平成21年9月定例会 第13回岩手県議会定例会 会議録

前へ 次へ

〇5番(岩渕誠君) 民主党の岩渕誠です。
 議案第24号県立病院等事業の設置等に関する条例の一部を改正する条例について、会派を代表して賛成の立場から討論いたします。
 この条例の中身は、県立磐井病院附属花泉地域診療センターを廃止するというものであります。
 診療センターの廃止とはなっているものの、その先にあるものは民間移管による地域医療の確保という岩手県の医療の歴史において新しい第一歩を踏み出そうというものであります。
 昨年以来、県立地域診療センターの無床化問題をきっかけに、地域医療はどうあるべきかという議論が続けられてきました。その中で、一刻一刻と深刻化する県立病院に勤務する医師の過酷な勤務環境、そして、それに起因する勤務医の退職、崇高な使命感と高邁な理想を胸に地域医療の現場に飛び込んだ医師たちは、その場所で勤務し続けたくても、余りの心身の疲労に立ち去るよりすべのない状況に追い込まれているという現実が浮き彫りになりました。どんなに最先端の医療機器が整備されたとしても、どんなにきれいな病院であっても、どんなに優秀な医療スタッフがいても、医師がいなければ医療は成り立たない、そんな当たり前のことがほかでもないこの岩手の県立病院の至るところで起きているという、まさに医療崩壊が静かに進んでいたことに足がすくむ思いでありました。
 こうした現実を受けとめる中、何とか医療崩壊を食いとめ、二次医療圏内で良質な医療サービスを提供するためとして五つの地域診療センターの無床化が実施されたわけですが、それはだれしもにとって苦渋の選択、苦悩の中での判断であったということは言うまでもないことでした。
 そしてそれは、その判断をした瞬間から我々議会も県も新たに大きな宿題を背負っていたはずであります。これからの地域医療はだれがどんな形で担っていくのか、それに対して行政や住民はどうかかわっていくのかということです。それは、医師不足、医師の偏在という受け入れざるを得ない現実と高齢化社会の中で福祉と医療をどうつないでいくかという今日的課題、その二つに立ち向かう知恵が求められていると言いかえてもいいでしょう。全く新しい仕組みづくりを我々がつくり出さなければならないのです。
 先人たちが県立という経営形態で医療を守る方法を守り育ててきたことには敬意と感謝を表する一方で、我々は、その県立という経営形態だけでは地域医療を守れないという限界も悟り始めています。今こそ行政も住民も医師も医療スタッフも、すべての岩手の人々が当事者として力を合わせ、私たちの時代に合った私たちのやり方で地域医療を守らなければなりません。
 さて、そうした意味で、花泉地域診療センターの民間移管は、岩手の新しい地域医療を支えるモデルともなり得るものです。民間の力をかりながら行政がしっかりとサポートをする、そして同時に医療と福祉を一体化させていく、これは基幹病院を持たない周辺地域にとって、課題解決に一つのヒントを与えてくれる考え方ではないでしょうか。事実、花泉を含む両磐地域では今すぐ特養に入所が必要な待機患者が148人いるにもかかわらず、第4期の介護保険計画では県内で唯一増床なしという地域であります。言うまでもありませんが、この現実を前に福祉は要らないと言う人はいるはずもなく、むしろ福祉のためにも、それを支える医療と一体となった施設は地域住民にとって心より願うものなのです。
 ところで、この民間移管に当たって、その選考過程についてさまざまな指摘もあったことは御承知のとおりであります。県当局には、その指摘に対し真摯に対応すべきであることも、また、反省しなければならないこともあるとは思います。100%の対応だったかと言われれば、それは懸念もあることは事実であります。しかし、我々はそこでとどまってよいものでしょうか。地域には、入院ベッドがないこと、福祉施設が整備されていないことに苦しむ人がいるのです。家から一歩も出られないまま声も上げられず、じっと息を潜めて我々にまなざしを向ける多くの人たちがいるのです。その人たちの声なき声を救う方法を前向きに考えなければならない知恵と力を合わせるときが来たのです。
 今回、民間移管に名乗りを上げた医療法人は、勇気を持って地域医療に果敢に挑戦しようとしています。県立では果たせなかった有床化の維持と福祉の一体的経営によって地域の人たちの願いをかなえようと最大の努力をしていると承知しています。設立以来20年近くの運営の中で培ってきたノウハウと独自の医療ネットワークを地域のために生かしたいという思いを我々はどう受けとめるべきなのでしょうか。経営だけを考えると、今のままの体制で施設を運営すればリスクを負うこともないはずであります。それでもなお地域のために努力していることに、我々はどう向き合うべきなのでしょうか。しかし、これまで真剣に地域医療のために準備してきた医療法人も、果たしてこれ以上先延ばしになってまで対応することができるか、難しい判断、厳しい判断をせざるを得ない状況に追い込まれているように思えてなりません。
 ここで改めて申し上げますが、地域の声はベッドを復活してほしいということです。県立か民間かという経営形態にこだわらず、ベッドがある地域に戻ることを願い、そして同時に福祉も充実されることを願っています。多くの地域住民が今この時間も苦しんでいるのです。
 無床化された地域では、花泉以外でも、花巻市大迫や岩手町などで新しい地域医療を守る試みが始まっていると聞きます。民間移管を検討している地域もあるとのことです。花泉の民間移管の行く末がこうした地域の議論や地域の将来に影響を与えかねません。
 かつて県立病院の院長を歴任した樋口医師は、最近の新聞紙上のコラムで医療と政治を語る中、次のような言葉を残しています。手術について100%と言える医師はいない。だが、必要な手術はやるしかないのだ。まさに現在、我々の地域が置かれた現状に当てはめることができます。
 地域医療は現在ただいまこの時間にも、残念ながら音を潜めたままで崩壊が進んでいます。新しい道を探らなければなりません。かつて県立病院を立ち上げて地域の命を守った先人たちがいます。今度は現代の岩手に生きる私たちが今の時代、今のやり方で、できる限りの力と知恵を絞って命と健康を守る番です。
 疲弊し、崩壊寸前の岩手の医療を守り、未来を切り開こうとするすべての皆さん、どうか大局的見地からこの条例に御賛成いただきますよう、心から、心からお願い申し上げまして賛成討論といたします。(拍手)
〇議長(佐々木一榮君) 次に、斉藤信君。
   〔38番斉藤信君登壇〕

前へ 次へ