令和5年6月定例会 第26回岩手県議会定例会会議録

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〇6番(上原康樹君) 希望いわての上原康樹でございます。登壇の機会をいただいたことを大切に思い、全ての言葉に思いを込めて質問させていただきます。よろしくお願いいたします。
 初めに、人工知能の活用についてです。
 政治は選択の連続です。選択を導き出すものは、これまで、政治家の知識と経験、哲学、倫理観あるいは国や地域に対する思いなど、実に人間の存在に裏づけられた世界だったと思います。
 県政150年という節目のときを迎えようとしている今、政策の立案をめぐる環境は、その手法において大きく変化しようとしています。人工知能の導入です。
 人々の行動や思考をデータとして蓄積、分析し、人工知能が最善の対応を即座に導き出すという仕組みは、今、世界全体に拡大しようとしています。
 県の仕事は実にさまざまな分野に及び、膨大です。中でも自然災害など突発的な仕事は、スピードが勝負です。十分な数の担当者の確保は難しい状況の中で、合理的に、効率的に、迅速に問題の本質を突きとめ、どう対応し、解決するのか。人工知能の登場となるわけです。
 昨今、一口に人工知能と言っても、その活用の形もさまざまですが、チャットGPTと呼ばれる生成AIが脚光を浴びています。
   〔副議長退席、議長着席〕
 手軽に誰でも使えるからです。質問をすれば、理路整然と答えに導いてくれます。この新しい道具を県の仕事に利用できないものかと考えることは、至極自然な成り行きです。とりわけ、現状の認識や評価、課題解決の道筋などは、人工知能の得意分野です。
 そこで伺います。県の仕事において、現在、AIをどのように活用しているのか、今後活用が期待される分野は何か、また、課題は何か、県の認識をお聞かせください。
 人間の能力には限界があります。とりわけ、一度に膨大な問題を解決するのは至難のわざです。そのために、状況分析、対策、政策の立案には、過去の成功体験が無意識のうちにインプットされると言われます。
 そうした成功、失敗の体験から解放され、AI、人工知能が客観的な方向性を描き出し得るのであれば、我々の欠点を補ってもらえるという意味では、非常に可能性があると思います。
 一方で、民主的な政策形成を考えるとき、AIの限界や課題を指摘する声があります。人間のための政治、県政、私たちの未来を選択し創造するのは、私たち県民にほかなりません。民主主義の国ですから、県民が何を優先したいと願っているのか、しっかり見きわめること。そのための知識、経験、見識、決断力です。県政においては、そのプロセスをいかに早く正確に県民に伝え、実行に移すか、その力が試され、人々から評価を受ける。これが人間による政治の姿です。
 人工知能によって、民主主義のプロセスや政治の責任を軽くしたり、放棄したりすることがあってはなりません。あすの岩手県をどうすべきか、その判断を人工知能に頼り過ぎれば、岩手県特有の事情や県民の思いに寄り添い切れるのかという懸念が出てきます。人工知能がまだ全能であるとは言い切れない限り、その活用には究極の熟慮が求められ、重い責任が伴います。
 県政のかじを握るリーダーは、論理的、合理的であると同時に、皮膚感覚で岩手県を知り、愛情を持って岩手県を思い、夢や希望、正義や理想という体温のこもった決断を下す存在です。そこに県民の共感が生まれるはずです。
 例えば、岩手県の自然保護政策一つとっても、データに置きかえられる要素と県民が岩手県の自然に寄せる愛情とは、次元が異なるものかもしれません。人の心には、データとして処理できない世界もあるのです。
 昨今、こうした人間の心に深く根差した問題を、根拠の薄い情緒として退ける空気が漂い、問題解決の根拠、エビデンスにはならないという論調もあるようです。しかし、政治から人の思いを差し引いたらどうなるでしょうか。人工知能と人間、両者の本質を見きわめるときを迎えています。
 知事は、政策の立案において、AI、人工知能の活用はどのようにすべきとお考えでしょうか。
 以上、演壇での質問とさせていただき、以下は質問席から行わせていただきます。
   〔6番上原康樹君質問席に移動〕
   〔知事達増拓也君登壇〕
〇知事(達増拓也君) 上原康樹議員の質問にお答え申し上げます。
 AIの活用についてでありますが、近年、長野県や兵庫県において、AIを活用した政策シミュレーション研究が進められており、本県においても、岩手県立大学が、京都大学や株式会社日立製作所と共同で同様の研究を進めております。
 この共同研究メンバーとなっている京都大学広井教授の著書によれば、AIは、無数のあり得る未来を網羅的に列挙できる、現状や未来について人間の認知のゆがみを是正できる、多くの要因間の複雑な関係性や影響を分析できる、不確実性や曖昧さを組み入れた予測をなし得るなどの長所を持っているとされています。
 一方、AIは、シミュレーションの土台にある価値判断や意味の理解、感情といった機能を持ち合わせてはいません。結果を踏まえた意味の解釈や評価軸の選定、未来社会の構想等は、全て人間の力が必要であります。
 こうしたことから、現時点において、AIは政策立案における補助的なツールと考えており、今後の活用に向けては、これらAIの長所と課題を踏まえて検討してまいります。
 その他のお尋ねにつきましては、ふるさと振興部長から答弁させますので、御了承をお願いします。
   〔ふるさと振興部長熊谷泰樹君登壇〕
〇ふるさと振興部長(熊谷泰樹君) 県における人工知能の活用状況と期待及び課題についてでございますが、一般的に、人工知能とは人間の思考プロセスと同じような形で動作するプログラムとされており、手書き文字認識、音声アシスト、自動車の自動運転や検査機器といったさまざまな製品、サービスに組み込まれて活用されております。
 県におきましては、会議等の音声データを文字テキストに書き起こす会議録作成システム、職員の問い合わせに対して自動で回答するAIチャットボット、災害発生時のSNS投稿情報の分析、結婚支援や就職情報提供におけるマッチングの補助などで活用しております。
 最近では、チャットGPTのように、利用者側の質問に対して自然な文章を回答する生成AIも登場しており、県においても、令和5年6月1日から試行を開始したところです。
 なお、生成AIについては、回答内容の真偽が保証されていない等のデメリットが指摘されておりますことから、利用上のガイドラインを定める方向で検討を進めてまいります。
 人工知能は、業務効率化のほかにも、働き方改革、人材不足の解消などに資することから、メリット、デメリットを理解の上で、正しく利用するよう取り組んでまいります。
〇6番(上原康樹君) 政治とともに、教育もまた子供たちの心に向き合うという極めて人間的な分野ですが、学校教育でもこの人工知能の活用が検討されようとしています。既に新聞報道では、教育委員会の慎重な姿勢が伝えられています。改めて県教育委員会のお考えを伺います。
〇教育長(佐藤一男君) 学校での生成AIの対応についてでありますが、学校での生成AIの利用に関する文部科学省のガイドラインの原案が判明したとの報道は承知しておりますが、まだ文部科学省から具体の説明がありませんので、その詳細は承知しておりませんが、現時点で把握しているところで申しますと、学習指導要領では、学習の基盤となる資質、能力として情報活用能力を位置づけており、新たな技術である生成AIをどのように使いこなすのかという視点や、自分の考えを形成するのに生かすといった視点は、重要であると考えております。
 一方で、チャットGPTなど生成AIの学校での利用につきましては、児童生徒の批判的思考力や創造性への影響、個人情報や著作権保護などについて整理すべき課題があると承知しております。
 現在、文部科学省でこのガイドラインを夏前を目途に策定、公表する予定としておりまして、県教育委員会としましては、その内容を踏まえて適切に対応してまいりたいと考えております。
〇6番(上原康樹君) いずれにしても、人工知能の適切な利用、また、活用上のリスクについても十分に理解した上で、学校教育の現場での活用をお願いしたいと思います。
 この人工知能の話、やはりここまで来ますと、人工知能が導き出す希望や幸福って何だろうと考えてしまいます。知事に、最後に、伺いたいと思います。よろしくどうぞお願いいたします。
 次です。ブルーボンドについてです。
 岩手県は、川や海の保全に使い道を限定した債権ブルーボンドを含めた環境債を7月に発行します。全国の自治体では初めて。発行額は50億円。厳しい財政運営の中で、民間から資金を調達し、岩手県の環境対策に役立てるというものです。
 これまでグリーンボンドという環境債があり、森林の保全など、文字どおり緑を守る資金に充てられましたが、今回のフィールドは、海を中心に想定した取り組みです。
 岩手県は、太平洋に向き合い、その海岸線は見事な景観を誇ると同時に、古くから漁業で栄えてきた歴史がありますから、ブルーボンドの発行は、岩手県ならではの仕組みとして期待されるものです。
 全国に先んじて第一歩を踏み出すに至った知事の思いをお聞かせください。
〇知事(達増拓也君) 豊かな森林や河川、長い海岸線と世界有数の漁場である三陸の海などの自然の恵みを有し、また、東日本大震災津波という自然の脅威を経験している本県にとって、海と大地とともに生きるということは、重要なテーマであります。
 県では、持続的な発展が可能な社会を構築するため、県民やNPO、事業者、市町村など県内のあらゆる主体と協働し、私たちの暮らしや社会のあり方を、地球環境への負荷がより少なくなるよう変革するための施策を展開してまいりました。
 これまでの取り組みを一層拡充するため、いわて県民計画(2019〜2028)第2期アクションプランの重点事項として、GX―グリーントランスフォーメーションの推進を位置づけ、令和5年度は、前年度のおよそ2倍となる120億円の予算を計上しております。
 今般、気候変動の緩和、適応に資するグリーンプロジェクトに加えて、海洋資源、生態系の保全等に資するブループロジェクトも含めたグリーン/ブルーボンドを全国の地方公共団体で初めて発行し、県内外の多くの皆様から賛同を得て財源を確保することで、岩手県ならではの取り組みを力強く進めていこうとするものです。
〇6番(上原康樹君) ここからですが、集められた資金で何をするのか。具体的な事業は、ブルーボンドの一言ではくくり切れないほど多方面にわたります。高度衛生管理に対応した漁港の施設、防波堤や護岸の整備、海の生き物の餌場や産卵場所となる藻場の再生、はたまた水産高校の実習船の整備など、あれもこれもブルーボンドに夢を託すことになります。考えてみれば、こうした取り組みは、今まで県税収入や国からの補助で行われていたところでもあります。
 今回、ブルーボンドを標榜して広く民間からお金を借りて行う事業ですから、これまでの県や市町村の事業とは異なる画期的な付加価値が期待される事業であってしかるべきと思いますが、県の考えを伺います。
〇総務部長(千葉幸也君) 議員御指摘のとおり、藻場の再生、水産高校実習船の整備、防波堤や護岸の整備などを初め、東日本大震災津波で被災した三陸海岸における海洋と海岸の保全強化に資する事業等を推進することとしております。
 これらの事業は、従来の事業としての価値に加え、推定排出CO2削減量や海洋資源の持続的な保全の状況について明確なレポーティングを行うことを前提に、第三者機関からブルー適格プロジェクトとして最上位の評価を取得しております。
 2015年の国連サミットで採択された持続可能な開発目標SDGsにも貢献するといった付加価値も有していると考えております。
   
〇議長(五日市王君) 本日の会議時間は、議事の都合によりあらかじめ延長いたします。
   
〇6番(上原康樹君) 今回発行される債券の総額は50億円。借りる期間は5年。1口1、000万円ですから、そうたやすく出せる金額ではないと思います。5年間に貸し付けたお金がどのようなメリットをもたらすのか、その見きわめは難しいところです。
 伺います。ブルーボンドに対する民間や社会の評価を県はどう認識し、お金を貸す側、借りる側双方のメリットをどのように見通しているのでしょうか。県の所見をお尋ねします。
〇総務部長(千葉幸也君) 地球温暖化や持続可能な社会の実現といった世界的な課題への対応が急務となる中、金融市場におきましては、環境、社会、ガバナンスというESGの要素を投資方針上重視するESG投資が拡大しており、ESG債の一種であるグリーン/ブルーボンドへの投資ニーズも拡大していると認識しております。
 このような投資ニーズの拡大に加え、貸し手である投資家にとっては、投資表明を通じて本県の環境保全の取り組みに貢献していることをアピールできるなど、企業のCSR活動の一助となるといったメリットもあるものと考えております。
 一方、借り手である県といたしましては、グリーン/ブルーボンドを発行することにより、金融市場の先行きが不透明な中でも、海洋と沿岸の保全等に資する事業の資金を安定的に調達することに加え、資金調達コストの軽減が図られることなどを期待しております。
〇6番(上原康樹君) ともすると、こういうプロジェクトはイメージが先行して流れることもあります。できる限り具体的なイメージを確立して取り組んでいただきたいと思います。
 その環境債ブルーボンドの意義について、県は広く周知し、その価値を共有することが重要と考えています。そうした情報発信を重ね、同時に、投資家からの意見を聞き、意見を交わし、事業に反映させることができれば、環境債を発展させていくことになると考えます。
 さらに、その様子を克明に県民に知らせる、見える環境債にすることが大切で、新たな投資家につなげることにもなると思います。
 県は、ブルーボンドの情報の発信について、どのような有効策をお持ちでしょうか。
〇総務部長(千葉幸也君) 県では、グリーン/ブルーボンドの発行に向けて、岩手県グリーン/ブルーボンド・フレームワークをわかりやすく解説したPR用のリーフレットを作成し、ホームページやSNSで広く周知するとともに、県内市町村や県出資法人等を対象に、説明会を開催するなど、積極的な情報発信に努めております。
 また、投資家のさらなる獲得も見据え、グリーン/ブルーボンドを充当した事業については、その事業効果、環境改善効果等を広く公表することとしております。
〇6番(上原康樹君) この仕組み、取り組みは、県民から反対される要素は少ないと思うのですが、ただ、環境債が県財政に占める割合が拡大していく場合、それは、県民からすれば県の借金が膨らんでいくという印象になります。
 県の財政の中におけるブルーボンドなどの環境債の位置づけ、占める割合について、どのようなめど、基準を用意するおつもりか伺います。
〇総務部長(千葉幸也君) 世界に誇れる豊富な水資源を有する本県におきまして、これを将来世代に引き継ぐため、グリーン/ブルーボンドを活用しながら環境保全の取り組みを進めていくことは、重要と認識しております。
 一方で、グリーン/ブルーボンドも県債の一種であり、その発行は将来的な公債費の上昇を招くおそれもありますことから、財政規模に対する公債費の割合である実質公債費比率が全国平均に比して高い状況にあることも踏まえ、適切な発行額について検討していくことが必要と考えております。
 今後とも、地方財政法等の関係法令を遵守するとともに、実質公債費比率等に留意しながら、適切な発行規模を検討し、グリーン/ブルーボンドの適切な活用に努めてまいります。
〇6番(上原康樹君) 最後に、意見になりますけれども、本来、国の財政的な支援のもとに進められてもよいという取り組みだと思います。今では、企業など民間の資金に頼って、地方自治体のやりくりで賄う時代になっていると感じます。背に腹はかえられないという考えで環境債に頼るのではなく、この環境債の活用のプロセスにおいて、地方の整備、充実のために国の支援のあり方はどうあるべきかを再び明らかにするきっかけになることも願うものです。よろしくお願いいたします。
 質問の3番目、ALPS処理水の海洋放出と原発について。さらに、放射線物質と私たちの暮らしについて伺ってまいります。
 国の原発政策は転換点を迎えました。エネルギー関連の五つの法改正をまとめ、原発の60年を超えての運転を可能にする脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律、いわゆるGX―グリーントランスフォーメーション、脱炭素電源法(脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律)が、ことし5月の参議院本会議で可決、成立しました。この法律では、原発の活用による電力安定供給の確保や脱炭素社会の実現を国の責務とし、原発を推進していくという構えです。
 さて、国民の理解は十分でしょうか。東日本大震災津波は、津波ばかりか原発事故を招き、日本列島の広い範囲に放射性物質が拡散されました。今も基準値を超えた放射性物質が検出されるという理由で、一部の農産物は出荷が認められていません。また、野生生物も捕獲、食用とすることが危険とされています。3.11から12年が過ぎても、原発事故の後遺症は、現実の問題として消えることはありません。むしろ、蓄積された放射性物質が、自然環境や人間の体にどう影響を与え始めているのか不安が募ります。
 差し迫った当面の課題として、原発事故で発生した汚染水、ALPS処理水は、人の遺伝子に有害と言われるトリチウムを除去できないまま、タンクにたまり続け、完全に処理し切れないまま海へ放出されようとしています。
 私は、4年前の初めての一般質問において、この汚染水の海洋放出について県の対応を尋ねましたが、具体策を聞くには至りませんでした。
 とりわけ漁業者の不安ははかり知れませんが、国は、風評被害を警戒するとはしていても、安全性については大丈夫の一点張りです。
 ここで確認しておきたいことですが、風評被害という言葉です。何の問題もないのに根拠のない悪いうわさが流れ、不利益をこうむるのを風評被害と言います。わずかでも汚染水の海洋放出によって実害が発生するとすれば、それは風評とは言えなくなります。事は自然環境や人間の命を破壊するおそれのあるものです。政府の説明に従い心配無用と同調するとしたら、県民の安心・安全を引き受ける岩手県の姿勢としたらどうなのでしょうか。
 岩手県は、県民の安全・安心の確保のため、予定されている汚染水、ALPS処理水の海洋放出にこれまでどのような態度で臨んできたのか、また、これからどう臨んでいくのか、知事に伺います。
〇知事(達増拓也君) ALPS処理水の処分は、東日本大震災津波からの復興の取り組み、本県の自然環境や漁業を初めとする産業に影響を及ぼすものであってはならないというのが、一貫した県の基本的な考え方であります。
 こうした基本的な考え方や安全性への不安、新たな風評が生じることを懸念する声も踏まえ、これまで、さまざまな機会を捉えて国に対し要望を行ってまいりました。
 今年度は、5月に、県、沿岸13市町村で構成する岩手三陸連携会議及び県漁業協同組合連合会の3者で、国に対し、科学的根拠に基づく情報発信と関係者等への丁寧な説明、処理技術の研究開発の推進、徹底した安全対策と万全な風評対策の実施、風評に負けない強い水産業の実現に向けた取り組みへの支援について要望しましたほか、今月実施した政府予算要望においても、繰り返し同様の要望を行ったところであります。
 県としては、今後においても、国が責任を持って、科学的根拠に基づく丁寧かつ十分な説明を行い、真摯に関係者等の声を聞き、理解を得る取り組みを継続するとともに、安全に関する客観的で信頼性の高い情報の発信や、安全性をさらに高める処理技術の研究開発の継続、万全な風評対策など、国内外の理解と安心が得られる取り組みを確実に実施するよう国に求めてまいります。
〇6番(上原康樹君) 原発の安全性の問題は汚染水に限りません。古くなった原発の稼働をさらに延長する問題です。原発が60年を超えて稼働することに不安を禁じ得ません。
 岩手県に原発は存在しません。しかし、安心はできないのです。ごく近い、青森県、宮城県にも原発があります。今は稼働していなくても、再稼働し、ひとたび事が起きれば、県境を越えて影響をこうむることになります。
 こうしたケースを想定し、岩手県はどう対応するのかお尋ねします。3.11の原発事故の教訓をもとに、人の健康や命をいかに守るのか、あらゆるケースを想定し、原発の非常事態に備えておく必要があると思います。県は、具体的にどう取り組むおつもりか伺います。
〇復興防災部長(佐藤隆浩君) 原発事故に備えた県の取り組みについてでありますが、平成23年3月に発生した原子力発電所事故は、原発立地県のみならず、本県を含めた近隣の地方公共団体に対しても、長期かつ広範囲にわたり、あらゆる分野に大きな影響をもたらし、原子力発電所事故が及ぼす影響の甚大性が広く認識されました。
 このことを踏まえ、県では、平成25年3月に、岩手県地域防災計画原子力災害対策編を新たに策定したところであり、具体的には、原子力事業者との通報連絡体制の整備などを定めた災害予防計画、避難に関する内閣総理大臣指示の住民への伝達及び避難誘導、放射線量等の緊急時モニタリングの実施などを定めた災害応急対策計画、健康確保や風評被害防止などを定めた災害復旧計画を定めています。
 また、この計画の実効性を高めるため、原子力事業者と協定等を締結し早期の情報連絡体制を構築しているほか、市町村や都道府県の区域を越える避難の手順等を定めた広域一時滞在マニュアルや、他自治体との受援、応援を円滑に進めるための災害時受援応援計画を策定するなど、原子力災害を含む大規模災害に備え、広域的な連携体制の整備に取り組んできたところです。
 今後も、原子力事業者や市町村、防災関係機関と連携して、県民の安全・安心の確保に努めてまいります。
〇6番(上原康樹君) 備えておくということの中に、ルールを決めておく、一定の計画を立てておくだけではなくて、地域の実情として、どういう地形になっていて、どういう人々がどういうふうに暮らしているのか、そういうことを絶えず身をもって体験しておくことが、実際的な対応につながると思いますので、よろしくお願いいたします。
 原発に関する質問を続けます。
 原発事故によって、人々の放射性物質への意識は高まったと思います。しかし、余りに専門的なことであり、全てを正確に理解、判断することは難しい状況です。
 中でも、暮らしの基本となる食。米と放射性物質の関係について新たな議論が生まれています。米の品種改良において、放射線を使用する放射線育種という手法がございます。この技術の目的は、水田の土に含まれる人の体には有害な鉱物カドミウムをできる限り減らして、心配のない米をつくるためだとされています。
 カドミウムといえば、イタイイタイ病という公害を引き起こした鉱物です。このカドミウムを減らして、より安全な米を生産しようということで放射線の登場となったわけです。放射線で稲の遺伝子を破壊することにより、カドミウムを吸収しにくくなることがわかり、米の品種改良の手法として用いられています。
 秋田県は、ことし2月の県議会で、この放射線育種により改良されたあきたこまちRが奨励品種に採用されたことを報告しました。しかし、放射線を使った品種改良、私たちの健康に影響はないのでしょうか。放射性という言葉に敏感に反応する消費者もいるようです。
 そこで伺います。県では、放射線育種の安全性をどのように認識しているでしょうか。また、現在、岩手県の米の主力品種で放射線育種により開発された品種はあるのでしょうか。
〇農林水産部長(藤代克彦君) 放射線を使った米の品種改良についてでございますが、放射線を使用して品種改良をする放射線育種は、自然環境のもとでも発生する植物等の突然変異を、人為的に放射線を照射することにより効率的に突然変異を発生させる品種改良の手法の一つで、品種改良に当たっては、突然変異を発生させた植物等を親の世代として、収量や病気への抵抗力など、目的とする品種改良の方向に合わせて世代を重ねながら選抜していくもので、さまざまな農産物の品種改良に活用されている技術と承知しております。
 本県の米の主力品種である金色の風や銀河のしずく、ひとめぼれなどは、食味や収量等にすぐれた品種を交配、選抜して品種改良したものであり、県としては、引き続き、収益性が高く、安全・安心でおいしい農産物の品種改良を進めていくこととしております。
〇6番(上原康樹君) 冷静な御説明ありがとうございました。ただ、一般の消費者にとって、米の生産現場のこと、専門知識のことはよく見えないことです。原発や放射性物質をめぐる問題は、この目に見えないものというところが問題になります。そこに人々の不安は生じるわけです。その不安、疑問が、社会をより正しい方向へ進める原動力になることもあります。そのときに県がどう寄り添うのか、説明するのか、非常に重要なことだと思います。
 放射性物質との関係という観点から、米の生産現場のみならず、広く県民にも県産米の安全性について積極的に情報を発信すべきと考えますが、県の御所見を伺います。
〇農林水産部長(藤代克彦君) 本県では、原発事故による放射性物質の影響により、現時点でなお、国から山菜類やキノコ等が出荷制限を指示されており、風評被害の防止に向け、県産米を初めとした県産農林水産物の安全性を確認していくことが重要と考えております。
 このため県では、県産農林水産物の放射性物質濃度の検査計画を策定し、この計画に基づき、県産米については、平成23年度から毎年度、検査を実施しております。
 これまで、国の基準値を超える放射性物質は確認されておらず、こうした検査結果を県のホームページ等から広く情報提供しており、今後とも、県産米の安全・安心と品質の高さ、おいしさを積極的に発信するなど、県産米の評価がさらに高まっていくよう取り組んでまいります。
〇6番(上原康樹君) そのカドミウムの問題について少し話を引き戻しますけれども、カドミウムを減らすために放射線を使うというやり方もあるでしょう。しかし、一方で、民間では、トウモロコシの活性炭を使って、カドミウムを吸着させて米のカドミウムの成分を減らそうという努力、工夫も行われていることも確かです。
 これを県はどう認識されて、それをどう評価されているでしょうか。
〇農林水産部長(藤代克彦君) 活性炭につきましては、カドミウムや亜鉛等の重金属を吸着することが知られております。
 米の栽培におきまして、トウモロコシの活性炭について、試験研究機関などで研究結果がないことから、効果等について御答弁させていただくのは難しいところでございます。
 なお、国では、水稲栽培におけるカドミウムの低減対策として、カドミウムの吸収性の低い稲の利用ですとか、田植えから稲刈りの間まで水田に常に水を張った状態にするというようなこと、カドミウムを含まない土で水田を盛り土するといった技術を紹介しているところでございます。
〇6番(上原康樹君) 放射性物質に対して、あらゆる可能性を試して、そして、できる限り人々の安心につながる対策をとっていただきたいと思います。お願いします。
 次です。学校の文化芸術の育成についてです。
 スポーツの話から始めますけれども、大谷翔平選手、29号ホームランですか、すごいですね。驚くべきパワー、才能です。世界が称賛しています。大谷翔平選手に限らず、スキーやスノーボードなど、続々世界の大舞台で岩手県の若者が才能を発揮している最中です。
 岩手県には、スポーツの分野では、子供の基本的な身体能力を見きわめ、将来伸びるであろう逸材を選抜するスーパーキッズという仕組みがあり、着々と成果を上げています。一人一人の子供の才能、潜在能力をいち早く適切に把握し、その力を伸ばしてあげることは、教育の大きな使命です。
 スポーツのみならず、文化芸術の面でも、岩手県にはすばらしい原石がひしめいていると思います。文芸、それから合唱。県立盛岡第三高校の文芸部や県立不来方高校の音楽部の活躍は、広く知られているところです。
 さらに歴史をたどれば、岩手県は、石川啄木や宮澤賢治を生み出した文学の国でもあります。岩手県の気候風土とその中で生まれた独特の感性は、注目に値するものです。そうした岩手県の多くの才能は、自由に花開き、独自の道を切り開いてほしいと願うものです。
 さて、スポーツ選手はよくわかった、本当にすばらしい選手がどんどん出てくる。そして、指導者たちも適切に伸ばしてあげている。けれども、子供たちの文化芸術的な才能との出会いはどうなっているのでしょうか。とりわけ学校においてどうでしょうか。
 教室においては、そうした才能は見出されにくいものです。よほどの知識や経験がある教師にめぐり会わないと、飛躍のきっかけは望めないかもしれません。生徒の表現への潜在能力を見きわめ、それに応じた発表の場への導き、進路選択のサポート、保護者との連携。難しくとも、これは胸ときめく教育の華とも言える場面だと思います。
 学校において、子供たちの文化芸術の才能をどのように伸ばしていくか、現状と課題も含めて県の所見を伺います。
〇教育長(佐藤一男君) 本県では、いわて県民計画(2019〜2028)第2期アクションプランにおきまして、児童生徒一人一人が、生涯にわたり心豊かに生活する基盤をつくるため、文化芸術活動等の鑑賞、体験の機会の充実や文化部活動の活性化により、学校における文化芸術教育を推進することとしております。
 小中学校におきましては、音楽や演劇のすばらしさや楽しさを味わう芸術鑑賞教室等の実施や、地域の伝統芸能を継承する取り組み等を通じて文化芸術への理会を深めております。
 高等学校においては、興味、関心に応じた芸術科目の履修や文化芸術に関するさまざまな部活動が展開されており、生徒が、多様な文化芸術に触れる貴重な機会となっております。
 また、岩手県中学校文化連盟や岩手県高等学校文化連盟が主催する総合文化祭が毎年開催されており、生徒が文化芸術活動に取り組んできた成果を幅広く発表する機会が確保されているほか、その活動レベルは総じて高く、全国で活躍する生徒も多数見られる状況にあり、県教育委員会としても、こういう活動を支援しております。
 さらに、高等学校において専門的に芸術科目が学べるよう、県立不来方高校に芸術学系を設置し、特色ある教育活動を通じて専門性を高め、芸術系の大学へ進学する生徒も多数見られます。
 一方、ここ数年、新型コロナウイルス感染症の影響により、文化芸術活動も大幅に制限されましたことから、今後は、学校、家庭、地域等が連携、協働しながら、学校における文化芸術教育を推進し、児童生徒一人一人が、情操や感性といった豊かな心を育めるよう支援してまいりたいと考えております。
〇6番(上原康樹君) 教育長には、あの町にすごい絵の天才がいる、あの村にすごい小説の才能を持った子供がいる、こういう情報というのは届いていますか。
〇教育長(佐藤一男君) 個別具体的に個人の情報といいますか、学校としての取り組みという情報は承知しておりますし、そういった中に優秀な生徒がいるという情報もいただくことはございます。
〇6番(上原康樹君) いきなりで失礼しましたが、ちょっと熱が足りないような気がいたしました。もっと注目していただきたいと思うのですね。いわゆるアンテナといいましょうか、そういう才能に対するセンサーが大切だと思うのです。
 岩手県全体では、各地域に文化芸術に関するすばらしい才能の先輩たちがいっぱいいらっしゃいます。そういう人たちが子供たちの才能に向き合う場や、そういう機会を設けて差し上げたほうがよろしいかと思います。そういう中で、正確に、この子はやはり力を持っている、伸ばしてあげたい、世界的なレベルに行くかもしれない、そういう評価を聞きながら、参考にしながら、学校教育、そして地域との連携で子供たちを盛り上げてあげたいと思います。ぜひこういう取り組みも取り入れていただきたいと思います。よろしくお願いします。
 次は、県営住宅についてです。
 暮らしの基本は衣食住ですが、住む場所の確保はとりわけ大切です。かつて、日本が高度経済成長の時代を迎え、人口はふえ、家の確保は大変でした。そうした中で、地方自治体が、住民の暮らしを支えるために、岩手県も県営住宅の建設を進めました。当時としてはモダンで機能的なアパートは、人々のあこがれとなり、入居の競争率は大変な高さとなりました。
 しかし、時は移ろい令和の時代、社会も変化しました。人口減少、伸びない所得。大規模な団地暮らしを敬遠する空気すら漂います。それでも、比較的手の届く家賃や便利な立地条件など、県営住宅を求める県民は存在します。長年県営住宅に暮らしてきた高齢者にとっても、人生そのものと言えるついの住みかです。
 しかし、県営住宅もその将来を見通せば、老朽化に伴う補修、改修工事、維持管理や入居率の低下など、将来展望は決して平たんなものではありません。戸数や家賃など、県営住宅の現状はどうなっているでしょうか。また、県営住宅の存続に向けた課題は何でしょうか。
〇県土整備部長(加藤智博君) 県営住宅の現状と課題についてですが、公営住宅制度は、住宅に困窮する低額所得者に対して低廉な家賃で住宅を提供することを目的としたものであり、県では、昭和28年度以降、順次整備を進めてきたところであります。
 県営住宅についてですが、令和4年度末現在で80団地、6、860戸を管理しており、その家賃につきましては、県営住宅の立地場所や住戸の面積、経過年数、入居者の収入等によって異なりますが、平均で月額約2万2、000円でございます。
 現在、県営住宅の6割以上が建設から30年以上を経過し、国が定める耐用年数を経過している住宅もある一方で、災害公営住宅の整備により、管理戸数は震災前の約1.3倍に増加していることから、こうした状況や人口減少、高齢化等の社会的課題を踏まえながら、入居者が安全で安心して生活できるよう、維持管理を適切に行っていくことが課題と考えております。
〇6番(上原康樹君) 県営住宅は、住む人以外にも、県でここまでやってくれるのだ、ここまで県民を支えてくれているのだという形になっているもの、それを広く知らしめるモデルケースだと思うのです。ですから、この取り組みを大切に続けていただきたいと思います。しかも持続的に、発展的にやってください。ぜひお願いいたします。
 ところで、県営住宅について、気になる動きが宮城県から聞こえてきました。宮城県は、老朽化した県営住宅を順次廃止することを決めました。
 岩手県では、東日本大震災津波からの住民の暮らしの復興を目的とした災害公営住宅の整備にも取り組んできました。弱者の立場に立った暮らしの場の提供は、県営住宅に込められるべき精神だと考えています。
 県は、現在1、760戸の災害公営住宅を管理していると聞いています。この災害公営住宅は、東日本大震災津波の被災者のために整備されましたが、現在は被災者以外の入居も認められており、入居者資格など一部の違いはあるものの、おおむね県営住宅とその取り扱いは同じと認識しています。
 災害公営住宅が県営住宅のかわりを果たすことになれば、県営住宅の維持、管理に影響を与えるのではないでしょうか。県は、県営住宅の存続、さらには新たな建設、整備など、将来に向けてどのような方針を立てておられるのか、その中で、既に整備した災害公営住宅をどのように考慮しているのか伺います。
 また、県民の暮らしを支える住宅の確保という課題において、民間のアパートの活用など視野に入れておりますでしょうか。具体例、具体策があればお聞かせください。
〇県土整備部長(加藤智博君) まず、県営住宅の将来の方針についてですが、県では、令和4年3月に、県営住宅の長寿命化に関する基本方針や事業手法等を定めた、岩手県公営住宅等長寿命化計画を改訂しております。
 この計画において、災害公営住宅を含めた全ての県営住宅について、長寿命化やバリアフリー化等に資する改善工事、予防保全的修繕及び用途廃止の事業手法を定めております。
 今後、これに基づき計画的に改善工事等を進めていくとともに、集約、再編にも取り組みながら、適切な維持管理を行っていくこととしております。
 なお、用途廃止に向けては、入居者の意向確認などを踏まえ、ほかの県営住宅への移転などにより、居住の安定が確保できるよう丁寧に対応してまいります。
 次に、民間アパートの活用についてですが、県では、平成30年度に、住宅セーフティネット法に基づき、岩手県住宅確保要配慮者賃貸住宅供給促進計画を策定しまして、高齢者、子育て世帯、低所得者、障がい者等の住宅確保要配慮者に対し、民間賃貸住宅の供給を促進する取り組みを行っているところでございます。
 具体的には、住宅確保要配慮者に対し、入居を拒まない民間賃貸住宅の登録促進のための取り組みを進めるとともに、行政、不動産関係団体、居住支援団体等で構成する岩手県居住支援協議会を設立し、セーフティネット住宅制度の普及等を進めております。
 引き続き、これらの取り組みを進めてまいります。
〇6番(上原康樹君) 力強い御答弁ありがとうございます。
 最後に、人の心の問題ですけれども、みんなが集まって暮らしている、それは事実です。けれども、そういう集合住宅の中で、孤独に陥る人々がいることもまた事実です。
 そういう人々に寄り添うといいましょうか、手と手をつなぐ場、コミュニティーの形成です。こういうことも備わって初めて、住宅の提供ということが完成するのだと思います。それは意識の中にどのように入っていらっしゃるでしょうか、お聞かせください。
〇県土整備部長(加藤智博君) 今御指摘いただきました集合住宅におきまして、やはりそういったコミュニティーの形成はとても大切なことだと思っております。これまでもさまざまな方々から御意見を伺っております。しっかりそういった御意見に耳を傾けながら、政策を進めてまいりたいと思います。
〇6番(上原康樹君) どのような人たちが、どのように暮らしているのか、それを間近に見て、そして、どのように対応するのか、心の中に決めていただきたいと思います。よろしくお願いいたします。
 私の質問は最後の項目に入ります。希望のあるまちづくりについてです。
 ニューヨークタイムズ紙に盛岡市のまちが紹介されてから、観光客のみならず、地域に暮らす人々も、改めて盛岡市のまちを見つめ直しているように思えます。私も肌で感じています。
 四半世紀ほど、大好きな岩手県や盛岡市のまちの写真を撮り続けてきました。ほぼ毎日のように撮り続けています。その中で、肌で感じるまちの空気が変わったと思うことがあります。今までは、まちの何気ない、1人の人間にとっては大切かもしれないけれども、ほかの人たちから見れば、いつものバスセンターだろう、いつものデパートだろう、こういう感じで、何を撮っているのだ、今さら何をこんなものを撮っているのだという不審の目を向けられました。
 ところが、あのニューヨークタイムズ紙の1件で多くの観光客が訪れるようになってから、私が写真を撮っている風景に不審な目を向ける人が誰もいなくなりました。そうだよな、盛岡市は注目されているな、岩手県はやはりすごいな、写真を撮るのは当然だな、こういう空気が醸成されているのです。明らかに盛岡市は変わりました。岩手県もこの空気が広がっていると思います。
 そこで、まちと人とのかかわり、それから、縁やきずなというものは、実にさまざまだと思います。いつものまちの風景に人生を重ね合わせる人、希望を託す人、愛してやまない街角をきょうもたどる人。それぞれの思いを受けとめて、まちはあり続けます。
 地域、まちに求められるものはさまざまです。働きやすさ、暮らしやすさ、子育てのしやすさ、教育環境、医療環境、自然環境、交通環境、防災対応、情報環境、地域の活力など、それらが高い次元でバランスがとれたとき、ここにずっと住みたいという人々の気持ちは生まれます。そうしたまちのあり方、発展の方向性を決め、演出していくのは、県の大きな仕事でもあります。
 近年、日本の地方都市はインバウンドの誘致に力を入れてきました。もちろん国内の観光客も大幅にふえましたが、その結果、外国からの観光客が大幅にふえ、地元の住民が地域を離れる傾向があるとも聞きます。
 代表的な例で言えば、あの日本の歴史の表舞台であり続けた世界的にもよく知られる関西の観光都市で、そうした動きが報告されています。インバウンドの客がふえる一方で、地域に暮らす子育て世代や若者世代を意識した地域づくりが十分でないと、いかに豊かな歴史を持つまちでも、人は離れていくことが証明されたわけです。
 私は、決してインバウンドに反対しているのではありません。世界の観光客に岩手県の魅力に触れてもらうことはとても大切です。そのために地域やまちの魅力を磨くことは必要です。けれども、それ以上に、岩手県で生きる県民の一日一日を大切にして寄り添うことこそが、求められているのだと思います。
 ですから、地域づくり、まちづくりは、行政と民間の共同作業だと思います。今までにはない発想でまちを見直し、歴史の息吹をしっかり酌み取り、自然のありさまを見きわめ、その地域ならではの特徴を反映したまちづくりは、住むほどに心満たされ、誇らしく、希望の見えるところになるのです。
 まちは、地図の上でここからここまでという範囲で示されるものではありません。人は、それぞれの地図を心に持っていると思います。ある人にとっては、その中心は北上川であったり、また、岩手山であったり、そして三陸の海であったり、広大な岩手県の可能性はそこにあると思います。
 盛岡市のまちは、川に寄り添い、森につながり、山を間近に仰ぎ、雲を追ううちに海に至るというぐあいに、無限の広がりを持っていると感じています。そうした大きなスケールの中で、人間一人一人の幸せ、希望とは何かを形にしようというプロジェクトがあるべきだと感じています。
 考えてみれば、これは胸ときめく話です。まちと生きる歳月がとてもはっきりと見えてきます。ですから、まちづくりというのは、まちの形のみならず、まちの生命力はどんなものであるべきか議論を重ねることが必要であり、そのプロセスを絶えず人々に発信し、人々の声に耳を傾け、進められるものであってほしいと願います。
 地域が、まちが、どのように成長しようとしているのか、そのために変化すべきことは何か、乗り越えるべきことは何か、絶えず、間断なく人々に伝えることで、人々とつながり、人々とまちは未来へ向かって歩んでいけると信じています。
 知事に伺います。知事は、いわて県民計画(2019〜2028)の策定などの過程において、これまでどのように県民の声に耳を傾けてきたのか、その中で、希望あるまちづくりの実現に向け、どのような思いを抱いてきたのかお聞かせください。
〇知事(達増拓也君) 上原康樹議員がおっしゃった写真に撮るというのは、一つ大事なことかと、今、伺っていて思いました。まず、まちを見るということ、そして、どうなっているのかということを見るところから始まって、そして、このまちのどこがいいのか、また、どうすればもっとよくなるのか、見るの次には考えるという段階に必然的に進むのだと思います。
 そして、考えた後、話し合うという、ほかの人と意見を交換し合い、そして、その話し合った結果をもとにしながら、それぞれが自分の範囲内で、自分の責任のもとで事業化したり、あるいは共同で事業化したり、自分で建てられる家を建てたり、お店を開いたり、あるいは、公共のものに関しては、これは公共の手続を踏んで事業化していく。そのように人とまちが一体となって、いわば自己省察、このサイクルを繰り返していくことが、希望あるまちづくり、地域づくりにつながるのかと思います。
 岩手県といたしましては、これまでも県政懇談会や各種業界との意見交換会、現地調査など、さまざまな機会を通じ県民の声に耳を傾けてきており、昨年度のいわて県民計画(2019〜2028)第2期アクションプランの策定においても、県民を対象とした地域説明会のほか、市町村長との意見交換や団体、審議会等からの意見聴取、県外在住者との意見交換など、各界各層の方々の意見を聴取する機会を設けてきました。
 第2期アクションプランの策定過程では、人口減少対策が喫緊の課題であるとの多くの声をいただいており、この背景にある結婚、妊娠、出産、子育てのしにくさや、希望する職業への就職のしにくさなどといった、生きにくさを生きやすさに変えていくという思いを改めて強くし、こうした思いを第2期アクションプランに反映したところであります。
 また、ニューヨークタイムズ紙の2023年に行くべき52カ所に盛岡市が2番目に掲げられたことや、大谷翔平選手や、あるいは岩手県初のプロ棋士となった小山怜央さんの活躍など、岩手県の若者の目覚ましい活躍に県民が力を与えられたことなども踏まえて、岩手県の魅力を最大限に生かし、可能性を広げていくことが重要と考えております。
 このような考えのもと、県民、団体、市町村など地域社会を構成する多様な主体が連携して、誰もが、岩手県をベースにして、さまざまな活動を通じて幸福を追求することができる、希望ある地域づくりを進めていきたいと思います。
〇6番(上原康樹君) 今、知事の言葉に希望というものが出てきました。先ほど私は申し上げましたが、人工知能が導き出す希望や幸福とは何でしょう、そして、人間が抱く希望や幸福とは何でしょうか、お尋ねします。
〇知事(達増拓也君) 人工知能の機能は、やはり基本的にデータ処理であって、わかりやすく言えば計算機、データに関する計算を行うということだと思います。
 経済が発展して、社会も複雑になり、人間の活動もさまざま広がっていくに当たって、多くのデータを処理する必要性が出てきたり、また、たくさんのデータを的確に処理することでさまざまな問題を解決することができる、そういうところに人工知能は役に立つのだと思います。
 県でも、岩手県沿岸地域を訪れる観光客が、どこから来ているのかをビッグデータ的に調べ、そのデータをコンピューターで処理して分析した結果、意外に県内からの人が多いとか、隣県からの人が多いとか、さらに、そういう人たちがどこに行くのかとか、そういう知見も得られるのです。それをもとにしながら、では、そういう人たちに喜んでもらえるような商品やサービスを岩手県沿岸地域で提供して、もっとどんどん来てもらおうとか、そういったことに生かすことができたときに、そこに幸福が高まり、また希望が生まれるのだと思います。
 やはり希望や幸福は、生身の人間がかかわらないと、人工知能限りでは出てこないところだと思います。特に、生成AIで言葉を処理し、人工知能が人間が語るような言葉をぺらぺら書き出したり、しゃべらせようと思えばしゃべったりするようになっているわけであります。
 議員が質問の中でも何度もおっしゃっているように、言葉というのは、心がこもっていなければ、文字どおり意味がない。人間と人間との間に言葉というのはあって、そして、人間と人間の関係の中で意味が決まってくるわけであります。
 生成AIがつくり出した言葉の中に、意味を読み取る力も人間にはありますので、何か人工知能が意味あることを言っているようにも受けとめることはできるのですけれども、ただ、それはそう見えているにすぎなくて、本当に言葉を使う、真の意味で言葉を使うことができるのは、命ある人間だけと言っていいのだと思います。
 したがって、そういう言葉を通じて得られる幸福や希望もまた人間、しかも複数の人間が、自分と自分以外の誰かという複数の人間がなければ、希望も幸福もそこにはないわけであります。ただ、それを助ける役割としては、人工知能に大きな期待を持つことができるのだと思います。
〇6番(上原康樹君) 一生懸命御答弁いただきまして大変恐縮しております。ありがとうございます。
 人工知能の得意分野というのでしょうか、一つの結論に向かうときに、その判断基準が、どうも経済を最優先して考えているのではないか、最近そう感じることが多いのです。利益優先で物事を判断していくと、切り捨てられるものがいっぱいあると思います。もちろん、その中に人の心もあるわけです。
 抽象論というのは大変難しい、目に見えない心の問題というのは大変深い。だから、簡単に答えは出ない。心を持った人間が行う政治活動や芸術活動というのは、なかなか答えは出ない。だから、何世紀たっても大きなテーマとなり得る、そういう分野なのです。それを、一日二日で答えが欲しいからといって、経済的な側面から全て輪切りにしていく、こういうことをしていますと、せっかくのまちづくりも国づくりも、国民、それから市民とのすれ違いを起こすのだと思います。
 ですから、非常に危険性をはらんだ、しかし大きな可能性も抱えたこれからの人工知能とのつき合い、導入というのは、非常に注視していかなければいけないものだと思います。ぜひ、このあたりを意識して県政に取り組んでいっていただきたいと思います。
 私は最後に、どうしても言いたかったことがあるのです。蛇足かもしれませんけれども、言っておきたかった。
 私は長い間、達増知事をずっと見てきました。それは、放送の現場でニュースを伝えるという過程で、この知事はどういう語りをするのか、どうやって人に思いを伝えようとしているのか、そういう目で見ていました。大変不遜な態度だったかもしれません。お許しください。
 それで、初めのころは、もう少しすらすらと語ってもらえたらいいなと思いました。少し間が多いかなと思いました。けれども、私は4年間、議員になって、間近で知事の人としての呼吸を凝視してまいりました。わかりました。
 知事は、猛烈に考えて、考えて、考え抜いて、その瞬間ベストの正確な答弁をしようと努力している。努力すれば、当然すんなりとはいかない。しかし、そのすんなりといかないことを達増知事はおそれていない。間はできてもできる限り正確な答弁に近づこうと懸命になっている、それはわかりました。
 県政という重大な仕事に取り組まれる知事として、これは最も大切なことだと思います。今後もその姿勢を持ち続けていただきたいと切に願うものでございます。
 きょうは、執行部の皆さん、ありがとうございました。思いのたけを伺うことができました。本当にありがとうございました。終わります。(拍手)
   
   日程第2 議案第20号人事委員会の委員の選任に関し同意を求めることについて及び日程第3 議案第21号公安委員会の委員の任命に関し同意を求めることについて
〇議長(五日市王君) 次に、日程第2、議案第20号及び日程第3、議案第21号を一括議題といたします。
 提出者の説明を求めます。菊池副知事。
   〔副知事菊池哲君登壇〕
〇副知事(菊池哲君) ただいま議題とされました人事案件について御説明申し上げます。
 議案第20号は、人事委員会の委員であります田中忍氏の任期が7月2日で満了となりますので、早川智子氏を新たに選任するため、議会の御同意を求めようとするものであります。
 人事委員会の委員は、地方公務員法第9条の2第2項の規定により、人格が高潔で、地方自治の本旨及び民主的で能率的な事務の処理に理解があり、かつ、人事行政に関し識見を有する者のうちから選任することとされておりまして、早川智子氏は、金融機関の支店長を長く務められるなど、人事、労務に関する経験を有しているほか、所属する金融機関における女性活躍推進プロジェクトに参画した経験を踏まえ、県の職員育成施策に関する助言役を担うなど、さまざまな経験を通じて、人事行政に関してすぐれた識見を有する方と存じております。
 議案第21号は、公安委員会の委員であります小野公代氏の任期が7月2日で満了となりますので、同氏を再任するため、議会の御同意を求めようとするものであります。
 公安委員会の委員は、警察法第39条第1項の規定により、県議会の議員の被選挙権を有する者で、任命前5年間に警察又は検察の職務を行う職業的公務員の前歴のないもののうちから任命することとされており、小野公代氏は、これまでの委員在任中に、教育分野における豊富な経験と高い知見を生かし、適切な指導、意見をいただくとともに、令和元年7月から令和2年7月まで及び令和4年7月から現在に至るまで公安委員会委員長として会務を総理し、中心となって活動いただいており、引き続き、県警察を管理する公安委員会の業務を適正に行うことができる方と存じております。
 よろしく御審議の上、原案に御同意くださいますようお願い申し上げます。
〇議長(五日市王君) お諮りいたします。ただいま議題となっております各案件は、人事案件でありますので、会議規則第34条第3項の規定及び先例により、議事の順序を省略し、直ちに採決いたしたいと思います。これに御異議ありませんか。
   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
〇議長(五日市王君) 御異議なしと認めます。よって、これより議案第20号人事委員会の委員の選任に関し同意を求めることについてを採決いたします。
 ただいま議題となっております議案第20号は、これに同意することに賛成の諸君の起立を求めます。
   〔賛成者起立〕
〇議長(五日市王君) 起立全員であります。よって、議案第20号は、これに同意することに決定いたしました。
 次に、議案第21号公安委員会の委員の任命に関し同意を求めることについてを採決いたします。
 ただいま議題となっております議案第21号は、これに同意することに賛成の諸君の起立を求めます。
〔賛成者起立〕
〇議長(五日市王君) 起立全員であります。よって、議案第21号は、これに同意することに決定いたしました。
   
〇議長(五日市王君) 以上をもって本日の日程は全部終了いたしました。
 本日はこれをもって散会いたします。
   午後5時47分 散 会

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