボタージュしたのは、政府ではなかったでしょうか。
 見直しの内容も、現場の実情を全く知らないと言わざるを得ません。特に、今後5年間に水張りしない水田は交付対象としないとしていることは、まさに農業現場を知らない暴論です。水田を活用した高収益作物への転換あるいは飼料作物への転換は、土地そのものの改良を要するもので、水稲栽培に必要な水もちのよい土壌から畑作に適した水はけのよい土壌にするため、農家は、長い年月と多額の費用をかけて改良を施し、作物に適した農地をつくり上げてきました。しかし、水張りを要件とする今回の見直しは、これまでの努力を全く無にするもので、収量では最大5割が減収とされ、品質低下も免れないという分析が今定例会でも明らかになりました。
 当然、国が推奨する米、麦、大豆などのブロックローテーションも影響を受けるのは目に見えており、リンドウなどの作物では、5年を超える期間での栽培計画が通常であり、農家にとって収益的にマイナスにしかならない見直しであります。
 こうした問題点について、2月に立憲民主党が政府に対して行った要請に対して、武部新農林水産副大臣は、交付をすぐにやめるものではなく、5年間で検証し、計画を作成して見直しを進めていくと答えています。これは、見直しが生煮えで十分に検討されていなかったことの証左であります。
 また、5年間で検証というのは走りながら考えるということと受けとめますが、一緒に走れるのなら走りながら考えることができるでしょう。しかし、米価下落で追い詰められ、基幹的従事者の平均年齢がほぼ70歳に達する岩手県の実情を考えると、その時間は多く残されていません。
 交付金の減額も新年度から降りかかり、最大で20億円、県全体の交付額のおよそ6分の1が少なくとも消えると予想されるなど、影響は深刻です。直ちに見直しを白紙撤回し、制度を維持する中で農政全体の持続可能な政策を今すぐ議論し、将来展望を描くことを強く求めます。
 見直しの影響は、これまで指摘したものだけにとどまりません。牧草の支援単価減による経営及び粗飼料不足に伴う畜産農家への影響、多面的機能支払交付金や中山間地域等直接支払交付金への影響、賦課金の減少による土地改良区の水路管理や基盤整備事業への影響、農地価格の低下に伴う貸付金の不良債権化による農協などの経営への影響、借地の返還による農地集積への影響、固定資産税評価の変更による市町村財政への影響などです。
 そして、これら全てが絡み合い離農と耕作放棄地の増加が、最も懸念される現実として捉えられています。これらは地方からの人口流出に直結するものです。地方にとって最大の課題の一つである人口減少に歯どめをかけるどころか、アクセルを踏むことになりかねないのが今回の見直しであると我々は強く危機感を持っています。
 この危機感は、農業者のみならず地方自治体にも広がっています。岩手県町村会は、先日15日に開いた総会で、水田活用直接支払交付金の見直しを撤回するよう決議したほか、岩手県市長会も、先月24日付で、自由民主党本部、関係閣僚、岩手県選出国会議員に対し、見直しの根幹であるいわゆる水張り要件と多年生牧草の交付単価の見直しについて、撤回を求める要望書を提出しています。まさに、この見直しについては反対の声が県内に満ちており、白紙撤回を求める声が民意であります。
 額に汗する現場が望むのは、ひとりよがりの見直しを押しつけられることではなく、現場の声を政策に反映させることです。提出された意見書案では、この民意は十分に反映されていないものと断ぜざるを得ません。
 岩手県では、これまで50年にわたる減反政策に対し、積極的に応じて米からの転換を図ってきました。転作率は47.3%に達しています。これは全国で9番目に高い数字ですが、とりもなおさず、農家が積極的に国の政策に協力してきたことをあらわしています。今回の見直しは、こうした努力を踏みにじるものであることを改めて指摘します。
 そして、コロナ禍と世界の平和が脅かされる中で、食料安全保障の重要性も改めてクローズアップされています。農業資材も含めて我が国は食料を海外に依存しており、食料自給率も先進国中最低の37%で低迷したままです。今後の世界は食料争奪戦が予想され、もはや日本が買い負けする状況も現実化しているだけに、食料が海外からいつでも手に入る時代は、間もなく終わりを告げるとの指摘も出ています。
 こうした情勢に対応するには、国内農業をどう育成するか、農家に希望をもたらし、持続可能な農業へのしっかりとした道筋を明らかにし、政策で支援することが必要です。
 以上、私どもの農政に関しての認識の一端をお示しいたしました。議員各位の御賛同をお願いし、発議案第14号への反対討論といたします。
 御清聴まことにありがとうございました。(拍手)
〇議長(五日市王君) 次に、千田美津子さん。
   〔2番千田美津子君登壇〕

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