令和3年2月定例会 第12回岩手県議会定例会会議録

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〇8番(米内紘正君)自由民主党の米内紘正でございます。
 請願陳情第37号75歳以上の医療費窓口負担について原則1割負担の継続を求める請願に対して反対の立場から討論をいたします。
 現在、日本においては急速な少子高齢化に加え、医療技術の目まぐるしい進歩や新薬の開発に伴い高価な薬が普及したことにより、医療費が爆発的に増加しております。国における年間医療費は40兆円を超え、1990年と比べても2倍以上に増加し、社会保障給付費全体で見ると、1990年の国民所得に対して13.7%だったものが、2020年では30.5%と、30年で2.5倍に膨れ上がっているのです。
 そのような状況の中で、現在政府が進めている75歳以上の年収200万円以上の単身世帯及び年収合計320万円以上の夫婦世帯に2割窓口負担をしていただこうとする取り組みは、世代間での負担感を平準化し、世代間の分断を回避するためにも必要な取り組みであると考えます。
 本請願には、2割負担に引き上げられる世帯は年間3万4、000円の負担増になると試算しておりますが、一方で、現役世代は、今の75歳以上の方々が現役のときと比べ、所得における社会保障負担率は上昇し、その率は50年で3倍以上にはね上がり、年間では何十万円もの負担がふえているのです。その中で若年世代は、結婚、子育て、住宅ローンを抱えながら、高齢者と同じ所得水準であっても、自己負担は1割ではなく3割であります。
 若年世代は医療費が比較的かからないとはいえ、社会保障費の負担増もあって、30歳代の勤労者世帯の純貯蓄額―貯蓄から負債を引いた額でありますが、これは20年前と比較すると、1世帯当たり700万円も減少しています。現在の日本の金融資産の6割以上は60歳以上の方の保有する資産ですが、現在の若年世代は、貯蓄もままならないまま年をとり、医療費においては、今以上の自己負担が求められる可能性があるのです。
 本請願では、75歳以上の方が40歳から50歳代の2倍から6倍近い医療費負担をしていると書いてあります。しかしながら、世代間の公平感を考えたときに、この比較は意味をなしません。なぜなら、今40歳から50歳の方は、いずれは75歳以上になり、そのときには同じように今の2倍から6倍の医療費がかかるからです。世代間の公平を図るなら、そのときにも現在と同じ自己負担額となるような全世代型の社会保障制度を構築しなければならないのです。2040年に高齢化がピークを迎える日本において、未来にツケを回し、未来の世代が、受診控えを行い、命を落とすようなことがあってよいのでしょうか。
 ここで一つ、受診控えに関するデータを提示いたします。令和2年に日本医師会によって実施された日本の医療に関する意識調査の中で、費用負担が理由で受診控えを行った人の割合というものがあります。本調査では、年収ごとに費用負担を理由に受診控えを行った人の割合が示されております。所得200万円未満では7.8%、所得200万円から300万円未満では2.8%、所得300万円から500万円未満では3.4%、所得500万円以上では2.6%と、所得200万円以上の世帯では、受診控えを行った割合において有意な差は見られないのです。すなわち、所得200万円未満の世帯では、費用負担を理由に受診控えを行う方が多いものの、所得が200万円以上の世帯に関しては、400万円であろうが、500万円以上だろうが、所得にかかわらず一定数、受診控えをする人がいるのです。
 今回の政府の方針では、200万円未満の方に対しては引き続き窓口負担1割を継続するとしており、所得が200万円未満の方が受診控えを行う傾向があるというエビデンスに基づいた方針と言えます。
 また、75歳以上の年収200万円以上の方の窓口負担が2割に引き上げられたとしても、所得が同水準の若年世代と比較すれば依然として優遇されており、加えて、外来診療分においては、高額療養費制度によって月額上限1万8、000円と、現役世代5万7、600円に対して3倍以上の優遇措置がとられているのです。したがって、75歳以上であっても、費用負担を理由に受診控えを行わない負担能力のある方々に対して、一定の負担をお願いすることは、未来の世代の命を救う、世代間の不公平感をなくすためにも、理にかなった政策だと言えます。
 高齢者を切り捨てるような制度にしてはいけない、そんなことは当たり前であります。では、同じ所得水準で、結婚、子育て、住宅ローンを抱え、高齢者よりも高い窓口負担率で、この20年間で純貯蓄額が700万円も落ち込んだ若年世代を切り捨てるのはいいのでしょうか。
 岩手県における後期高齢者医療給付費の財源約1、500億円のうち4割に当たる580億円が、後期高齢者支援金として現役世代が加入する医療保険から拠出されています。今回の75歳以上の年収200万円以上の方の窓口負担を2割に引き上げがなされたとしても、費用削減効果は1、500億円のうち15億円程度、1%です。それぐらいは未来の世代のことを考えてもいいのではないでしょうか。
 高齢者の負担もふやさない、若者の負担もふやさない、将来的な自己負担額もふやさない、そんな絵そらごとは、今の若者は誰も信じません。現に、かつての政権下において、旧民主党時代、医療費の財源を見出すことはできず、医療政策は行き詰まりました。もし、また未知の財源を持ち出すのであれば、政府に対して具体的な財源を提案する内容を盛り込むべきであり、少なくとも、本請願のように、財源を示さずに、いたずらに若者と高齢者の対立をあおるものになってはならないと思います。
 私は、この請願に賛成してしまったら、二度と若者の立場に立てないのではないかと不安を覚えました。少子化対策、結婚支援、子育て支援、若者世代の困窮対策、移住、定住、県が進めようとしていることと矛盾してしまう。若い世代の流出が他県に比べて多いのは、若者に負担を押しつけ、若者の未来を軽視するようなマインドも影響しているのではないでしょうか。
 医療においては、日々進歩し、より高度で安心な医療を受けるために、費用負担が増加してしまうのは仕方ないことだと思います。むしろ、すばらしいことです。だからこそ、私は、その増加した負担分を若者、未来の世代に押しつけることなく、全世代で公平に分担するべきであると考えます。
 75歳以上の年収200万円以上の世帯においては、窓口負担が2割に引き上げられたとしても、これまでに提示したデータ、年収200万円以上の世帯において、明確に受診控えをしているというデータはない。依然として高額療養費制度を初めとする各種優遇政策は残っていることから、高齢者に過度な負担を押しつけることにはつながらないとの判断から、本請願に反対をいたします。
 議員各位の御賛同を心からお願い申し上げまして反対の討論といたします。御清聴ありがとうございました。(拍手)
〇議長(関根敏伸君)次に、臼澤勉君。
〔22番臼澤勉君登壇〕

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