平成18年2月定例会 第18回岩手県議会定例会会議録

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〇15番(田村誠君) 政和・社民クラブの田村誠でございます。
 会派を代表し、知事演述及び県政の諸課題について順次質問してまいりますので、多くの県民が増田知事に寄せる期待にこたえるよう、率直かつ明快な御答弁をお願いいたします。
 さて、平成17年度の我が国経済は、それまでの輸出・生産などに見られた低迷状況を脱し、景気は緩やかな回復を続け、企業部門の好調さが雇用・所得環境の改善を通じて家計部門へ波及しているとされております。
 また、デフレ脱却により消費者物価の下落幅は縮小し、原油価格の高騰で輸入物価が上昇している中、平成17年度の国内総生産の実質成長率は2.7%程度になるものと予測されております。
 このように、日本経済は長い景気の低迷から脱却し、平成18年度は、これまで成長の制約となっていた三つの過剰、すなわち雇用・設備・債務の過剰が解消し、企業部門と家計部門の好調さと相まって、民間需要中心の回復軌道をたどっていくものとされております。
 しかしながら、本県の経済情勢に目を向けると、鉱工業生産に一部回復基調があるものの、大型・小売店販売は引き続き前年度を下回り、回復基調にあるとはいえ有効求人倍率も依然として低位にあり、県の行財政構造改革が進む中、地域経済を支えてきた公共事業も大幅に縮小し、平成18年度予算も平成14年度以来5年続きの縮小予算の編成を余儀なくされているなど、国の経済観測とはかけ離れ、実感のわかない景気回復となっております。
 このような経済情勢のもと、平成18年度は増田県政3期目の総仕上げの年になるわけでありますが、知事が3期目の目標として掲げた生活者主権、地域主権型社会システムの確立や地域資源の潜在力の発揮と連携による自立に向け、各般の施策に積極的に取り組んできたわけですが、これまでの県政をどう評価し、平成18年度の県政運営をいかように図っていこうとするのか、まず、基本的なお考えをお伺いいたします。知事の考える自立は果たせるのでしょうか、お伺いいたします。
 次に、本県の財政構造と三位一体改革についてお伺いいたします。
 三位一体改革は、より地方の自立を進め、補完性・近接性の原則にのっとり、身近な自治体が住民参加のもと、自己責任・自己決定のもとに自治を行えるよう、国、地方を通じる構造改革の一環として行われるものと理解しております。しかしながら、三位一体改革を地方の財政的側面から見た場合、果たして地方が自立できる財政構造になっているのでしょうか。
 先ほども述べましたが、本県の予算は平成14年度以来5カ年連続でマイナス予算となっており、その要因の主なものとして、国、地方を通じる景気の低迷による税収減、公債費の大幅な増嵩による財政の弾力性が失われたことが挙げられております。特に、公債費の増嵩は、経済対策として行われた公共事業の起債償還が始まったことによるものと推察されます。
 この経済対策は、国の主導のもと、早期に景気を回復する目的で行われ、発行した地方債の将来の償還財源は、地方交付税で措置されるものとされております。
 本県の地方交付税の推移を見ると、平成14年度の決算額2、750億円余に対し、平成18年度当初予算が2、340億円余と約410億円減少し、臨時財政対策債を加えた実質的な交付税は420億円以上の減と大幅に減少しております。本来、経済対策による公債費が増加すれば、地方交付税は増加していくのではないでしょうか。
 一方、三位一体改革で一般財源化した事業は、初めて建設国債対象の施設整備費の一部が移譲されたものの、その多くが義務教育国庫負担金、児童手当、国民健康保険と、地方の裁量の余地が少ない事業となっております。
 このような状況を見るとき、本県の財源不足の多くは地方交付税等の減少に起因するものと推察され、三位一体改革の名のもとに、国の借金等を単に地方につけ回ししているのではないでしょうか。
 知事は、三位一体改革をどのように評価し、また、この地方交付税の減少の要因をどのようにとらえているのでしょうか。地方交付税の確保について、国に対しどのように働きかけていくお考えなのか、お伺いいたします。
 次に、人口減少社会に関連して幾つかお伺いいたします。
 我が国の人口は、2005年国勢調査の速報値によると、総人口は1億2、776万人で、前回2000年調査と比較して増加率は1920年の調査開始以来最低で、総務省によれば、今後変動も見込まれるものの、人口は減少局面に入りつつあると分析されております。
 本県の人口も前回調査から3万1、143人、2.2%の減少となり、本格的な人口減少社会が訪れております。
 このように、本格的な人口減少社会が訪れる中で、本県の特色として人口の地域偏在がさらに進んでいくことが予測され、特にも沿岸地域の減少が著しく、地域社会の維持についても懸念される状況になってきております。
 人口の急激な減少が地域社会にもたらす影響は、労働力人口の急激な減少、ひいては経済の長期にわたる縮小をもたらすことになり、このことが必然的に税収、年金制度、公共投資など、中央・地方の施策、国と地方、都市と地域経済のあり方、戦後一貫して規模拡大を目指してきた企業にとって、設備投資、労働者の確保、賃金等のあり方、賃金・年金・貯蓄の縮小に伴う個人生活のあり方などなどに根底的な影響を及ぼすことが考えられ、加えて、30年も前から人口減少、高齢化、過疎化の大波をこうむってきた農林水産業にとっても、これから始まる都市を含めた日本全体の長期にわたる経済縮小と食料需要の減少がどのような影響をもたらすのか、大きな課題となってくるものと考えます。
 知事は、このような地域社会にとって、存立に大きな影響を及ぼす人口減少をどのように認識し、特に、著しい地域偏在・過疎化が予測される本県において、どのような施策を講じながら地域の自立を果たしていこうとしておられるのか、お伺いいたします。
 私は、自立とは地域が持続可能な仕組みをみずから持つことではないかと考えております。人口減少社会の中でも、地域が持続し自立するためには、人口の疎と疎を埋める地域づくりに対する意識づくりが必要であり、単に定住人口の増大や若者の吸引によりどころを求めることなく、今いる人々が生き生きと、生きる地域づくりを進めていくことが必要であると考えています。
 幸い、岩手には希薄化した都市生活とは異なる結いの精神に基づく地域コミュニティーがあり、そのコミュニティーを生かした地域づくりの基盤がまだあると思います。
 知事は、地域の自立につながる地域力向上対策をどのように進めようとしているのか、お伺いいたします。
 次に、小児医療の確保についてお伺いいたします。
 医師不足の深刻さが増し、地域偏在、診療科偏在の問題が顕在化してまいりました。特に、少子化社会にとって憂慮すべき課題として、産婦人科・小児科医師の不足は顕著であり、その対策が急務となっております。
 小児科医師の減少の要因は、子供の数が減少し、これから医者になろうとする若い人たちが、小児科には将来性がないと考え敬遠してしまうこと、現在の診療報酬制度では、小児科は薬等の使用量が少ない、診療に手間がかかって大勢診られない、季節により患者数が大きく変動するといった点から、ほかの科に比べて利益が少なく、病院経営上の不採算部門となっていることが挙げられ、赤字部門として小児科を閉鎖する病院さえふえています。
 私は、21世紀を担う子供たちが健やかに育つための環境整備として、夜間や休日の医療体制の整備が重要と考えております。子供が病気やけがをしたら、専門医である小児科医が待機する小児救急病院で診療を受ける体制の整備が必要であると考えます。
 小児科医の確保が進まないという現状において、小児救急の電話相談を補完的に進めるにせよ、子育て環境を充実させるためにも、小児科医師の確保対策をより積極的に行い、少なくとも二次医療圏ごとに小児救急体制を整備していくことが急務であると考えております。
 国は、小児科医の集約化による24時間体制の小児救急の体制を整備すると緊急対策を示しておりますが、本県の小児救急医療体制の現状はどうなっているのでしょうか。
 また、小児救急医療体制の整備をどのように進めていくお考えなのか、お伺いいたします。
 あわせて、産婦人科も同様に岩手中部地域では逼迫した状況にあり、小児科との連携による周産期医療体制の整備も急務となっています。本県の産婦人科医療と周産期医療の整備の方向について、お伺いいたします。
 次に、県北・沿岸振興についてお伺いいたします。
 昨年の6月に広域圏等の見直しに係る素案が示された以降、新たな広域圏での具体的な産業振興の方向性についてさまざまな議論がなされてまいりましたが、これらの議論を経てきた中で、産業振興における具体的な戦略に基づき、早急に具体策を講じていくことが必要と考えております。
 私は、沿岸広域振興圏の振興に向けては、地域資源である水産業や農林業の振興、特にも生産者の高齢化に伴う担い手の育成とともに、生産体制の高度化の確立、そして1次産品の地元加工等による高付加価値化、そして、これまでの沿岸地域の歴史の中で港湾活用型の工業生産の事実があったように、工業分野、ものづくり分野の拡大など、1次産業の高度化とともに、ものづくり産業を地域産業の両輪として強力に進めていくべきものと考えております。
   〔副議長退席、議長着席〕
 沿岸地域には、電子部品や金型・機械産業の核となるべき企業の存在、そして、それを取り巻く企業・産学のネットワークもでき上がり、地域の核となるものづくり産業の芽が出てきており、さらには、釜石における自動車産業リサイクルの動き、また、大船渡におけるセメント企業や、本年、民間が中心となって設立する大船渡国際港湾ターミナル協同組合など、地域の産業集積の質を高めていく必要があると考えております。
 知事は、特化係数による産業エリアの構築というかつてない手法により産業振興の圏域を策定されましたが、具体的にいかなる産業を振興させ、県北・沿岸の労働生産性の向上目標をどう設定していかれるのか、お伺いいたします。
 県北・沿岸振興は、県政の重要課題として、今までさまざまな地域計画を策定し、その実現に向けて取り組まれてきたことに改めて敬意を表するものでありますが、逼迫する地域経済、来るべき人口減少による地域社会の疲弊を思うとき、緊急に具体的施策を講じ成果を出していく必要があると思います。
 産業振興による雇用目標をどのように設定し、地域の安定的維持をどのように図っていかれるのか、具体的にお示しをお願いいたします。
 次に、水産業の振興についてお伺いいたします。
 本県では、生産性が高く清浄な漁場特性を生かしながら、環境との調和に配慮した海藻類や貝類を主体とした養殖業が営まれておりますが、その経営体は小規模零細漁家が中心となっております。
 近年、北緯40度周辺に位置する諸外国からの安価な輸入水産物の急激な増加により、競合する本県主力養殖産業は、魚価の低迷や他産地との競争の激化により、極めて深刻な状況に至っております。
 加えて、病虫害の発生や平成14、15年と2年連続の低気圧災害により、生産量、生産金額とも著しく減少し、また、平成15年9月に発生した十勝沖地震津波により地域的に、同一湾内でも局所的に大きな養殖施設・生産物被害が発生したことから、生産者は、これまでの施設整備や漁場配置のあり方に不安を抱いております。
 特に、養殖の作業は短期間に集中し労働が過重であること、さらには、生産金額の減少を背景とした漁業従事者の減少や高齢化が進行し、担い手不足が顕著になってきております。
 私は、地域養殖業の構造改革を進めるには、主体となって進める担い手育成に関する合意形成を進めるとともに、経営体の大規模化を進め、さらには、生産者が安心して生産に取り組める養殖施設の整備や漁場配置を進めていくとともに、養殖作業の効率化・省力化等、労働環境の改善を進めていく必要があると考えております。
 この地域養殖業の構造改革をどのように進めていくのか、お伺いいたします。
 次に、水産加工業の振興についてお伺いいたします。
 労働生産性を高めていくためには、水産業の高付加価値化を進めながら販路拡大を図っていく必要があります。私は、機会をとらえて、沿岸地域の活力の源は、浜がよければおかがよい、いわゆる、いかに生産者の所得向上につなげるかにあり、水産業の高付加価値化になお一層取り組むことが大切であると思います。
 本県の平成15年度の水産加工品生産量は、秋サケを中心に11万9、000トン、生産額で716億円となっており、水産加工原料は、平成15年度の漁業センサスでは、国産原料に依存している工場数は全体の68%で、秋サケ、サンマ、イカ類等、いわゆる前浜資源がその主力となっております。
 また、経営規模は従業員50人以下、販売金額で5億円未満の中小企業が半数以上を占めており、総じて零細であり、平成6年と平成15年を比較すると、事業者数で74%、生産量で52%、生産額で71%と、いずれも大きく減少しております。
 このような状況において、未利用の前浜資源の利用拡大や地域の特色を生かした商品開発を進めていくほか、安全・安心な水産物の生産等、種々の対策を講じていく必要があると考えております。
 水産加工業の振興を今後どのように進めていくのか、お伺いいたします。
 次に、漁業担い手育成についてお伺いいたします。
 本県の漁業就業者は、若年齢層の減少と高齢化が進んでおります。これは、厳しい就労環境にある割にはそれに見合う収入が得られなく、漁業が若い担い手にとって魅力がないこと、また、後継者対策に関して、漁業団体において十分な議論がなされていないこと、後継者と期待される沿岸の小・中学生においても、海・漁業に親しむ機会が少なく、また、漁村女性は水産業の重要な担い手であるが、評価は十分でないことなどが挙げられております。
 漁業就業者の減少は、漁業はもとより、水産業を中心とする沿岸地域経済に大きな影響を与えることから、担い手の確保に向けた取り組みを進めていくことが必要だと考えております。
 知事は、漁業担い手対策をどのように進めていくお考えなのか、お伺いいたします。
 次に、県北・沿岸対策としての社会資本整備についてお伺いいたします。
 本県は、広大な面積と自然豊かな地勢を生かし、将来の発展可能性を大いに有しているものと認識しておりますが、広大な面積を有するがゆえに、課題が多いのもまた事実であります。急峻な北上山系、雪深い奥羽山系などが地域交流を妨げ、また、豊富な地域資源の有効な活用の障害にもなっているものと思います。
 私は、交通体系を考えた場合、道路整備はもとより重要と存じますが、多額の投資と多くの工事期間を要することから、道路整備に限らず、航空、海運など総合的な交通網の整備をする必要があると思います。
 沿岸地域には、高速交通の恩恵がいまだ十分に波及していない空白地帯が多く存在しており、産業、経済、文化等、あらゆる分野において地域交流に大きな負担を与えているところであります。
 知事は、この交通体系整備について、短期的な整備あるいは長期的な展望をどのようにとらえておられるのでしょうか、お伺いいたします。
 特に、公共事業が削減される中で、県北・沿岸地域における産業振興の基盤としての交通体系整備をどのように進めていくお考えなのか、お伺いいたします。
 さらに、道路整備と相まって大きな効果が期待される携帯電話不感地帯の解消、通信のブロードバンド化を初めとするICT基盤の整備についてもお伺いいたします。
 次に、産学官金労の連携による産業振興についてお伺いいたします。
 国内景気が回復傾向にあるとはいっても、地方の景気は依然として厳しい状況が続いており、公共事業費の大幅な削減や少子・高齢化による地域消費の低迷など、これまでの地方の経済を支えてきた建設業や小売業などの基盤が揺らぎ始め、これまでの産業構造の抜本的転換が求められております。
 そのためには、産学官連携に加え、金融・労働界が一体となって、本県が有する地域資源を活用し付加価値の高い産業の創造を進め、グローバル社会の中でも本県が輝くよう、今こそ、その基礎を築いていくことが必要と考えております。
 知事は、この新産業創設に向けたいかなるビジョンと戦略をお持ちなのか、お伺いいたします。
 最後の質問は、安全・安心な県土整備についてお伺いいたします。
 震度6弱を記録した宮城地震、あるいは記録的な集中豪雨など、さらには確率99%と予測されている宮城県沖地震など、豪雨、地震、津波等の自然災害への対策が喫緊の課題となっており、県民の意識調査によれば、施策の優先度として、安全な暮らしの実現が第3位にランクされ、地域別ニーズ度を見ても両磐・沿岸地域で高くなっております。
 これまで、河川改修や津波防潮堤などのハード面の整備に加え、洪水や津波ハザードマップなどのソフト面からの支援を進めてこられましたが、一方、急傾斜地崩壊危険箇所の対策は、今まで、ハード整備に加えパトロール等による危険箇所の周知に取り組んできたものの、その整備率は低く、今後、より一層防止対策の推進が求められます。
 新年度予算において、がけ崩れ危険住宅移転促進事業を創設しソフト面での対策を強化しておりますが、今後、ハード対策を含めた総合的な急傾斜地の危険防止対策をどのように進めていかれるのか、お伺いいたします。
 最後に、これまで述べてまいりましたとおり、増田知事は、将来の厳しい財政状況を見通し、県の行財政構造改革に積極果敢に取り組んできましたが、予測をはるかに上回る社会経済情勢の変化により、今日の危機的状況に至っております。
 私は、このように大変なときだからこそ、知事のリーダーシップのもと、職員の英知を結集し、地域が持つ各般にわたる潜在能力を十分に引き出し、県と県民が力を携え、この難局に立ち向かっていかねばならないと思います。
 増田知事は、演述の中で後藤新平の自治三訣を引用され、先人の気概と信念、自立・自尊の高潔な精神など、岩手の宝を結集し新しい岩手の創造に取り組むとしており、その意気を強く感じるものであります。知事の標榜する夢県土いわての実現のため、今後なお一層の御奮闘を御期待申し上げ、私の質問を終わります。
 御清聴ありがとうございました。(拍手)
   〔知事増田寛也君登壇〕
〇知事(増田寛也君) 田村誠議員の御質問にお答え申し上げます。
 まず、これまでの県政の評価と18年度の基本姿勢についてでありますが、私は、この4年間を自立を進める4年間と位置づけ、40の政策を軸に、地域の経済的な自立に向けた取り組みを進めるなど、総合計画を着実に推進をしてきたところでございます。その成果として、誘致企業と地場産業の連携による自動車産業を中心としたものづくり産業の集積の促進、また、今に残る結いの精神などを生かしたご近所介護ステーションの設置など、岩手ならではの取り組みが確実に進んでいるものと認識をしております。このような状況を踏まえ、18年度は、県北・沿岸地域において食産業や造船業など飛躍の可能性を持った産業の育成を推進するなど、4広域振興圏による産業振興に重点的に取り組み、地域経済基盤の一層の強化を図ってまいります。
 また、地球温暖化防止など地球環境問題への取り組みや、防犯、介護、子育てなどの地域課題について、NPOとの協働や民間力を活用しての地域づくりを進めるとともに、これら産業振興や地域づくりを支える人材育成に積極的に取り組んでまいりたいと考えております。このような取り組みを確実に進めることによって、県民一人一人がみずからの地域や暮らしに誇りを持てる自立した地域社会の形成が実現すると考えているところでございます。
 次に、三位一体改革の評価についてでございますが、国庫補助負担金については、単なる国の負担率の引き下げという地方の自由度や裁量の拡大につながらない手法がとられ、また、地方交付税については、財源調整機能及び財源保障機能を適切に発揮できるしっかりとした制度設計が求められているところでございますが、そうした改革の具体的方向性についての検討が行われないまま、交付税額の削減が行われてきているところであります。こうした措置は、地方の自主的・自立的な行財政運営を促進するという三位一体改革の本来の趣旨からかけ離れたものであり、極めて問題があると認識をしております。
 一方、今回の改革において、シャウプ勧告以来初めてとなる所得税から個人住民税への基幹税による3兆円規模の税源移譲と、建設国債対象経費である施設整備費関係の補助負担金の廃止が実現したことについては、一定の評価をしているところであります。このように、これまでの三位一体改革は、内容的には多くの課題も残っておりますが、本格的な分権改革の実現に向けての第一歩を何とか踏み出したものと考えており、今後、県民の支持をいただきながら、この歩みを一歩一歩着実に進め、分権型社会の実現を図ってまいります。
 次に、地方交付税の減少の要因についてでありますが、地方交付税は、国の基本方針に基づきまして、16年度以降、毎年度削減をされてきております。特に16年度においては、投資的経費の前倒し削減等により大幅に地方交付税が縮減されたところであり、また、17年度、18年度においては、骨太の方針に基づく縮減に加え、地方税の大幅な伸びにより地方交付税が抑制をされている状況にございます。
 一方、地方交付税の算定において、基準財政需要額に占める公債費の割合は、平成3年度当初で6.7%でありましたが、その割合は年々増加し、18年度当初では約3割、29.8%を占めるに至っており、このことは、地方交付税の算定上、公債費が適切に算入されていることを示している一方で、交付税総額が低迷している中、公債費が他の費目を圧縮していることも示しているものと考えております。こうした状況を踏まえて、国に対しては、財源対策債や臨時財政対策債などの地方債の増発ではなくて、地方の安定的な財政運営に必要な地方交付税等の一般財源総額の確保により、地方交付税の財源保障機能及び財源調整機能が適切に発揮されるように働きかけてまいります。
 次に、人口減少に関する認識と自立に向けた施策についてでありますが、人口減少、少子・高齢社会におきましては、労働力人口の減少による経済規模の縮小や、高齢化の進行に伴う社会保障面での負担の増加などマイナス面の影響が懸念をされており、強い危機感を抱かざるを得ません。本県におきましても、今後、人口減少、少子・高齢化が加速すると見込まれるために、産業の高度化や生産性の向上を図りながら、県民の生活水準の維持向上を確保しつつ、女性の就労環境の整備や子育て支援などを進め、将来的に出生率の向上へつなげていく必要があります。特にも、地域の自立に向けては、確かな産業経済基盤を構築していくことが最も重要でありますので、広域的な視点により産業振興戦略を展開できるように、新たに四つの広域振興圏をスタートさせることとしたところでございます。とりわけ、県内で人口の地域偏在が進むと予測される中で、地域の産業基盤がいまだ十分力強いものとはなっていない県北・沿岸地域におきましては、農林水産業の振興を基本に据えて、その産品を活用した食産業の集積や、グリーンツーリズムなど滞在・体験型観光を推進するほかに、工業集積が進む内陸部との連携による港湾物流の強化や企業の二次展開の促進などにより、地域の自立に向けた取り組みを強化してまいります。
 次に、地域力の向上対策についてでありますが、私は、人口が減少する中にありましても、経済的にも、精神的にも真に自立した豊かな地域社会を構築していくためには、産業振興など地域の経済基盤を強化する一方で、結いなど地域コミュニティーの力を最大限に発揮することが重要と考えております。このため、人口減少に伴う地域ごとの課題に応じて、例えばご近所介護ステーションの設置や、住民参加・体験型の防犯教室の開催など、地域コミュニティーの持つ結束力や解決力といったすぐれた能力が発揮されるよう、NPOを初めとした多様な主体による協働や、住民主体の自立した地域づくりを積極的に支援をしてまいります。
 また、市町村が地域住民のニーズを的確にとらえた、より効果的で効率的な行政運営を目指せるように権限移譲を進めるとともに、今後、大量退職が見込まれる団塊世代が持つノウハウや行動力、ゆとりといった能力の地域コミュニティーでの活用など、県内各地で地域力が総合的に発揮されるよう全力を挙げて取り組んでまいります。
 次に、本県の小児救急医療体制の現状についてでございますが、県では、どの地域においても必要な治療や相談を受けられる体制の整備に努めておりまして、そのため、内科医等を対象とした小児初期救急の研修を全医療圏で実施をしておりますほか、県内病院の当直医等が、画像通信による小児科専門医の診断助言を受けられる小児救急医療遠隔支援システムを運営しております。また、盛岡医療圏で小児科の二次救急輪番制を実施するとともに、他の医療圏から患者を受け入れることもできるよう空きベットを確保しております。このほか小児科勤務経験のある看護師によるこども救急電話相談も実施しております。小児救急医療体制の充実には小児科医の確保が重要でございますので、18年度から新たに、市町村医師養成事業において、小児科や産婦人科を選択した場合の義務履行年限の短縮や、女性医師が働きやすい環境づくりのため、育児支援や職場復帰研修などの取り組みにより、一人でも多くの小児科医が確保されるように努めてまいります。
 なお、小児科医の不足は全国的な問題であり、国から当面の対応として、小児医療の集約化・重点化の推進が示されておりまして、今後、岩手医科大学を初め小児科医会、その他関係者の御意見をお伺いしながら、本県の特性を踏まえ、医療計画上にその方向性を示すよう検討することといたしております。
 次に、産婦人科医療と周産期医療体制の整備についてでございますが、県ではこれまで、リスクに応じて母体や新生児の適切な搬送を行う周産期医療システムを構築いたしましたほか、一部県立病院による助産師外来の実施や、岩手医科大学における臨床修練制度を活用した中国人医師の受け入れなど周産期医療の充実に取り組んできたところでございます。しかしながら、全国的な産科医不足の中で医師の確保は容易でないと認識をしておりまして、産婦人科医療、周産期医療体制についても、国から示された集約化・重点化の方向も視野に入れつつ、今後策定をいたします医療計画の中に目指すべき方向性を示すように、関係者の御意見を伺いながら検討をしてまいります。
 次に、県北・沿岸振興についてであります。県北・沿岸圏域の産業振興に当たりましては、まず、担い手育成などを通じた足腰の強い農林水産業の振興を図り、その上で園芸・畜産等の農産物や豊富な水産物の付加価値を高めていく観点から、生産から流通までを含む食産業の育成強化と集積を進めてまいります。
 また、雇用効果の大きいものづくり産業の振興につきましては、電子部品など地域の中核的企業の事業展開を支援していくとともに、岩手大学を初めとした産学官の連携を強化し、新素材や新技術の開発と、その産業化を推進するほか、新たな企業誘致の取り組みを強化してまいります。
 県北・沿岸圏域におきましては、ここ数年、年間2、500ないし3、000人程度の人口の社会減が続いているところであります。地域の安定的発展のためには、まずもってこれに歯どめをかけることが必要であり、このため、産業振興の取り組みを早急に強化し、雇用の場を創出していかなければなりません。このようなことから、18年度に策定をいたします地域振興ビジョンにおきましては、雇用創出を初めとして産業振興の具体的数値目標を明確に設定することとしておりまして、その実現に向け、ビジョンを地域の皆さんと共有しつつ、産業振興に取り組んでまいります。
 次に、地域養殖業の構造改革についてでございますが、養殖業は、漁業者の減少、高齢化などによる生産性低下で水産物を安定的に供給できない状況を改善するために、各漁協がステップアッププランを策定し、漁場の再編と施設整備に取り組んできたところでございます。今後はさらに、漁場の利用方法や担い手の育成方策について、漁協が中心となって地域の合意形成を図りながら、若い漁業者の参入や、意欲と能力がある漁業者への漁場集積を促進する仕組みを支援することといたしております。こうした取り組みを通じて地域養殖業の構造改革を進め、担い手の所得と漁場の生産性向上を図ってまいります。
 次に、水産加工業の振興についてでございますが、水産加工業の振興を図るためには、原料の供給から加工、販売までの一貫した取り組みが重要と考えております。このため、生産者と加工業者との連携により、前浜の水産物を加工原料として供給する体制づくりに取り組んでおります。また、原料を加工し、付加価値の高い商品開発を進めるために、水産加工業者等を対象に提案型の商品開発事業によるものづくり支援を行っております。さらに、流通業者に商品をPRする商談会を開催し、流通ルートに乗せるための取り組みも進めております。こうした一連の取り組みを通して、地域の特色ある商品開発を進め、水産加工業の振興を図ってまいります。
 次に、漁業担い手対策についてでございますが、漁業就業者を確保するためには、1世帯複数組合員制の拡大や、協業化の推進などによる多様な就業機会の創出、漁業経営の中で担い手である女性の位置づけを明確にする家族経営協定の推進、さらには小・中学生を対象とした地域ぐるみの漁業体験を通じた次代を担う青少年の育成などの取り組みが不可欠でございまして、こうしたことを漁協と連携して推進をしてまいります。
 次に、県北・沿岸対策としての社会資本整備についてでございますが、本県における交通体系の整備に当たりましては、交流の活性化を図り、活力ある地域社会の形成や産業の振興を進めるため、道路と港湾、鉄道、空港が連携した交通ネットワークを構築し、これらを効果的に利活用することが大切であると認識をしておりまして、これまで東北新幹線盛岡以北の整備や高速道路などの整備に積極的に取り組んできたところでございます。しかしながら、今後、道路事業等の建設投資はさらに厳しくなることが予測されることから、長期的には高速交通ネットワークの構築を図ることを目指し、短期的には危険箇所や交通の隘路となっている区間を順次整備を進め、早期に効果を発現させていくとともに、既存の社会資本の適正な維持管理に努めてまいります。
 特に、県北・沿岸地域における交通体系整備については、産業振興を支える基盤して道路と港湾の連携を強化し、効率的な物流を確保することが必要であると考えております。このため、沿岸と内陸を結ぶ横断軸としては、東北横断自動車道釜石秋田線の遠野-東和間の整備を促進するとともに、仙人峠道路を18年度の完成を目指し整備を進めております。また、沿岸地域の縦断軸としては、三陸縦貫自動車道の高田道路や釜石山田道路などを、三陸北縦貫道路では中野バイパスなどの整備の促進を図っております。これらが完成をすることによりまして、県北・沿岸地域の産業振興に大きく寄与するものと考えておりまして、早期完成に向け積極的に取り組んでまいります。
 次に、情報通信基盤いわゆるICT基盤の整備についてでありますが、県北・沿岸地域において携帯電話やブロードバンドなどの基盤整備が立ちおくれている大きな理由としては、人口集積度が低いため採算がとれないこと。また、北上山地沿いの地理的・地形的に不利な条件などによりまして、通信事業者の独自参入が困難とされる地域が多く存在していることが挙げられます。これまで県では、一定以上の居住人口や観光地を有する地域における携帯電話不感地帯の解消や、すべての市町村の中心部にブロードバンド、ADSLを整備するため県単独補助事業を創設するなど、民間投資の誘発に積極的に取り組んでまいりました結果、県北・沿岸地域においても一定の整備が進んだところでございますが、いまだ点から面への拡大にはつながっていないのが現状でございます。もとより、情報通信基盤いわゆるICT基盤の整備は民間主導の原則で進められるべきものと考えておりますが、産業振興や防災、医療など県民ひとしく安全・安心な生活を確保する観点からも重要なインフラと考えておりまして、今後は、将来の人口予測や圏域の発展方向、昨今著しい進展を見せる情報通信技術の動向などを見きわめながら、県北・沿岸地域における効率的で効果的なICT基盤整備を促進してまいります。
 次に、産学官金労の連携による産業振興についてでございます。
 県ではこれまでも、岩手大学地域連携推進センターやいわて産業振興センターなどとの緊密な連携のもとに、県内中小企業における新技術の開発や新産業創出を積極的に推進をしてきたところでございます。また、金融機関との連携につきましても、新産業の創出・育成のために、各種研究開発に対する助成や首都圏での商談会の開催による取引支援など、共同での取り組みを進めているところでございます。今後、人口減少や少子・高齢化が進行し、国際競争がさらに激化するなど、経済社会情勢の変化が一層進む中にありまして、こうした変化に対応した新産業創出の必要性はますます高まるものと考えております。このためには、産学官連携による技術開発などの取り組みに加えまして、製品開発から生産・販売に至る新産業展開の基盤となる有能な人材を確保、育成する必要がございますが、さまざまな産業分野における人的なネットワークを有し、多様な人材情報などを持っている労働団体との連携を図ることは、こうした取り組みを進める上で大変意義あるものと認識をしております。今後におきましては、そのような観点から、産学官金労の連携に積極的に取り組みながら、本県における新産業の創出を一層推進してまいります。
 最後に、急傾斜地の危険防止対策でありますが、今後の社会資本整備に当たりましては、人口減少社会を迎えることや、限られた財源でより一層の事業効果を発現させる必要がございます。県内における急傾斜地崩壊危険箇所のうち、保全すべき人家5戸以上で対策が必要な箇所は約1、800カ所あり、その整備には多額な費用と時間を要しますことから、土砂災害防止法に基づく土砂災害特別警戒区域内において、学校、病院、福祉施設及び緊急輸送路などの公共施設がある箇所につきましては、従来どおり擁壁などの施設整備を推進いたしますが、それ以外の箇所につきましては、住宅を安全な場所へ移転することで、安全性の確保を図る新たな施策として創設をいたしましたがけ崩れ危険住宅移転促進事業によりまして対応をしてまいります。
 また、地域住民への危険周知のために、危険箇所点検パトロールや、土砂災害警戒区域などの指定を行うとともにハザードマップを作成し、地域住民の円滑な避難などに資することといたしております。さらに、災害時に住民と行政機関が災害に関する情報を交換する相互通報システムの構築及び気象庁と共同して的確な土砂災害警戒情報を市町村に提供いたしますシステムの整備を進めているところでございまして、今後ともハード、ソフトの両面から急傾斜地の総合的な危険防止対策に取り組んでまいります。
   
〇議長(伊藤勢至君) 以上をもって本日の日程は全部終了いたしました。
 本日はこれをもって散会いたします。
   午後 4 時15分 散 会

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