平成22年2月定例会 第15回岩手県議会定例会 会議録

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〇知事(達増拓也君) 本日、ここに第15回県議会定例会が開会されるに当たり、今後の県政運営について、私の所信の一端を申し上げます。
 私は、県民所得の低迷や厳しい雇用情勢、深刻さを増す地域医療など、岩手が多くの危機に直面する中で知事に就任して以来、その危機を希望に変えるため、世界や日本の中で岩手が置かれた現状を把握しながら、何をなすべきかを県民とともに考え、行動してまいりました。
 この結果、2度にわたる地震からの復興や地域医療を支える県民運動の広がりなど、本県が直面するさまざまな危機に立ち向かう県民全体の前向きな姿勢と努力により、危機を希望に変える取り組みも始まっています。
 また、県民の幅広い参画と英知を結集した、いわて県民計画の策定を通じ、岩手の将来を見据えて具体的に取り組むべき課題も明らかになってきております。
 私の任期最終年度となる平成22年度は、県民全体でこうした課題を克服し、希望あふれる岩手の未来に向けて力強く第一歩を踏み出す1年としたいと考えております。
 グローバル化が進展する中で、一昨年の世界的な金融危機に端を発した経済の急激な悪化が、今なお、私たちの暮らしや仕事の現場を脅かしています。
 また、我が国では、人口減少、少子高齢化が一層進行し、年金、医療、介護など、社会保障制度への信頼も大きく揺らいでいます。
 こうした中、昨年は、アメリカではオバマ政権が誕生し、我が国でも、将来に対する不安が、この国の大きな変化を求め、国民みずからが新しい政治を切り開いていこうという大きなうねりとなって、本格的な政権交代という歴史的変革が起きました。今、政府に求められていることは、こうした国民の期待にこたえる具体的な行動であり、とりわけ、厳しい経済、雇用情勢のもと、国民が安心して暮らせる社会の実現に向けたセーフティネットの構築が急務であります。
 そのためには、真の地域主権のもとで、私たち地方政府は、次代を担う人材の育成や地域に根差した産業政策などの主役となり、住民に身近な公共サービスを提供するとともに、中央政府は、年金等の社会保障給付などの分野で地方政府をしっかり支えるという、行政システムの変革が必要であります。
 このように、世界や日本が変革に向けて大きく動き出し、先を見通しにくい時代であるからこそ、県民とともに将来に向かって岩手の目指す姿を描き、その実現に向けて一緒に行動していくことが重要であります。
 このため、私は、先般、議会の承認をいただき策定した、いわて県民計画を羅針盤として、県民一丸となって課題を克服し希望あふれる未来を切り開いていく岩手の姿を、日本さらには世界に示していきたいと考えています。
 いわて県民計画では、基本目標として、いっしょに育む希望郷いわてを掲げています。
 岩手には、平和都市平泉に代表される人々の平和や希望の実現を願う岩手のこころ、結いの精神、実直で粘り強い県民性など、自然、風土に培われた地域色豊かな独自の価値があふれています。
 このような岩手らしいゆたかさやひとを守り、はぐくむとともに、人と人、人と自然、人と地域とのつながりをはぐくんでいくことが、希望郷いわての実現につながります。
 今、日本の政治は政権交代という歴史的な大変革を遂げ、政府は、いのちを守る政治という理念のもと、ひとと絆を重視し、輝く日本を取り戻そうとしています。
 いわて県民計画は、こうした政府の考え方を先取りし、ゆたかさ、つながり、ひとを、未来を開く重要な視点として、県民の総力を結集して希望郷いわてを実現していこうとするものであります。
 この岩手を、さらに輝きを増し希望あふれる地域として未来に引き継いでいくことは、今を生きる私たちの重大な責務でもあります。
 こうしたことから、本年は、依然として厳しい経済、雇用情勢への対応といった直面する喫緊の課題に全力を挙げて取り組むとともに、希望郷いわての実現に向け力強く歩み出す1年としなければなりません。
 活力に満ちた地域社会を構築し、希望郷いわてを実現していくためには、オール岩手の力を結集した取り組みはもとより、地域の特性を最大限に発揮できる枠組みとしての4広域振興圏が、明確な顔を持った圏域として確立され、地域の方々が安心して暮らせる確かな地域経済の基盤を築いていかなければなりません。
 そのためには、産業振興を中心とした圏域が一体となった地域振興施策の効果的、効率的な展開に向け、限られた行財政資源を戦略的に集約し、組織力、地域力を最大限に発揮できる組織体制が必要であります。
 このような考え方のもと、本年4月から、県南広域振興圏に加え、他の三つの広域振興圏においても1広域振興圏1広域振興局体制をスタートさせることとしました。
 今後は、広域振興局の総合力、機動力を発揮した地域経営を一層強化し、市町村と連携しながら、圏域ごとに描いたそれぞれの目指す将来像の実現に向けて取り組んでまいります。
 特に、県北・沿岸圏域については、引き続き県北・沿岸振興本部を中心に、本庁と広域振興局が、より緊密な連携を図りながら、県政の重要課題として総力を挙げてその振興に努めてまいります。
 具体的には、三陸沿岸のすぐれた海の資源や研究機関等の集積を生かして、いわて三陸海洋産業振興指針に基づく総合的な海洋産業の振興を図るとともに、食、温泉、いやしなど、県北圏域の特色ある地域資源を生かした交流人口の拡大や岩手県北、青森県南の交流、連携を促進してまいります。
 平成22年度の当初予算は、いわて県民計画を具体的に推進する第一歩となるものであります。
 そのため、県財政は依然として厳しい状況にありますが、県民一人一人が未来に向け、希望を持って歩み出すことができるよう、特に、喫緊の課題である雇用対策や地域経済の底上げに意を注ぎながら、希望維新、希望郷いわて元年予算として、21年度当初予算を大幅に上回る積極型の予算として編成を行いました。
 一方で、県民満足度を高める行政サービスを将来にわたって提供していくためには、持続可能な行財政構造の構築に向けた不断の改革を進めていかなければなりません。
 限られた職員体制においても、質の高い、効率的な行政サービスを提供するため、本年4月から本庁組織を再編し、組織力を最大限に発揮できる体制を整備するとともに、広域振興局の支援機能を充実し、いわて県民計画を着実に推進してまいります。
 また、現在は、社会が大きく変わろうとしている幕末、維新のような時代であり、地域主権改革が本格化する中、県及び県職員が既存の枠組みを越えて、独創力と行動力を発揮しながら、県民と一緒にクリエーティブに活動する取り組みとして、昨年11月に岩手県I援隊運動を開始しました。
 このI援隊運動は、坂本龍馬の結成した海援隊が、グローバルな視点で我が国のあるべき姿を描いて行動し、国や社会を改革した先駆けとなったように、県職員一人一人が、岩手から新しい時代を切り開いていくという気概のもと、県内外のさまざまな主体と問題意識や地域課題などを共有できるネットワークを率先して築き、その課題解決に取り組んでいこうとするものであります。既にこの運動のもとで、官民の枠を越えた多様な活動が展開されており、今後とも希望郷いわての実現を支える、ゆたかさ、つながり、ひとをはぐくむ活動として一層進めてまいります。
 次に、平成22年度の施策の具体的な推進についてでありますが、平成22年度は、アクションプランの政策推進目標として掲げた、雇用環境、県民所得、地域医療、人口転出の四つの喫緊の課題解決と、岩手の未来を開くゆたかさ、つながり、ひとの基盤形成に向けた取り組みを進めてまいります。
 以下、重点的に取り組む施策について、いわて県民計画の岩手の未来をつくる七つの政策に沿って御説明してまいります。
 まず、政策の第1は、産業創造県いわての実現であります。
 県内の経済、雇用情勢は、依然として厳しい状況が続いています。
 県民だれもが安心して生活し、あすへの希望を持ち続けるためにも、喫緊かつ最重要課題として経済、雇用対策に引き続き全力を傾注してまいります。
 具体的には、岩手県経済・雇用対策本部を中心として、緊急雇用創出事業、ふるさと雇用再生特別基金事業の取り組み強化による雇用の創出や、いわて求職者総合支援センター、ジョブカフェ等を活用した地域における就業相談、離職者等を対象とした職業訓練の拡充など、就業支援の充実に努めてまいります。
 また、就職内定率が低い水準にあることから、就職が決まらずに卒業を迎える新卒者への就職支援や、新卒者等を雇い入れる企業に対する支援を市町村とともに行うなど、雇用、労働環境の整備に取り組んでまいります。
 こうした喫緊の課題に的確に対応する一方、本県の産業基盤をより強固なものとし産業創造県いわてを実現するためには、中長期的な視野に立ち、ものづくり産業集積の柱である自動車、半導体関連産業など、戦略的な産業分野において磐石なものづくり基盤の形成を促進するとともに、将来の展開を見据えた取り組みを強化する必要があります。
 このため、地場企業と誘致企業の交流や取引の拡大など、総合的な支援を引き続き実施し、関連企業の育成と集積を図るほか、平成23年度に予定される岩手県ものづくり・ソフトウェア融合テクノロジーセンターの開設を見据えた高度ソフトウエア開発技術者や、いわてデジタルエンジニア育成センターを活用した三次元設計技術者など、高度技術、研究開発人材の育成を促進してまいります。
 また、今後成長が見込まれる医療機器関連産業について、製品開発支援など関連産業の創出や参入に取り組むほか、低炭素社会への対応を見据え、本県独自のシーズを活用した次世代型デバイスの開発を推進し、関連企業の育成と集積を促進してまいります。
 グローバル化が進む中、安定的に成長できる足腰の強い経済基盤を構築するには、地域資源を生かした食産業や観光産業などを同時に振興していくことが重要であります。
 このため、本県の質の高い農林水産物等を活用した食産業を、高い付加価値を生む総合産業として成長させるため、農商工連携等を促進するとともに、食産業支援のネットワークを活用しながら、商品開発、販路開拓などを支援してまいります。
 また、今議会に提案しております、みちのく岩手観光立県基本計画に基づき、ひろげようおもてなしの郷いわてを合い言葉に、県民一丸となって、観光産業を農林水産業などに波及効果をもたらす総合産業として育ててまいります。
 さらに、本年5月から、中国で開催される上海万博を千載一遇のチャンスととらえ、上海市の企業やプーアル市と共同出展し、市場評価の高い南部鉄瓶とあわせ本県の魅力を世界にアピールし、県産品の販路拡大や観光客誘致、さらには中国企業の誘致などにつなげてまいります。
 政策の第2は、食と緑の創造県いわての実現であります。
 本県はこれまで、恵まれた地域資源や特性を生かし、我が国の主要な食料、木材供給基地として確固たる地位を築いてきました。
 一方で、農林水産業を取り巻く経営環境は、担い手の減少や高齢化の一層の進行、耕作放棄地の増加、景気悪化に伴う生産物価格の低下など、さらに厳しさを増しています。
 また、来年度からは、農政を大幅に転換する新たな戸別所得補償制度が導入されるなど、本県の農林水産業は大きな変化に直面しています。
 このような情勢の中で、地域経済を支え、さらには、我が国の食を支える産業として農林水産業を振興していくため、担い手、技術、経営資源といった観点から生産力を強化するとともに、内需主導型産業として発展していくための高付加価値化や環境ビジネスの育成などに重点的に取り組んでまいります。
 特に担い手については、本県の農林水産業を先導する認定農業者や集落営農組織、地域けん引型林業経営体、中核的な漁業経営体を育成するとともに、他産業からの就業や企業参入などを促進し、多様な担い手を確保、育成してまいります。
 さらに、喫緊の課題である耕作放棄地の解消に向けては、昨年設置した岩手県農地再生・活用対策本部を中心に、農地の再生利用と担い手への面的利用集積を一層促進してまいります。
 また、生産性、市場性の高い産地形成に向けては、全国トップレベルの安全・安心産地を確立するとともに、新品目の導入等による園芸産地の再構築や、木材の低コスト生産と安定供給、サケの回帰率向上などによって戦略的に産地づくりを進めてまいります。
 厳しい経済情勢の中、雇用の創出や所得向上を図り、地域経済を活性化していくためには、農林水産業分野においても流通加工、販売分野への進出や食産業、観光産業等との連携を強化していく必要があります。
 このため、6次産業化による地域ビジネスモデルの確立を支援するほか、プレミアム商品の開発や積極的な情報発信などにより、本県の農林水産物を全国に誇れるブランドとして確立してまいります。
 さらには、本県の地域資源を生かしたグリーンツーリズムや産直などの多様な農山漁村ビジネスを振興するとともに、豊富な森林資源を活用した木質バイオマスエネルギーの産業利用や二酸化炭素排出量取引の拡大等を図り、岩手らしい環境ビジネスを促進してまいります。
 政策の第3は、共に生きるいわての実現であります。
 県民一人一人が将来にわたって安心して暮らしていくためには、地域医療の確保が、経済、雇用対策と並ぶ本県の最重要課題の一つであります。
 医師不足の危機的な状況の中で、地域医療に対する認識が高まり、地域住民の活動や、地元医師会等を中心とした地域医療を支える取り組みが県内に広がっていることを心強く感じております。
 しかしながら、医師の地域偏在や、産科、小児科など特定診療科の医師不足、過酷な勤務環境等に起因する病院勤務医の減少など、依然として地域医療は深刻な状況が続いています。
 このため、医師確保対策アクションプラン等に基づき、医師や看護師などの医療人材の確保と県内への定着に向けて引き続き全力を注いでまいります。
 また、ドクターヘリについては、救命救急の充実に向け、その早期導入が強く期待されているところであります。県としてもその必要性を強く認識しており、有識者会議による検討を踏まえ、県高度救命救急センターへのドクターヘリの導入を促進するとともに、県立病院にヘリポートを整備するなど、救命救急医療の高度化に積極的に取り組んでまいります。
 さらに、限られた医療資源の中で住民本位の地域医療を再構築していくため、県民みんなで支える岩手の地域医療推進会議を通じた県民運動の一層の展開や、地域医療に関する懇談会の提言を踏まえた地域医療を支える取り組みを支援するなど、県民総参加型の地域医療体制づくりを推進してまいります。
 私は、今日の地域医療をめぐる諸課題の主な要因は、これまでの国による医師養成や医療費の抑制策にあるとの認識から、国に対して地域医療に関する基本法の制定などの提言を行ってきたところでありますが、今後とも、本県にとって望ましい医療提供体制の構築に向けて積極的に働きかけてまいります。
 また、生活習慣病の予防を初め、新型インフルエンザや性感染症等の感染症対策、広範にわたる自殺対策を推進するため、予防対策等の正しい知識の普及啓発、人材育成等を図りながら、市町村や各分野の機関、団体等とともに官民一体となった対策を進めてまいります。
 人口減少、少子高齢化が一層進行する中、子育てを社会全体で支えていくとともに、安心して生活できる福祉コミュニティづくりを進めていく必要があります。
 このため、多様な媒体を活用し、総合的な子育て応援情報の提供などを行う子育て応援大作戦の展開や、保育サービスの充実など、子育て家庭に対する支援を充実してまいります。
 また、昨年、県長寿社会振興財団に設立したいわて子ども希望基金を活用し、未婚の男女の交流機会の提供や企業等による子育てにやさしい職場環境づくりの支援などを図り、行政と企業、地域住民等が一体となって安心して子供を産み育てられる環境の整備を推進してまいります。
 さらに、高齢者や障がいを持った方々が、住みなれた地域で安心して生活できるよう、住民参加による生活支援の仕組みづくりや介護サービス基盤の整備などを推進してまいります。
 政策の第4は、安心して、心豊かに暮らせるいわての実現であります。
 一昨年の2度の大きな地震では、自然災害の脅威を改めて痛感させられたところであり、また、今後、高い確率で宮城県沖地震の発生も予測されることなどから、防災対策を着実に進めることは重要な課題であります。
 このため、大規模災害発生時における被害の軽減に向け、津波に関する研修の実施や学校における防災教育の推進など、県民の防災意識の高揚を図るとともに、地域住民を対象としたワークショップの開催や、消防団員の確保対策など、自主防災組織の育成強化と消防団の充実強化を推進してまいります。
 また、県民の安全・安心な暮らしを確保するため、地域防犯活動を担う人材の育成など、地域における防犯力の強化を促進するほか、高齢者に重点を置いた交通事故防止対策の推進や、消費者行政活性化基金を活用した消費生活相談体制の整備に向けた支援、多重債務問題への対応強化など、関係機関と連携した取り組みを進めてまいります。
 さらに、食の安全・安心の確保に関する施策の実効性を高めるため、新たに条例を制定し、総合的な施策の展開を図るとともに、BSE全頭検査を継続して実施するなど、安全で安心な食肉の供給体制の確保を図ってまいります。
 地域コミュニティは、日常生活や災害時における相互扶助、地域文化の継承など、県民生活の基本となるものですが、人口減少、少子高齢化の進行などにより、その機能の低下が課題となっています。
 このため、市町村との適切な役割分担のもとで、企業、NPOなどと連携し、地域活動を牽引する人材の育成や広域的な視点での情報提供など、地域コミュニティ機能の維持、発展に向けた取り組みを強化してまいります。
 また、本県の認知度の向上と岩手ファンの拡大に向け、首都圏での総合イベントを開催するなど、他県と差別化した情報発信を行い定住交流を促進することにより、地域の活性化を図ってまいります。
 さらに、市民活動への一層の参加を促進するため、NPOの組織運営力向上への支援や、男女がともに仕事と家庭、地域生活を両立できる環境づくりを推進するとともに、いわて希望塾の開催や就労体験等を通じ、夢と希望を持った青少年の育成と社会参画を促進してまいります。
 政策の第5は、人材、文化芸術の宝庫いわての実現であります。
 岩手の未来を切り開く子供たちが、変容する社会を生き抜く力を身につける上で、教育の果たす役割は大きいものがあります。
 このため、いわて型コミュニティ・スクール構想と教育振興運動を連動させながら、家庭や地域との協働による目標達成型の学校経営を一層推進してまいります。
 こうした基盤の上に、学校教育では、知、徳、体を備え、調和のとれた人間形成を目的として、学校経営計画をもとに教育活動の充実に取り組むほか、地域や産業界と連携したキャリア教育などを進めてまいります。
 また、家庭や地域との協働によるボランティア活動や読書活動を進めるほか、学校不適応対策として、児童生徒への相談、支援体制を強化するとともに、障がいを持つ児童生徒が共に学び、共に育つ教育の実現に向けた特別支援教育の充実を図ってまいります。
 さらに、未来を担う子供たちが、家庭の状況にかかわらず安心して教育を受けられるよう、高校の実質無償化により、教育に係る経済的負担の軽減を図ってまいります。
 また、県内5大学の連携による岩手学講座などを通じた人材育成や地域文化の研究を支援するほか、地域に根差した特色ある教育研究や産業分野の担い手育成など、高等教育機関と連携した取り組みを推進してまいります。
 昨年、早池峰神楽がユネスコの無形文化遺産に登録されました。このことは、本県に伝わる伝統芸能の価値が世界的に認められたものであり、さまざまな分野への励みとなるものであります。
 これに加えて、平泉の文化遺産が、平成23年に確実に世界遺産に登録されるよう、今後とも、国や関係市町等と連携して全力を傾けるとともに、県内の機運醸成に向けた情報発信等を強化してまいります。
 平泉を初め、岩手の歴史、文化芸術、岩手のこころは、困難な社会経済情勢を乗り越えて、岩手らしいゆたかさを実現する大きな可能性と力を秘めています。
 このため、岩手県文化芸術振興指針が目指す、豊かさを感じ伝える國いわての実現に向け、文化振興基金の効果的な活用を図りながら、豊かな創造性の涵養や文化芸術活動、文化芸術を核としたまちづくりの支援などに取り組んでまいります。
 また、岩手ゆかりの漫画家の方々の協力もいただきながら、岩手の文化や暮らし、景観など、多様な本県の魅力を全国に発信してまいります。
 さらに、平成28年の国民体育大会の本県開催に向け、県民意識の高揚と中長期的な視点に立った指導者養成や選手強化を図ってまいります。
 政策の第6は、環境王国いわての実現であります。
 岩手に生きる私たちには、古くから受け継がれてきた自然との共生という価値観を大切にし、未来に向けて恵み豊かな環境と人間の営みが両立し、幸せを実感できる社会を築き、引き継いでいく使命があります。
 本年は、二酸化炭素排出量を1990年比で8%削減するという目標達成に向けて取り組む最終年でもあります。
 このため、温暖化防止いわて県民会議を中核とした、全県的な県民運動を一層推進し、あらゆる主体の行動を促すなど、目標達成に向けた取り組みを強化してまいります。
 また、いわて環境王国展の開催を通じた情報発信や、環境学習の支援など、県民総参加による環境行動を促進するほか、地球温暖化対策等推進基金を活用した、新エネルギー設備等の導入支援などを進めてまいります。
 さらに、循環型地域社会の形成に向けて、県民、NPO、事業者、市町村などの各主体と連携し、廃棄物の発生抑制を第一とした、リデュース、リユース、リサイクルのいわゆる3Rの取り組みを推進するほか、新たにコーディネーターを配置した支援体制を構築し、企業の自主的な取り組みや企業間、企業と地域の連携した取り組みを支援するなど、地域循環圏の構築による、ごみ減量化等を促進してまいります。
 また、野生生物との共生や希少野生動植物の保護対策、いわての水を守り育てる条例を踏まえた環境保全活動の促進、多様で豊かな森林の整備、さらには、自然公園を活用し、観光や地域振興につながるような新たな魅力づくりへ向けた取り組みなど、企業や地域との連携、協働による自然共生社会の形成に取り組んでまいります。
 政策の第7は、いわてを支える基盤の実現であります。
 これまで申し上げた六つの政策の展開を支える基盤として、社会資本の整備や維持管理などを、効果的かつ着実に進めていく必要があります。
 そのため、本県の産業を支える幹線道路ネットワークや、国内外との交流の拠点となる、いわて花巻空港の整備などを計画的に進めるとともに、宮城県沖地震等への備えとして、木造住宅や県立学校施設などの耐震化を進めるほか、津波対策施設の整備などに取り組んでまいります。
 また、洪水や土砂災害に備える防災施設の整備、地域医療を支える救急搬送ルートの道路改善など、県民の安全で安心な暮らしを支える社会資本整備を推進するとともに、社会資本の維持管理を事後保全型から予防保全型へ移行し、その長寿化に努めてまいります。
 さらに、美しく魅力ある県土を実現するため、新たに岩手県景観計画を策定し、良好な景観の保全と創造を推進するとともに、まちづくりと連動した道路整備など、魅力あるまち場の再生に取り組むほか、県産材を使用した岩手型住宅の建設支援など、快適な居住環境づくりを進めてまいります。
 また、岩手・宮城内陸地震により全面通行どめとなっている国道342号の須川竏註^湯間については、5月30日に開通させるとともに、落橋した祭畤大橋等の復旧工事についても、平成22年度中に完了させるよう進めてまいります。
 こうした、社会資本の整備に加え、広域的なバス路線や三陸鉄道、IGRいわて銀河鉄道など、公共交通の維持、確保と地域の実情に応じた市町村の公共交通体系の構築支援、さらには、情報通信基盤の整備と利活用促進など、市町村等と連携し、県民の生活を支える環境の整備に取り組んでまいります。
 以上、申し上げました岩手の未来をつくる七つの政策に加え、いわて県民計画では、希望郷いわての実現をより確かなものとしていくため、ゆたかさ、つながり、ひとの視点を踏まえた、分野横断的で、特に先駆性や独自性の高い戦略的な取り組みとして、岩手の未来を切り拓く六つの構想を掲げています。
 これらの構想については、今後、部局横断的な推進体制を整備するとともに、県民一人一人の総力を結集し、一緒に行動していくという計画推進の考え方に基づき、県民参加によるワークショップの開催など、幅広く意見や提言などを伺う機会を設定しながら、具体的な取り組みを検討し、順次、アクションプランに盛り込むなど、その着実な推進に努めてまいります。
 村上龍氏の小説、希望の国のエクソダスでは、「この国にはなんでもある。だが、希望だけがない。」と日本社会の閉塞状況が描き出されています。
 翻って、岩手に目を向けると、経済、雇用を初め、厳しい社会経済情勢の中にあって、昨年からことしにかけ、岩手の高校生がスポーツや文化芸術の各分野で全国や世界を舞台に大活躍するなど、未来を担う若い力が、岩手を大いに盛り上げ、将来への大きな希望を抱かせてくれました。
 中でも、花巻東高等学校硬式野球部の、野球のみならず、すべての取り組みにおいて岩手から日本一を目指すという姿勢や常に岩手への思い、感謝を忘れない姿に、岩手県人かくあるべしとの思いを抱きました。
 若い人たちの活躍は、県民に大きな感動と、前向きに行動する希望や勇気を与えてくれ、ふるさと岩手を思う一体感の醸成など、さまざまな相乗効果も生み出してくれました。この活躍のパワーの源こそ希望であり、私は、岩手にはこうした希望の芽がたくさんあると確信しています。
 釜石市をフィールドに、昨年その研究成果がまとめられた希望学で、東京大学の玄田有史教授は、「現実にため息をつくばかりではなく、希望のカケラを一つひとつ拾い集め、共有し続けること。そこから社会の希望は育まれる。」と締めくくっています。
 仕事や暮らし、学びのそれぞれの場で、さまざまな困難にも前向きに取り組んでいく先には必ず希望があり、また、この力強く行動する県民一人一人が、岩手の希望でもあります。
 私は、すべての岩手県民が、このように力を合わせて行動するならば、今ある課題を克服し、必ずや希望郷いわてを実現していくことができると確信しています。
 改めて、ふるさと岩手の豊かな自然や歴史、風土、その中で培われた伝統、文化、環境、食、そして実直な岩手のひとといった全国に誇れる岩手の価値を再認識し、この地に誇りと希望を持って暮らしながら、つながりをはぐくみ、さらにその価値を高め、岩手らしいゆたかさとして未来へ継承していこうではありませんか。
 本年が、希望維新、希望郷いわて元年として、希望郷いわての実現に向けた確かな一歩を踏み出す1年になるよう、ここにおられる議員の皆様並びに県民の皆様の深い御理解と、積極的な行動を心からお願い申し上げ、私の所信表明を終わります。
 ありがとうございました。(拍手)
   教育委員会委員長の演述
〇議長(佐々木一榮君) この際、教育委員会委員長から発言を求められておりますので、発言を許します。八重樫教育委員会委員長。
   〔教育委員会委員長八重樫勝君登壇〕

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