平成12年2月定例会 第5回岩手県議会定例会会議録

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〇26番(上澤義主君) 政和会の上澤義主であります。質問をさせていただきます。
 いよいよ2000年代の開幕であります。数字が変わったからといって一挙に世の中が変わるわけではありません。しかし、今、まさに新しい未知の時代が始まろうとしている実感は確かにあります。経済や政治は言わなくてもわかっているようなものですが、最も大きな問題は人間の内面であります。ここ数年、何とも言いようのない事件や犯罪が立て続けに起こって私たちを驚かせました。幼児誘拐、殺人、犯罪者の低年齢化等で考えさせられることは、家に食べる金がないとか、財産を奪うためとか、報復とか集団抗争とかいう、そういっただれにでも簡単にわかる現実的な原因からの事件ではなくて、真の動機はその本人の心の暗い部分に複雑に絡まり合って隠されていて、時には犯罪の当事者すらはっきりと自覚できない心のやみがそこにあるのではないかと思うような、はっきり言えることは犯罪が内面化したということであります。
 しかし、正直なところ、マスコミが大騒ぎしたほど私たちは本当に驚いたのでしょうか。驚愕とか驚倒とかいう表現がありますが、そのような身も心も震えるような衝撃を本気で私たちは覚えたのでしょうか。自分に即して振り返ってみますと、そのときはテレビにかじりつき、新聞や週刊誌を読みあさります。しかし、それも1週間とは続きません。やがて次の新たな事件が報じられます。すると私たちの関心は、すぐにそちらの方へ移っていきます。こういった事件とニュースの大量生産と大量消費のパターンに私たちはすっかりなれてしまいました。やがて1週間くらいは持続したショックが3日になり、2日になり、最後はほとんど列車の窓の外を流れ行く風景をぼんやり眺めるような感覚にまで変質していきます。ふんまんというよりも無気力感、焦りというよりもあきらめ、怒りというよりも傍観、恐怖よりも無反応、要するに私たちの内面が生き生きしていないと感じるのであります。
 政治課題を想定すれば、憲法が改正されると発表されてもほとんど無関心にパソコンの前に座り、携帯電話でのおしゃべりやEメールに没頭するに違いありません。預金の利子が0%になっても、力なく苦笑するだけ、消費税が上がれば消費を控えることで対応するだけ、個人差はあるかもしれませんが、無感動の状態になって世間の人々の心が沈滞していると言ってもいいかもしれません。
 社会の一面を最初に取り上げました。2000年代にも引き続くであろうこれら一連の社会現象を知事はどう見ておられるのかまず伺います。
 また、総合計画を苦労してつくった、これで大きな仕事は終わったでは、何の意味も持たないし、例年と変わらず行政とは、いつでもこんなものとの評価を受けることになりかねません。総合計画を推進する上で、県民の理解、参加意欲、そして職員の士気を、どう鼓舞し精神面の高揚を図るのかお伺いをいたします。
 今回のWTO──世界貿易機関の会議はアメリカのシアトルで開催されました。しかも、その会議は決裂に終わり、新ラウンドが先送りになってしまいました。この失敗の原因はアメリカのクリントン政権にあると言われております。自由貿易の旗手を自認し、60年代のケネディ・ラウンドに次ぐ、クリントン・ラウンドをひそかに目指していた同大統領は、逆に失敗者の烙印を押されてしまいました。理由は簡単であります。自由貿易とは逆の保護主義そのものの労働組合の主張を支援してしまったからだと言われております。
 発展途上国の安い労働力を人権とか少年労働の禁止とかの美名のもとに非難をして、切り札の制裁まで持ち出しては、ほとんどすべての人がごり押し、二重基準ととったのは当然過ぎることであります。なぜこんな子供にもわかる二重基準を犯したのか。実は後がまをねらっているゴア副大統領は、ことしの大統領選挙を控えて苦戦が予想されており、組合の支持を取りつけたいのだと言われています。
 アメリカの組合は、昔から──日本を含めてですが──安い外国製品の輸入に反対で、自由貿易の対極にいる存在であります。
 しかし、WTOの本来の目的は、世界の国々が、それぞれの持つ強みを生かして交易できるようにするもののはずであります。米国を初め、先進工業国には、ハイテクとか大量生産とか流通とかの多くの強みがあり、一方それらに欠ける発展途上国の強みは、何といっても安い労働力であります。それをモラルを使って先進国の基準に従わせようとしたのだから、途上国の一斉攻撃に遭ったのも当然であります。
 そこで、一つの結論は、グローバリゼーション──国際化と格好つけた言葉を使いますが、政治は結局ローカル──地方的なものだということ。もう一つの結論は、持てる者──先進工業国と、持たざる者──発展途上国の問題であり、はっきり言うと自由貿易──国際化で、どちらがより得をするかを明確にすべきだということであります。
 民主主義の原則からすれば、自由貿易は平等貿易でもなければなりません。ところが、アメリカは前者しか口にしない。持てる者と持たざる者が自由に競争したら、持てる者に有利なことは明白であります。今回の決裂の最大の重大な原因となった農産物問題も、ここに行き着くのであります。
 考えてみれば、たかがこれくらいの会議によって我が国は農畜林産物を自由化し、農業を衰退させ、農村は疲弊の一途をたどってきたのであります。北上山系開発の後遺症は今なお深く残っております。行政や農業団体等に言わせれば、農業施策はグローバル化によって手の打ちようなしとして、米の減反奨励金をもてあそんで今日まで来たと言っても過言ではありません。
 確かな情報、冷静な判断を基軸に据えて、従属から自主自立、そして夢県土へと農業、農村施策の発展を図らなければなりません。豊かな自然環境と人には恵まれております。指導する立場にある者が真の自主自立をしない限り、夢県土はほど遠いのではないかと案じられますが、農村を歩いてみて、どのような夢農業を再生しようと思い描いているのかお伺いをいたします。
 北上山地にある各自治体や、中山間地を抱える自治体にとって、公共投資が地域の最大の産業であり、すなわち雇用の機会であります。自治体の税源となっているところでもあります。人口の減少した過疎の地域では、地元の雇用の大半が、公共投資関連産業と役所や公立病院、学校の職員、団体の職員で占められているというのが現実であります。振興、発展を続けてきた国道4号沿いの自治体に比べれば、岩手県の中央に横たわる北上山地の自治体は、相当のおくれをとっていると言えます。住む人間の能力に差があったのではなくて、その最大の原因は道路網の整備のおくれにあったと思います。増田知事の時代に入って、東北横断自動車道、三陸縦貫自動車道も姿を見せてきましたし、早坂、土坂トンネル工事も着工の目安がつきました。残るは340号立丸トンネルなどであります。そこで、まず立丸トンネルの整備の見通しについてお伺いをいたします。
 昨今、住民の期待に反して公共事業への風当たりが強くなっており、増田知事には期待するところ大であります。新しい総合計画に載らなかったものの中には、地域住民が死んでも思いが残る、そのような課題が数多くあったのだろうと思います。地域経済に大きなウエートを占める公共事業が、中山間地域の振興に果たすその役割をどう認識され、今後どのように進めるつもりか、知事の御所見をお伺いいたします。
 次からは具体的課題について質問いたします。今回は農・畜・林業について伺います。
 食料の安定供給や農業の持続的発展などを基本理念とした、食料・農業・農村基本法の成立、施行を受けて、米政策、減反政策の見直しが求められて、国は生産調整の次期対策として、水田農業確立対策を打ち出したものと理解しております。まず第1は売れる米づくり、第2は水田を有効活用した麦、大豆の本格生産に取り組むこと、この政策実現のために集落営農を推進し、農地の流動化を促進し、大型専業農家をつくり、土地利用型のコストの安い農産物をつくる、そこには農業の担い手として認定農業者を育成し、農業経営基盤の強化を図ろうとするものであります。
 さて、本県産米は、価格動向などからして、新潟、福島などの主要産地に比べて必ずしも有利な状況にあるとは言いがたく、農家の生産意欲が減退することは必至であります。
 いかに流通経費を省いて販売をし、農家の手取りを多くするかが喫緊の課題と考えますがいかがでしょうか。例えば、農家から即消費者へ、集荷する農協から即消費者へというようにしなければなりません。これができなければ、農家の上にあぐらをかいて販売してきた従来の方法とは何ら変わりなくて、農家にはふんまんよりも無気力感を与えることにしかなりません、と言いたいのであります。
 米中心にして動いてきた県農政であり、今後取り組もうとする集落営農にしても、担い手育成にしても、農家にとっては所得の確保と流通対策が決め手となるだけに、所得の減少を食いとめる米政策の後始末が今後のキーポイントになると思いますが、どう対処するのかお伺いをいたします。
 麦、大豆の作付促進は、国内生産の増大を通じた食料自給率の向上を確立するためにということが理念としてあって、減反地、遊休地の高度利用をしようということであります。
 総合計画の中で6次産業推進プログラムをつくって、今までの農産品の素材提供一本やりの農業から、農家が取り組む特産品の開発、販売を応援しようとする計画は大変評価に値するものとして歓迎するものであります。
 今は飽食の時代ですが、歴史の中で何度となく飢饉に見舞われ、悲惨な思いをつづっている県でもあります。それは、パンをつくる技術を持たなかったからであります。麦、大豆の作付の基本は、まず第1に特産品の開発であります。土地利用型農業の中心に麦、大豆を据えることは、岩手県には事例も少なくメリットも期待されないと思いますがいかがでしょう。
 山形県は採算ラインは10ヘクタール以上と分析しておりますし、秋田県は野菜など戦略作物の振興に力を入れた複合経営を営農類型の中心にするとしています。より現実的な選択をしていくことが大切であります。今こそ麦、大豆の時代です。麦、大豆の価格はさまざまな制度で支えられています。各種助成金プラスで、10アール当たり小麦3万円から7万5、000円、大豆3万8、000円から8万3、000円、3ヘクタール以上の規模で取り組めばというパンフレットを見ました。
 これは麦、大豆を買う者にとってはいい話であります。農業を長年経験してきた私の直感は、またえさをぶら下げられているようなものだ。またこれで集落から人が消える。焦りというよりもあきらめという思いでした。篤農家は言っていました。国や県の逆を行けば生き残れると。まして、農地の流動化などと口では軽くは言うが、農地を二束三文で手放す人もないし、農家に限らず土地イコール財産イコール豊かさという概念は日本人の文化でもあります。そう簡単に流動化が促進されるとは思いませんが、どのように対応されるのでしょうか。
 農家は、使命感のみで農業を行っているものではありません。地域に根差した、家族中心の土地集約型の複合経営、その経営強化こそが県が追求してやまない政策課題なのではないでしょうか。お考えをお示し願います。
 農産物の消費拡大の大きな要因となっているのは、有機農業、有機農産物であります。国の統一した有機農産物表示制度への関心はかなり高まってきており、価格が通常より1割高い程度なら買いたいという声は消費者の7割に上っていると言われております。そこで、有機農業への取り組みについてもまず伺っておきます。
 この有機農業を推進するために欠かせないのは畜産であることは御承知のとおりであります。畜産は通年型であることから営農類型を組み立てる上で欠かすことのできないものであったのですが、畜産経営の大型化などによって環境のお荷物にしてしまった嫌いがあります。このごろは県の対策も本腰になっており、評価すべきものがありますが、より一層努力していただかなければならないこともあります。
 課題となっております畜産の生産コストの低減対策と、農家の負担軽減を図るためにも、従来からありました国庫補助事業に加えて、さらに県の単独事業により、中古機械等のリース、購入や、簡易畜舎、堆肥盤、堆肥舎附属屋体の導入できる事業の継続と農家の要望にこたえられる幅広い施策を早急に望むものでありますがいかがでしょうか。
 さらに、申請から2年もかかるなど対応のおくれも指摘されており、補助枠の十分な確保にも努めるべきであります。畜産県岩手として全国に名をはせている割には、畜産に対する人気はいま一つと言われないように施策の一層の充実を望むものであります。
 かつて遠野市農協では、無家畜農家を解消しようという運動を展開しました。有機農業への取り組みであり、牧場の有効利用というすばらしい発想であったのですが、山と里に適した畜種を限定して取り組みをしなかったために、計画が低迷しているのではないかと思っております。和牛は良質の高級肉をつくるために手を尽くして平場で飼い、短角牛は粗食に適した山利用として、その体系化をして飼育に当たるべきだったと感じております。その解決策が見えないだけに、早急に取り組む課題と考えますがいかがでしょうか。
 さらに、優良肉牛の素材を子牛を提供するだけの産地から、肥育、枝肉と最終製品として販売するくらいの一貫した取り組みが必要だったのではと感ずるものでありますが、県の考えをお示し願います。
 そこで、今最も求められているのは種雄牛管理の一元化であります。今まで各地区独自で優良な種牛を見出して、管理しながら産地づくりに努めてきたのでありますが、いつでも優良の牛がというわけにもいきません。他県との産地間競争に打ち勝つためにも、畜産振興を強力に推し進める上からも、黒毛和種の改良を充実、強化すること、いわて和牛の統一ブランド化に向けた精液の広域利用を図ること、種雄牛管理費の削減、合理化等をぜひ行わなければなりません。種雄牛管理の一元化に向けて対策をお伺いいたします。
 短角牛についてもF1交配の素牛としてや、山間地に適応し地域の実情に合った産品としてその推進を怠ってはならないと思います。乳牛については、受精卵移植が画期的なこととして行われることはいいとしても、その経費は高額であります。乳価の変動が常に予測されることなどから、経営安定のためにも受精卵移植の経費援助が必要という声が大きくなっておりますがいかがでしょうか。
 新農基法は直接支払い制度を導入しました。日本の農業粗生産の約4割を占めながら、担い手が減少し、耕作放棄地も増大している中山間地に積極的に目を向けて補償していこうとするものであります。しかし、難しいもので、空から測量して傾斜度を出して対象にする。組合をつくって協定を設定して対象にするというもののようであります。時間と暇をかけても、その恩恵にあずかることは拒むものではありません。
 最も手っ取り早く対象にしていただきたいのは、従来からの農家組合所有の草地改良した牧場であります。山の上にあるので条件が合致していると思うのに対象にならないと聞きました。この制度が活用されれば、牧場利用の畜産農家の振興には大きく展望が開けると思うのであります。岩手県のためにもぜひ対象になるように、国に働きかけていただきたいと思いますが、県はどのように対応していこうとしているのかお伺いをいたします。
 近年の林業を取り巻く現実は、長年の木材価格の低迷によって林業者はもちろん森林組合、素材生産業、林業会社がどんなに合理化を進め、コストダウンを図っても追いつかないほどに厳しい状況に追い込まれています。
 しかし、山村にとって最大の地場資源、地域資源である森林資源の活用は重要な課題であることに変わりはありません。これまで林業での村づくりを推し進め、森づくりや生産、加工などの地域共同的なシステムを営々として築いてきたところなどにとっては、プロの担い手の減少とその対策が大きな課題となっておりますし、12年スタートする緊急間伐5カ年対策に対する実行面での体制整備はどうなっているのか、間伐材の利用促進、公共事業への利用についてはどう取り組んでいるのか、それぞれ伺います。
 今、チップ生産業界は、転廃業に対する支援を要請するなど、最も窮地に立たされておりますが、その対応についてはどうするのかお伺いをいたします
 都市や国民にとって森林という重要な環境を健全に保っていくためには、山村及び農林業者が生き生きと森づくりに努められる環境を整えることが急務となっております。
 岩手県、各自治体の基幹産業である農畜林業振興策について質問をしてきました。これら一連の質問を通して結論づけられるものは、家族中心の複合経営の確立によってつくられる桃源郷であり、また食料難時代の大量生産、大量出荷という方針を、消費者の多様な要求にこたえ得る産品の生産から商品開発までへと転換することが切望されているということだと思います。
 かつてキノコ採り農業だと簡単に酷評された時代がありました。例えば、山のキノコを採ってきて、そのまま市場へ、牧場から子牛を下げてそのまま市場へと、手間暇をかけない、市場任せの農業を言った言葉であります。量に任せて商品開発に目を向けなかったことが、本県の農業振興を大きく後退させた原因だと思います。知事の言う県庁株式会社の実践の場がここにあるのではないでしょうか。
 農業は改良普及員が先生、林業の先生は林業改良指導員と、いまだに農村には根深く残っています。そういうことからして、総合計画に示されている6次産業推進プログラムに期待を寄せているところであります。
 県内の街道、特にも北上山地を横断する街道の至るところに産直の場をつくることは、いろんな種子の交換、特産品づくりなど、生産、加工、流通面などでメリットも大きく、何よりも自然の恵み豊かな桃源郷の産品を手にする喜びを、岩手県を訪れる人々に与えるものであります。
 このような地域資源の活用による農林業の振興や交流・連携の活発化により、桃源郷・物産・夢街道の実現追求を望むものでありますが、所見をお願いいたします。
 以上で質問を終わりますが、9月議会にも質問の機会を与えられておりますので、答弁に注目をしたいと思います。御清聴ありがとうございました。(拍手)
   〔知事増田寛也君登壇〕

〇知事(増田寛也君) 上澤義主議員の御質問にお答えを申し上げます。
 まず、犯罪の低年齢化や社会のさまざまな出来事に対する無関心、無感動といった最近の一連の社会現象があるわけでございますが、これをどう見ているかということで御質問がございました。
 近年における飛躍的な経済の発展に伴いまして、大量生産、大量消費社会というものが生み出されておりますが、こうした社会は、確かに物質的な豊かさを生み出した反面、人々の心の問題への対応というものをおろそかにしてきた面がございまして、このことが、人間の心の問題に起因して立て続けに発生しているいわゆる低年齢者の犯罪、あるいは社会のさまざまな出来事に対しての無関心、無感動といった一連の社会現象を顕在化させてきたのではないかと、このように考えております。
 欧米を目標として経済発展に我が国は邁進をしてきたわけで、その結果として、世界第2位の経済大国となったわけでありますけれども、そうした目標を達成した後、次の目標を見出せないままに社会全体が混乱しているといったような印象を、私自身も抱いております。
 こうした中で、今後、情報通信を初めとする科学技術の進歩や国際化の進展などに伴いまして、経済社会全体や、また、個々人のライフスタイルが大きく変化していくことが予想される中にありまして、人々の心の安らぎや潤い、思いやりといった心のありよう、心の持ち方が一層重要になるものと、このように思われます。
 このため、家庭、学校そして地域、職場など、社会全体がそれぞれの果たすべき役割というものを再認識するとともに、一体感を持って人々の心の充実、心の問題に対処して、みんなが夢を抱き、お互いを信頼し合って暮らしていける社会をつくり上げていくことが必要であると、このように考えております。
 次に、総合計画を推進する上で、県民の理解、参加意欲そして職員の士気をどう高めるかについてということで御質問がございましたが、私は、新しい岩手づくりの主役は県民一人一人でありまして、その参加が何よりも大切と考え、今回の総合計画の策定段階から多くの方々の参加をいただいて議論を重ね、県民の皆さんの声を計画にできるだけ反映させるように努めてきたところでございます。さらに、この総合計画に掲げております暮らしの指標の達成状況などについて公表して、その都度御意見をいただくなど、引き続きこれからも県民の皆さんの幅広い参加をいただきながらこの計画を推進したいと、このように考えております。
 また、この総合計画におきましては、自立、参画、創造による持続的な地域づくりということを新しい岩手づくりの理念として掲げているところでございまして、県民一人一人がみずからの意思で積極的に地域づくりに参画することで、暮らしや地域をより豊かで魅力あるものとして、これが新たな地域づくりへの活力を生み出してさらなる参加意欲の高まりにつながるものと、このように考えております。こうした総合計画の持っております意味を、県の職員一人一人が心に刻んで計画を着実に実行していくと、そして一つ一つ成果を積み重ねていくことが大切でございまして、こうしたこの積み重ねが県民の満足度の向上に結びつき、同時に職員自身も、真に県民のための行政を行っていくことを強く実感することができて計画推進に向けた士気を持続的に高めていくものと、このように確信をしておりまして、私は、夢県土いわての実現に向けて、私みずからが志を高く持って、職員一丸となって全力で取り組む決意でございます。
 次に、どのように夢農業を再生しようと思い描いているかということでのお尋ねでございますが、本県農業につきましては、御案内のとおり、先人の知恵とたゆまぬ努力の礎の上に、広大な県土と多彩な立地特性を生かして、米、園芸、畜産が巧みに組み合わされた特色ある生産活動と、そして豊かな農村文化がはぐくまれてきたところというふうに認識をしております。
 こうした努力の積み重ねの中で、例えば高品質、良食味米の安定生産を進めて、県南ひとめぼれが5年連続特Aという全国トップクラスの産地となりましたほか、夏期冷涼な気象条件を逆手にとった西根町の品質日本一の雨よけホウレンソウ、また、市場評価の高い夏秋野菜の産地が形成されまして、また、規模拡大を進めて日本農業賞の大賞を受賞しました岩手町の大規模野菜生産農家、それから地域内一貫生産体制の確立によって、全国の肉用牛の枝肉共励会で肉質日本一の名誉賞を9回も受賞した和牛生産農家など、全国に誇れるトップレベルの品質と生産技術を備えた経営者が数多く輩出をし、活躍をされているところでございます。
 さらに、食の匠を初めとした女性グループによる農産物加工ですとか産直活動などの地域活性化に向けた活発な取り組みなど、こうした事例に直に接するたびに岩手農業の姿に感銘をし、また、力強く感じているところでございます。
 私は、このように、それぞれの農業者が、地域特性に応じて資源を最大限に有効活用して、それぞれの生産にかける夢を思い描きながら、国民の暮らしと命を支える食料の生産を担うという、その誇りと自信を持って営農にいそしむことができる農業が、今議員からお話しのございました夢農業であると、このように考えております。
 したがいまして、今回の農業・農村基本計画の基本目標でありますいわての大地に個性きらめく農業・農村の創造と、このような目標の実現を図っていくためには、何よりも地域営農の中心となる経営能力にすぐれ、また、意欲にも満ちた主業型農家の育成というものが重要と認識をしております。
 また、女性の主体的な参画を促しながら地域特性に応じ、土地や労働力、機械などを高度に活用した地域ぐるみ農業というものを積極的に支援をしていく考えでございます。
 また、さらには、農業者の食品加工への取り組みや食品産業との連携を強めながら、農家の所得向上を図る農業経営の多角化を進めて、生き生きとした農業・農村の再構築に取り組む考えでございます。
 次に、立丸トンネルの整備の見通しについてのお尋ねでございますが、県の総合計画におきましては、人や物の移動時間の短縮を図る時間距離短縮プロジェクトというものを掲げておりまして、高速交通ネットワークの整備や県内90分交通ネットワークの推進、さらに山脈の壁を貫く峠道整備として仙人峠など、長大トンネルを整備することといたしております。
 この前期7カ年の事業予定箇所、これ県内各地の事業予定箇所がさまざまあるわけですが、これは立丸峠なども含めたさらに多くの整備の必要な箇所についてそれぞれ個別にさまざまな角度から検討評価を行って、そして一つ一つ優先順位を付して、さらに全体としての可能投資額なども考慮しながら位置づけをしたものでございます。立丸トンネルにつきましては、このような経緯を経て岩手県総合計画の後期計画の中で検討を進めるべき整備課題であると、このように認識をしております。
 この立丸トンネルの整備に対する熱意というものは、もう私も遠野市や川井村など、地元からの要望活動を通じて十二分に承知をしているところでございまして、その実現のためには、一方で生活圏を越えた広域的な交流・連携の促進など、この道路を活用した地域の活性化方策の展開が重要であると、このように考えております。
 今後、県では、地域と一体となりまして、今、申し上げましたような観点も含めた各種の調査を進めていく中で、その整備手法とそれから整備時期などについて検討したいと考えております。
 次に、中山間地域における公共事業についてでございますが、中山間地域は平場地域と比べて経済社会条件が不利な状況に置かれておりまして、こうした地域にとって、公共事業などによる社会資本の整備は快適で安全な生活の実現だけでなくて、地域が自立的に発展していくための基礎的な条件整備として重要なものであると、このように認識をしております。
 もとより、中山間地域の活性化を図るためには、産業振興や生活環境の整備など総合的に対策を講じていく必要がありますので、岩手県のこの総合計画におきましては、地形の壁を乗り越える中山間地域活性化プロジェクトというものを考えまして、その中でふるさとを彩る人材の育成や地域特性に即した産業の振興、都市と農山村との新たな交流の拡大など、この中で八つの具体的な実践プログラムを掲げているところでございます。
 中山間地域における公共事業の推進に当たりましては、地域地域の特性やその重要度、緊急度など、総合的な見地からの事業評価を加えた上で今後とも積極的に取り組みたいと、このように考えております。
 その他のお尋ねにつきましては、関係部長から答弁をさせますので御了承をお願いいたします。
   〔農政部長佐藤徳兵衛君登壇〕

〇農政部長(佐藤徳兵衛君) まず、米の流通対策についてでありますが、県産米の大部分を占めておりますいわゆる系統販売は、実需者の多様なニーズにこたえられるような多彩な品ぞろえや販売ロットの確保を可能とし、価格設定などの取引条件の交渉においても大きな力となるものであります。
 具体的には、系統出荷をする農家にとりましては、仮渡金が受けられることや販売代金が確実に支払われることのほか、乾燥調整貯蔵施設の共同利用による品質の安定化やコスト低減が図られることなどの利点があり、個別相対取引によるリスク負担や取引が安定的に継続されるかなどの不安定要素に左右されず、安心して稲作経営に取り組めるメリットがあると考えております。
 このため、県といたしましては、農業団体と連携し、首都圏、大阪、名古屋等の大手卸売業者を対象に、いわて純情米重点卸懇談会やいわて純情米産地情勢説明会の開催などにより、いわて純情米を重点的に取り扱う販売先を確保するとともに、例えば東京における和の鉄人中村孝明さんや大阪におけるゆめろく弁当など、全国に情報発信できる販売の展開にも努めてきたところであります。
 今後におきましても、消費者の安全、安心などのニーズに即した減農薬栽培米など売れる米づくりに徹底し、これまでのいわて純情米品質・食味ワンランクアップ運動から、新たに食味値なども加えたいわて純情米レベルアップ運動を実施し、これからますます激化する米の産地間競争を視野に入れた販売戦略を強力に展開してまいりたいと考えております。こうした取り組みを通じ、農家所得の確保、向上にも寄与してまいる考えであります。
 次に、麦、大豆についてでありますが、水田の有効利用や食料自給率向上の観点から、麦、大豆の生産振興は極めて重要な課題であります。しかしながら、排水が不良であったり栽培技術が未熟なために、品質、収量が目標水準に達しない圃場や、栽培規模が小さいために導入メリットが十分発揮できないでいる状況も見られます。一方では、地域の話し合いを重ね、担い手農家への農地の利用集積や団地化を進めながら、収量的にも品質的にも成果をおさめている優良事例も各地に見られております。
 このようなことから、今後におきましては、まずもって団地化を強力に推進するとともに、圃場の排水性の改善や栽培技術指導の徹底による収量、品質の向上を図ってまいります。また、県内の実需者からも、品質、数量ともに安定した麦、大豆の供給拡大が求められておりますので、生産者と実需者との連携による契約栽培などの取引を促進するとともに、生産者がみずから加工し付加価値の高い有利販売の取り組みにも積極的に支援してまいる考えであります。
 次に、農地の流動化についてでありますが、農業労働力の減少が急速に進行すると見込まれる中にあって、農地の売買だけではなく、貸借や基幹作業の受委託も含めた農地の流動化を進めようとしているものであります。こうした農地利用の集積を促すため、農地流動化ステップアップ運動と連動しながら、水田における麦、大豆の団地化や圃場整備に取り組む地域を重点に、担い手を中心とした営農体系の構築を図り、農地の利用集積を加速度的に進めてまいりたいと考えております。
 なお、家族中心の土地集約型の複合経営の推進についてでありますが、食料・農業・農村基本法においても、家族経営体が中心を担うものと明示されております。
 一方、労働力が減少する中で、これまでのような自己所有地を中心にした営農には限界がありますので、地域農業の核となる主業型農家への農地の利用集積を進めるとともに、地域の話し合いのもとに地域ぐるみ農業を展開することが不可欠であると考えております。
 次に、有機農業への取り組みについてでありますが、我が国のような湿度の高い多湿な気象条件では、化学農薬や化学肥料に全く頼らずに農産物を生産することは大変難しいものと考えております。有機農産物については、当面、病害虫の発生の少ない作型や作物などを対象に生産を進めることとし、比較的取り組みやすい減農薬や減化学肥料栽培の普及を積極的に図ってまいりたいと考えております。このため、農薬や化学肥料にかわる性フェロモンや有機質肥料を用いた栽培技術を開発し、実証展示などを通じて普及を図っていくこととしており、こうした取り組みにより消費者ニーズに対応した安全、安心な農産物の生産拡大を進め、純情産地としての評価を高めてまいりたいと考えております。
 次に、畜産の振興についてでありますが、まず生産コストの低減と農家負担の軽減につきましては、国庫補助事業に加えて、県独自の助成措置として低コスト肉用牛農家育成緊急対策事業──これは低コスト牛舎等の支援事業であります。それから、地域有機物資源活用促進事業──これは簡易堆肥舎等に対する助成でありますが、こうした事業のほか、低利な融資制度やリース事業による支援策を講じてきているところであり、今後とも、地域の要望にこたえられるように努めてまいりたいと考えております。
 次に、放牧による肉用牛の振興についてでありますが、放牧は生産の省力化、低コスト化はもとより、食料自給率の向上を図る上でも、国全体として極めて重要視されております。こうした見地から、夏山冬里方式が定着している日本短角種はもとより、黒毛和種につきましても、放牧のための管理技術などの条件整備を行いながら、積極的に公共牧場を活用する必要があると考えております。このため、地方振興局ごとに策定した公共牧場の再編整備計画に基づき、その機能強化を図ってまいる考えであります。
 具体的には、放牧地での人工授精を容易にするための追い込みさくの整備、子付きや妊娠牛などの専用牧区の設置、子牛の発育を補うための飼料給与施設の設置、繁殖牛の周年飼養施設の整備のほか、放牧看視人の育成など、きめ細かな対策を講じてまいる考えであります。
 次に、肉用牛の県内一貫生産の促進につきましては、生産農家の収益性を高め、さらには肉用牛の主産県としての地位を確固たるものとするためにも、前沢牛を代表とする本県の肥育技術の普及拡大はもとより、自県産の優良肥育素牛の生産が極めて重要な課題であります。このため、県独自の肥育素牛の県内保留対策事業を継続実施するほか、いわて和牛改良増殖事業により、肉量、肉質ともにすぐれた優良種雄牛の造成に努めているところであります。幸いにして、昨年末には産肉能力検定において実証をされた優秀な県産牛2頭のほか、遠野地方農協の福鶴藤も大変すばらしい検定成績をおさめるなど優秀な種雄牛群が強化され、本県の黒毛和種の生産振興に大いに期待されているところであります。また、育種価の高い優良雌牛の県内保留対策につきましては、新たな県独自の支援措置を講じながら、自県産の優良肥育素牛の生産に努めてまいる考えであります。
 御提言がありました種雄牛管理の一元化につきましては、関係団体の理解と協力のもとに、早期実現に向けて取り組んでまいります。
 次に、肉用牛に対する受精卵移植の経費援助につきましては、今後とも農畜産業振興事業団による指定助成を積極的に導入するとともに、受胎率の向上に向けた技術指導の充実に努めてまいります。このような各種の施策を講じながら、畜産岩手の産地づくりに努めてまいる考えであります。
 次に、直接支払制度における農家組合所有の牧場の取り扱いについてでありますが、直接支払制度の対象となる農地としては、傾斜度を基準としながらも農業生産条件の不利性に応じたさまざまなタイプがあり、その具体的取り扱いについては本年1月下旬に確定したところであります。
 御指摘のありました放牧地につきましては、直接支払制度の対象となり得るとされたところでありますが、今後、採択要件に合致した傾斜などの諸条件、あるいは集落協定の締結の可否等についてさらに精査する必要がございますので、関係市町村と協議しているところであります。
 次に、桃源郷・物産・夢街道への所見についてでありますが、近年、生活様式の変化により物の豊かさより心の豊かさ、生活の利便性より自然や地方の文化との触れ合いが重要視されるなど、国民の価値観が多様化してきており、農山村地域が有する豊かな山・里の資源、食文化、伝統工芸、生活環境などが注目されてきているところであります。こうした中で、産直施設は近年活発に設置されており、有人の施設は県下230カ所余りに及んでおります。このような産直施設においては、地域の特産である野菜や花、キノコ、また、農林産物の加工品などが販売されており、単に地域住民の所得の向上ばかりではなく、消費者との対面販売や交流を通じて、地域の方々がやる気と充実感にあふれた地域の活性化に大きく貢献しております。
 今後、農山村地域を一層活性化していくためには、地域特産物の生産振興や加工による高付加価値化など、多彩な資源を丸ごと活用した地域産業の形成やグリーン・ツーリズムの取り組みを進め、新たな就業機会の創出を促進するとともに、こうした地域の特色あるさまざまな動きを県内外に情報発信しながら、地域に誇りと自信を持った主体的な活動を積み重ねていくことにより、御提言の桃源郷・物産・夢街道の実現につながっていくものと考えております。
   〔林業水産部長佐藤克郎君登壇〕

〇林業水産部長(佐藤克郎君) まず、林業の担い手対策についてでありますが、林業の担い手が減少、高齢化する中で、新規林業従事者の確保や基幹的な林業従事者の養成が課題となっており、現在、林業労働力確保支援センターなどの事業で、従事者の経験あるいは能力に応じた技術の修得のための研修を行っているところであります。特に、木材の伐採や搬出作業に必要なチェーンソーや林業架線の操作などの資格取得を目的とする基幹林業労働者研修のほか、伐採や集材を自走して行う高性能林業機械のオペレーター研修を実施し、これまでに林業作業士、いわゆるグリーンマイスターでございますが163名、それから高性能林業機械オペレーター64名を養成してきたところであります。
 今後とも、機械化等による効率的な林業を展開するため、研修事業の充実等により林業従事者を計画的に養成するとともに、技術者相互の交流を促進し、より技術レベルの高い担い手の育成・確保に努めてまいりたいと考えております。
 次に、緊急間伐5カ年対策の体制整備についてでありますが、国におきましては、これまでの間伐推進の取り組みをさらに強力に推進するため、平成12年度から全国で150万ヘクタールの間伐を進める緊急間伐5カ年対策を実施することとしております。県といたしましては、この対策を受け、岩手県緊急間伐5カ年計画を策定することとし、先般、林業水産部内に計画策定会議を設置いたしまして、緊急間伐団地の設定、路網の整備、さらには作業実施体制の整備や間伐材の利用促進対策などにつきまして検討を進めているところであります。なお、今回の緊急間伐5カ年対策では、緊急間伐団地の設定や当該団地内の森林の維持、保全について市町村の役割が求められておりますことから、林業普及指導事業を通じて、市町村との連携を一層図りながら、間伐対策を推進してまいりたいと考えております。
 次に、間伐材の利用促進、公共事業への利用についてでありますが、本県の間伐材は、近年、生産量の約6割が建築材や土木用資材等に利用されております。県といたしましては、これまでもその需要の拡大に努めてまいりましたが、特に平成10年10月に岩手県木材利用推進方針を策定いたしまして、公共事業等への木材利用を積極的に促進してきたところであり、平成11年度の公共土木事業における間伐材の利用は、前年度のおおむね1.2倍に当たる約7、500立方メートルが見込まれており、着実にその成果を上げているところでございます。今後は、新たに本県の気候、風土に適した住宅やそれに用いる住宅用資材の開発、さらには林業技術センターと民間企業などが共同で開発を進めております、木材の表面にかたい塗装を施した、いわゆる表面硬化材の製品化を促進するなど、引き続き間伐材の需要拡大に努めてまいりたいと考えております。
 次に、木材チップ業界への対応についてでございますが、木材チップ業界は、製紙原料における安価な輸入チップや古紙利用の増大等に伴い国産チップの需要が減少し、またチップ価格の低迷等により、厳しい状況に置かれていると認識をしております。こうした状況を打開するためには、経営の合理化など業界の自主的な取り組みが重要でございますが、県といたしましても、引き続き素材購入等に要する資金の貸し付けを行うとともに、チップ生産施設の高度化、合理化に向けた取り組みや、木材チップの新用途開発を促進するなど、経営の安定化に向けた支援をしてまいりたいと考えております。

〇議長(山内隆文君) 次に、及川幸子さん。
   〔11番及川幸子君登壇〕(拍手)


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